十二単
で、のこのこと帰ってきたと。
某閉店後のラウンジバー。 もはや時刻は早朝と呼ばれる夜の終わり。 ボックス席を囲む彼らの姿があった。
九条
絵本を奪われて、僕達は所有者としての能力も失った。
九条
律儀にここに顔を出す義理もないんだけど。
二ツ木
まぁ、思っていたより相手が強大だったから、わざわざ忠告に来てあげたんだけど。
伍代
そんな怖い顔をすんなよ、十一月二十九日(つめづめ)の旦那。
十一月二十九日
あ?
十一月二十九日
お前、いつからそんな口を俺に叩けるようになった?
十日市
ちょっとツメ!
私のお店で暴れたりしないでよ!
私のお店で暴れたりしないでよ!
九条
十日市(とおかいち)さんも商売は順調のようで。
九条
これも絵本のおかげですかね。
十二単
それで、お前達は憎まれ口を叩きに来たのか?
二ツ木
だから、忠告に来たって言ってるじゃん。
十二単(じゅうにひとえ)理解力なさすぎ。
十二単(じゅうにひとえ)理解力なさすぎ。
十一月二十九日
負け犬共が揃いも揃って仲良く、しかも俺様達に忠告だぁ?
九条
そうだよ。
わざわざ来てあげたんだ。
わざわざ来てあげたんだ。
九条
僕達はもう能力を持っていないから、ご自慢の絵本で僕達を喰うこともできない。
九条
それとも、殴ります?
九条
それならそれで、警察呼ぶだけですけど。
十一月二十九日
ちっ、負け犬共が!
十二単
落ち着け。
十二単
そもそも、俺達は仲間でもなんでもない。
十二単
ただ【ストーリーテラー】の元に集まった者同士――というだけなんだから。
十二単
それで二ツ木。
十二単
伍代と九条はともかく、お前まで追いやった相手というのは?
二ツ木
一宮って男と七星って女。
九条
一宮はなかなかに手強い相手でしたね。負けはしましたが、僕と互角に渡り――。
十日市
九条と互角って時点で、かなりの雑魚じゃない?
二ツ木
いえ、あの人は色々な意味で警戒したほうがいいと思う。
二ツ木
特に七星って女と組ませないほうがいいよ。
伍代
あいつら、今何冊持ってんだ?
伍代
えーっと、ざっと7冊か?
十一月二十九日
はぁ?
7冊?
7冊?
十一月二十九日
半分以上、あっちに持って行かれてるじゃねぇか。
十二単
となると、今現在行方が分からなくなってる絵本を、なんとかしてこちらのものにしないと。
十日市
戦力的には劣るけど、こっちもまだ3人いるわけだし、なんとかなるんじゃない?
十一月二十九日
それか、どっかの誰かさんみたいに、無差別に所有者を殺して回るか?
十日市
やめてよ、その話。
十日市
怖いんだから。
伍代
まぁ、俺達は絵本を持ってないから、その異常な奴から付け狙われることもなくなったわけか。
伍代
いっそのこと、絵本なんて持ってないほうがいいんじゃないか?
十一月二十九日
負け犬は黙ってろよ。
伍代
――てめぇ、さっきから黙って聞いていれば、人のことを負け犬負け犬と。
十一月二十九日
事実だろ?
十日市
だーかーらぁー。
私の店で揉め事はやめてって。
私の店で揉め事はやめてって。
九条
あなた達がまだ彼らに遭遇していないだけです。
九条
遅いか早いかの問題かもしれませんよ。
十日市
お前も煽るんじゃねぇよ!
この九条ネギ!
この九条ネギ!
十一月二十九日
ちっ。お前ら、もう相手の調べはついてるんだろ?
十一月二十九日
その一宮と七星ってやつは、どこのどいつだ?
十一月二十九日
俺が一人でやってきてやるよ。
二ツ木
そんなに感情的になっている時点で無理だと思う。
二ツ木
簡単に勝てる相手じゃないから。
十二単
とにかく、これ以上絵本を奪われては、さすがに【ストーリーテラー】に申し訳が立たない。
十二単
伍代達は行方が分からなくなっている絵本を探せ。
十二単
絵本の所有者ではなくなったお前達なら、またあの本屋に出会えるかもしれない。
十二単
十一月二十九日は勝手な行動をするなよ。
十二単
お前が暴走して勝てる相手じゃなさそうだからな。
十二単
もし、こちらから攻め込むのであれば、俺、十日市、十一月二十九日の総力戦で行く。
十二単
後、例の所有者を殺し回ってるやつについては、いまだに情報がはっきりしていない。
十二単
各自、夜道には気をつけろ。
十二単
極力、夜の外出は避けろ。昼間でも1人にならないようにしたほうがいい。
十日市
それ、夜のお店の経営者に言う?
十日市
ねぇ、伍代か九条のどっちか暇でしょ?
私のボディーガードしてよ。
私のボディーガードしてよ。
九条
申し訳ないですが、十日市さんをそこまでして守らなければならないような義務――僕にはありませんから。
十日市
はぁ?
レディーに対して失礼じゃない!?
レディーに対して失礼じゃない!?
伍代
ほら、店で揉めるなって話だろ?
十一月二十九日は手のひらを拳で叩いた。
十一月二十九日
よっしゃ、いよいよ戦争をおっ始めるか。
十二単
お前は少し血の気が多すぎる。
十二単
俺は仮の話をしているだけだ。
一宮達を狙う不穏な影と、3人の絵本所有者。
彼らの預かり知らぬところで、確かに事態はゆっくりと動き出していた。







