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テラーノベル(Teller Novel)

学人

つらいなぁ…

学人

こんな人生なんか

学人

1000倍速くらいで進んで

学人

一瞬でラクになってくれればいいのに

おれはパソコンで 動画サイトのMeTubeを見ながら

適当にMVを流していた

けどなにを聴いても 失恋の悲しみは間断なく

おれの心を蝕みつづけた

学人

一生一緒にいられたはずなのに

学人

4ヶ月ってあんまりだよ…

学人

あっさり振られて

学人

せめてもう一度手を繋いで

学人

もう一度抱きしめたかった

学人

おれはどうすればよかったんだ

そう思っていたとき

あるひとつの動画に

おれの目は釘付けになった

学人

…?

学人

「あなたの人生」?

「あなたの人生」 そう銘打たれた動画があった

再生時間が表示されていない

ライブ配信という訳でもないらしい

学人

…映画かなにかかな

学人

それともおれを憎んでるヤツのさしがねか?

学人

まあなんだっていい

半分の好奇心と 半分の苛立ちで

おれはそれをクリックした

学人

さて

学人

なにがはじまるんだ?

黒い背景 液体がぐちゃぐちゃ動く音

赤黒い液体 真っ白な光

「元気な男の子ですよ!」

泣き声

涙を流して喜ぶ 父母の顔

それはもう随分前の 若々しい両親の姿だった

学人

これは…

おれは概要欄に飛んだ

そこには箇条書きで このビデオの概要が書かれていた

これはあなたの目を通して 撮影された動画です

動画の開始時点は あなたのビデオのはじまり、

動画の終了時点は あなたのビデオのおわりです

この動画は倍速再生が可能です

倍速再生の倍率に上限はありません

なおシステムの都合上 倍速を低速に変更することは できません

おれは少し寒気をかんじて 振り返る

誰かが俺のことを撮影してはいないかと 思ったのだ

しかしそこには誰もいない

おれは再びパソコンに向き直る

学人

自分の人生…

画面に映し出されたのは これ以上なく嬉しそうにしている 父と母だ

もしかすると

俺はこのときがいちばん 幸せだったのかもな

そう考えて かえって悲しくなる

学人

そうだ

学人

倍速に出来るんだっけ…

おれは動画の設定画面を開いて

「速度×2」をクリックした

すると

動画の中のすべてが ちゃかちゃかと早送りで進んだ

まだまだうんざりするほど

「幸せなシーン」は長い

学人

…爺さんも婆さんも

学人

むかしはこんなだったな…

幸せな自分の過去を見ても 現状の自分には受け入れられず

おれはさらに 「倍速×2」をクリックした

幼稚園の入学式

積み木で遊ぶ子どもたち

友だちの家でゲーム

学人

なんだよ…

学人

たしかにリアルにできてるけど

学人

退屈だなあ

学人

ん?

学人

でもおれの人生ってことは

学人

沙綾といるシーンが

学人

収められている!?

そうだ

いまの自分にとって いちばん大切な元カノの沙綾

そのシーンにたどり着けば

きっとあのシーンも見られるはずだ

学人

倍速、倍速…

学人

倍速

学人

とにかく倍速…

おれは 沙綾と身体を重ねた場面で

もう一度彼女と目を合わせて 「追体験」したかった

小学校に入学

10歳の誕生日

着慣れない制服

受験勉強

早送りですすむ映像は だんだんと現在に近づいていた

そしてとうとう

高校に入学したおれが 沙綾と出会うシーンまできた

学人

ああっ

学人

これだ…!

おれは倍速を止めるべく

「標準速度」を選択した

「倍速を低速に 変更することはできません」

学人

え?

学人

なんで!!

沙綾といたシーンも 一瞬で終わってしまった

暗転

自分の部屋

画面に写ったおれの顔

学人

なんで…

画面に写った顔は 驚愕した表情のおれ そのものだった

学人

なんでだと思う…?

突如画面の中の顔が そう呟いた

学人

えっ

学人

おまえはなにもかも

学人

焦って物事を進める

学人

だいたい動画の説明文だって

学人

よく読まなかったんだろう?

学人

この動画の倍速は

学人

元に戻せないんだよ

おれは予期しなかった事態に 恐ろしさを感じながらも

学人

ど…

学人

どうするんだよ?

そう聞き返した

学人

おれの人生

学人

これで終わりなのか…?

学人

ああ

学人

そこだけは覚えたか

学人

お前の「ビデオ」はここで終わる

学人

人生が終わるわけじゃないから

学人

安心するんだな

学人

ビデオが終わる…?

学人

ビデオってなんだよ

わけの分からない 彼の言葉に

おれはだんだん苛立ってきた

学人

やれやれ

学人

「カメラ」を無効にして

学人

おまえのビデオを文字通りおわらせる

学人

それだけだ

そう言うと画面の中の学人は

左手の指で左目の瞼を おおきく開いた

学人

この動画をこれ以上続けないためには

学人

こうするしか手がなくてね

彼の右手には ボールペンが握られており

カチン、と 芯が出た

彼はそれを画鋲でも刺すように 簡単に左の眼球に突き刺した

学人

いぎぎぎいいいいい

学人

視神経の切断は痛いからねぇ

学人

ぐぐぐげげぐっ

串に刺さった みたらし団子のような眼球が 白い腺を引いて

血液をドポドポと垂らしながら えぐり取られた

彼はペンから眼球を引き抜くと ついで右目の目玉を潰しにかかる

学人

ひひひ…あはははは……は……

同じように眼球をゆっくり引き抜くと 眼孔の奥部と眼球を繋げている腺を

両手で引っ張った

学人

いぎぎ…ぎぎぎっ………

ぶちんと腺が切断され

両目を失った男は

ぬめぬめと輝く人差し指で

画面越しに俺を指さした

学人

大丈夫…

学人

両目が無くても

学人

病院に行って処置を行えば

学人

死にはしない…

学人

あはははは…

学人

つぎはおまえの番だ

学人

あははははははははははは…

おれはもう見ていられなくて

震える両手で画面を閉じた

学人

なんだよ…

学人

なんでなんだよ

すると左手が震えだし

おれの意思とは関係なしに動きだした

その親指と人差し指が

左目を大きく開いたのだ

学人

やめろ…

学人

やめろー!!

ガクガクと震える右手は ボールペンを握り

しばしの膠着状態のあと

勢いよく目玉に向かって 飛び込んできた

Fin. 最後までお読みくださり ありがとうございました

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