月夜に照らされた濡れた髪…
指先…
そして、唇。
僕を惑わす全てが、泡となり、海へと消えた。
きっと君は人魚だったんだ。
願わくば、もう一度君に会いたい。
2つ、伝えたいことがあるんだ。
だから僕は待つよ、また君と会える日を…
ずっと、ずっと…。
3か月前 地方の某中学
学生A
涼
放課後の校舎に響く、ドスッという鈍い音。
僕は腹部を抑え、その場にうずくまった。
目の前には、今僕を殴った同級生。
学生A
涼
学生A
そう言ってまた同級生は僕を殴った。
痛くて涙が出そうになるのをグッと堪える。
学生A
学生A
そして彼は僕の髪をつかみ
学生A
と吐き捨て、その場を後にした。
涼
悔しい、痛い、怖い…
でも僕は泣かない。
あんな奴の為に、泣くもんか……
涼
そうしてフラフラと立ち上がり、家への帰路についた。
涼
玄関を開け、声をかけても返ってくることのない返事。
しかし、女性用のヒールはある。
母は居るのに、僕に「おかえり」と言ってくれたことは1度もない。
涼
リビングのドアを開くと、いそいそと化粧をする母が居た。
派手なドレスに身を包み、部屋中に充満させるほどの香水の香りを体に纏っている。
母
涼
母は一瞬僕を見た後すぐに鏡へと視線を戻し、自分の顔へ濃いシャドーを落とした。
涼
母
涼
涼
僕が母の背中へと声をかけた。
その時、一瞬その場の空気が止まり
ガシャン!!!
と大きな音が部屋へ響いた。
目の前では、母がテーブルの上にあった化粧品を全て床へと投げ捨てている。
母
涼
「やばい」と心の中で呟いた。
母
母
母
涼
ヒステリックになった母は止まらない。
どんな言葉が引き金になるかも分からない。
ああ、僕は母と何気ない会話をしたかっただけなのに…。
母
そう言って、母はカバンを持って家を出た。
1人になった部屋で、母が撒き散らした化粧品をただ呆然と見つめていた。
涼
自分に言い聞かせるように呟く。
僕は、学校でも家でも望まれてない。
僕の居場所はどこにあるの?
僕の存在意義はどこ?
僕は必要?
要らない人間…ですか?
色んな感情が、一気に押し寄せ頭がパンクしそうになる。
気がついたら僕は何も持たずに、家を飛び出していた。
走って、走って、何も考えたくなくて…ただひたすら走った。
気が付くと、外は真っ暗で、波の音だけが響いていた。
そして、僕は崖の上まで来ていた。
涼
死のうとしてる?
まあ、いいかも
涼
幸せな時間なんか、きっとおとぎ話の中だけなんだ。
そして、崖っぷちまで少しずつ歩き、ギリギリで立ち止まった。
涼
そう言い、目を瞑ったその時
?
涼
背後から聞こえた、女の子の声。
後ろを振り返ると、そこには1人の同い年くらいの女の子が居た。
黒髪が美しい程月明かりに照らされて、白い肌がより一層輝いて見える。
涼
女の子
涼
涼
女の子
そう言って女の子は僕の胸ぐらを掴み、
女の子
と言って、僕を睨みつけた。
涼
言葉の意味が分からず、僕は問いかけた。
女の子
女の子
女の子は僕の胸ぐらを話、その場に座って月を見上げた。
涼
そう言って僕はその場を去ろうとした。
変な女の子に見守られながらの自殺なんて嫌だと思ったからだ。
女の子
その時、女の子が僕に声をかけた。
少し低めの、消えてしまいそうな小さい声。
女の子
女の子
真っ直ぐに僕の目を見て問いかける彼女に思わずドキッとした。
涼
そう言い残し、僕はその場を後にした。
世界?
本当に死にたいかって?
僕のなにが分かるんだ。
勝手なこと言いやがって。
モヤモヤとした感情が胸に広がる。
しかしそれよりも、彼女の綺麗で、なのに消えてしまいそうな儚い雰囲気に思考は支配されていた。
この日僕は、人生で最愛の人と出会った。
そして、彼女を失うカウントダウンが始まったんだ。
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