主
主
主
主
前のノート見た? 返事欲しいんだけどなあ。
水曜日の選択授業で、さとみ君からの、ノートを切り取ったメモを見つけた。
それを見た瞬間、約一週間悩み続けている問題が僕の背中に乗っかるのを感じた。
ええ、見ましたとも。
その日のうちに、間違いなく手紙を受け取って。内容も確認した。
だからこそ返事ができないのだ。
そんなことさとみ君は知るはずもない。
僕が無視してるか、ノートに気づいてないか、どちらかだと思ってるだろう。
赤城 莉犬だろ?
僕は莉犬じゃない。それをいまさらなんて伝えたらいいのだろう。
“友達からなら”なんて返事をしてしまったのに、“人違いです”だなんて。
とてもじゃないけど言えない。かといって知らんぷりして、このままやり取りも続けれない。
どうしてこうなったんだろう。
さとみ君からの手紙には、初めから宛名がなかった。
その時に聞けばよかったんだ。
“僕宛のものですか?”って。
ちゃんと確かめてたら、こんな状況にはなってないはずだ。
なんで、何の疑問も抱かずやり取りしてしまったんだろう。
今思えば、始めて手紙を受け取った日、靴箱で話しかけようとしてきたのは、僕が莉犬の友達だからだろう。
莉犬を見ていればいつも一緒にいる僕のこと知っててもおかしくない。
あの時さとみ君は。莉犬のことを聞きたかっただけに違いない。
放送室の前でぶつかったときにあんなに顔を赤くしたのは、ただ単に手紙がばれたと思っただけなんだ。
ころん
ぽつりと、誰にも聞こえないくらいの声でつぶやいた。
キーンコーンカーンコーン🔔
チャイムの音ではっと顔をあげると、先生が
先生
と、チョークを置いた。
気が付いたら、今日も一時間の授業が終わってしまった。
ノートを受け取ってから、どの授業もまともに受けてない。
莉犬
はあーっとため息を地面に落としていると、莉犬が心配そうに声をかけてきた。
悩み過ぎて体が重い。けど、そんなこと言えるはずない。
ころん
そういってそら笑いを見せた。
あれから、莉犬の顔を直視できない。
さとみ君とのノートのことを思い出してしまうので、つい目をそらしてしまう。
席を立って放送室に向かおうと出ていく足を止めて、ちらりと振り返る。
僕がさっきまで座ってた席は、僕の荷物をまとめてくれている莉犬が座っている。
……なんて馬鹿なんだろう。僕。
時間が巻き戻ればいいのに、と現実逃避しながら放送室でご飯を食べた。
今は莉犬と一緒にいると、気持ちがどんどん沈んでしまうので、放送室で誰にも気を使わずに過ごせる時間はホッとする。
憂鬱な気持ちが少しでも吹き飛べばいいのに、と、今日はいつもよりも気分がスカッとするようなボカロを流した。
今日受け取ったノートの切れ端と、まださとみ君しか書き込んでない小さなノートを取り出し見つめる。
“わかった!これから、よろしく”
この返事を書いたとき、彼はうれしかったのかな。喜んでたのかな。
一方的な返事だったのに、彼は受け入れた。
それくらい好きだったんだろう。
好きなんだろう。
莉犬のことが。
莉犬だったら納得だ。
何の疑問も抱かない。
そもそもおかしいと思ったんだ。
あのさとみ君が僕を好きになるなんて。
さとみ君が莉犬を好きになったきっかけは分からないけど、僕にあのしわくちゃのラブレターを残すことになった理由は何となくわかる。
選択授業のあと、莉犬は僕の使っていた席で僕の荷物をまとめて教室に持ち帰ってくれる。
さとみ君は教室に戻ってきたときに、その様子を見たのだろう。
僕は放送委員の仕事があるため授業が終わるとすぐに教室を出ていたから、さとみ君とすれ違ったことがない。
授業後の様子を見れば、誰でも、あの席を使ってるのが莉犬だって思うはず。
ころん
机にうつぶせになって、一人ボヤく。
こんなことになるなら、手紙を無視すればよかった。
初めてのラブレターにちょっと調子に乗ってしまった。
あの表情や態度が僕に向けられてるものだと思うと嬉しかったんだ。
現に今、誤解してしまったこと、させてしまったことに悩む気持ちもあるけど、落胆してる自分がいる。
ころん
ここ一週間同じことを思ってる。
でも、いつまでも逃げるわけにはいかないと毎日何度も決心して、返事を書こうとペンをとるが、どうしても書き込めない。
しばらくしてから、ぱたんとノートを閉じた。
きっと、ノートに書こうと思うからダメなんだ。
さとみ君だ用意した、莉犬とのやり取りのためのノートに、“僕”が書き込むわけにはいかない。
じゃあどうすれば、と考え、今日受け取ったメモを手にして、ゆっくりと返事を書き込んだ。
ごめんなさい、勘違いしてました。 僕は莉犬ではありません。 このノートもお返しします。ごめんなさい。
心が痛む。
ひりひりと痛んで無性に泣きたくなる。
新しいノートにこのメモを挟んで閉じた。
ころん
聞こえるはずないのに、小さくつぶやく。
これを見たら、さとみ君はひどく落胆してしまうのではないだろうか。
心の中でもう一度、ごめんなさい、と謝罪した。
主
主
主
主
主
コメント
11件
フォロー失礼します
投稿されてたの気づかなかった…!!私としたことが(誰) 修学旅行お疲れ様でした!✨とっても可愛いです⸜❤︎⸝
シンプルに好きです