テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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見知らぬ本屋と12冊の呪われた絵本

第47話 - 幕間　【13】

2025年01月12日

#ミステリー

#心理戦

#デスゲーム

#推理

#第4回テノコン

日比野響

一宮　自宅

普段ならば寝るだけのために帰ってくる自宅でさえ、なんだか酷く懐かしい気がする。

こうして、自宅でゆっくりするのも久方ぶりだった。

一宮

(そろそろ有給を突っ込むのも難しくなってきたな)

一宮

(この絵本の騒動がひと段落するのが先か、それとも俺が職場に居づらくなるのが先か――)

現実的な問題などみたくはないが、しかし無視するわけにもいかない。

一宮

(小さい頃はヒーローとか憧れたけど、今さら考えると大変だよなぁ、あれ)

一宮

(いつどんな時でも敵が出現したら戦わないといけない。休みが取れていないだとか、その日は大切な会議があるとか関係ない)

一宮

(かと言って戦わないわけにはいかないんだけど、それに対して対価があるわけでもないし、賞賛なんてほとんどされない)

一宮

(誰が好きこのんでやるんだろう)

ここしばらく、絵本のことで奔走していたせいか、いささか気持ちが荒んでいたらしい。

そして、１人になった途端襲ってくる後悔。

八橋が死んでしまった事実、それに対して自分はやるべきことができたのかという自責の念。

一宮

(いや、考えるのはやめよう。今はなにもせずに体を休めることだけ考える)

二ツ木の襲来に対応するため、七星の元へと駆けつけた一宮。

結局、諸々のことが終わって帰宅したのは午前３時すぎのこと。

アラームもかけずに床に入ったのだが、目が覚めたのが正午過ぎだ。

人間というものは、意外と長く眠ることはできないらしい。

そこからベッドの上で、時にスマホの画面を眺めたり、ぼんやり天井を眺めたりを繰り返しながら現在にいたる。

一宮

(もう少し寝てみるか……)

改めてベッドに横になった矢先のことだった。

インターフォンが鳴る。

一宮はベッドから起き上がると、家内にあるインターフォンへと向かった。

カメラがついており、外が確認できるタイプのものだ。

一宮

はい……。

インターフォンに出ると同時に、外の景色が映し出される。

そこには七星と……二ツ木の姿があった。

一宮

(七星はまだしも、なぜ二ツ木まで？)

七星

私だ。

七星

少し情報を共有しておきたい。

七星

本来ならメールかそこらで済ませても良かったんだが、私のところに珍客が来たから、ついでに連れて来たんだ。

一宮

だから二ツ木が一緒なのか。

インターフォン越しにやり取りは続く。

二ツ木

別に私は独身男性の部屋が散らかっていようが、やや女子に見られては困るようなものが部屋にあっても困らないから、今から片付けるとか面倒なことは言わずに、さっさと中に上げて。

一宮

と、とんでもないこと言ってくれるな。

一宮

でも、せめて着替えくらいさせてくれよ。

二ツ木

着替えならよし。

二ツ木

それ以上のロスは認めない。

一宮は二ツ木のペースに翻弄されながらも、急いでそれなりの格好に着替える。

顔を洗って、最低限のことをすると、玄関に向かった。

七星

すまんな。事前に連絡を入れてやれば良かったんだが。

一宮

少し散らかってるけど上がってくれ。
今、お茶を淹れる。

そう言うとキッチンに向かう一宮。

お湯を沸かしつつ、七星に問う。

一宮

今日は爺やさんは？
ちゃんと送ってもらったか？

しかし返事をしたのは二ツ木のほうだった。

二ツ木

爺や、私が乗るのに合わせて、クッキーと紅茶を用意してくれた。
あいつ、できるタイプのやつだ。

一宮

な、なんというか相変わらず失礼というか……。

一宮

それで、どうして二ツ木は七星のところへ？

七星

色々と教えてくれたんだよ。

七星

私達を狙っている連中がいることやらな。

七星

そして、その人数が３人だということもだ。

一宮

ん、それってまさか……。

七星

あぁ、これで全ての絵本が出揃うことになる。

七星

三富が所有していた白雪姫と、八橋が所有していた北風と太陽は行方知らずだがな。

七星

もし、今度仕掛けられたことがあったら、それが最期の戦いになるかもしれない。

一宮

なるほど……でも、どうしてそれを二ツ木が？

二ツ木

いや、暇だったから。

二ツ木

もう私、絵本の所有者でもなんでもないし、別に【ストーリーテラー】の指示に従う義務もないからね。

一宮

その【ストーリーテラー】ってのは？

七星

どうやら伍代をはじめとして、数人を取り仕切っている人物がいるらしい。

二ツ木

一宮のところに行った陰キャ……九条も【ストーリーテラー】の指示で動いてた。

二ツ木

間接的だけど伍代もそうだね。

二ツ木

それで、一宮達を狙ってるやつら３人も【ストーリーテラー】の差し金。

七星

な、少しずつだが全貌が見えてきたと思わないか？

一宮

その【ストーリーテラー】ってやつが全ての親玉ってやつか。

一宮

一体、どんなやつが――。

二ツ木

え？

二ツ木

２人とも知ってるじゃん。

二ツ木

四ツ谷。

七星

え？

一宮

え？

二ツ木

いや、だから四ツ谷だって。

二ツ木

【ストーリーテラー】は四ツ谷。

二ツ木

近くで私達がやり合うのを見たくて、所有者に紛れ込んでたんだって。

二ツ木

この前、私と勝負した時にそう言ってた。

二ツ木の言葉と共に、コンロにかけていたケトルがけたたましい音を上げた。

四ツ谷

あーあ、一宮達とつるむのも、それなりに面白かったんだけどな。

四ツ谷

どっかの誰かさんが、ホルダーを殺し始めてくれたおかげで、俺の計画が狂った。

アルバイト風店員

まぁまぁ、そう言わずに。

アルバイト風店員

本屋なのに本がないってのも、なんだかおかしな話だろ？

アルバイト風店員

だから、ほんのちょっとだけ、在庫があったほうがいいかなぁと思ってね。

四ツ谷

そんなこと言ったって、そんなに客来ないでしょうよ、ここ。

アルバイト風店員

まぁ、俺が選んだ人間しか入れないからね。

四ツ谷

このまま終盤まで行って、そこでやっと俺の正体を明かしてやるつもりだったのに。

アルバイト風店員

仕方ないだろ？

アルバイト風店員

やってしまったものは。

四ツ谷

よくも人を殺しておいて、そんな涼しい顔をしていられるな。

四ツ谷

さすが生前は狂った芸術家ってだけのことはある。

四ツ谷

あっちの世界も、このイカレた絵本も、全部あんたが作り出したものだ。

アルバイト風店員

その世界は常に混沌としていなければならない。

アルバイト風店員

あの絵本はな、人間の欲望――汚いものを喰って成長するんだよ。

アルバイト風店員

絵本は常に人の欲望の中になければならない。

四ツ谷

そもそも、あの馬鹿正直な一宮を選んだのが、間違いだったな。

四ツ谷

十三形……。

十三形

ま、そういうわけだから、ちゃんと絵本を解放してやってくれよ。

十三形

そうすりゃ、俺が所有者を殺して回る必要もなくなる。

十三形

な、頼んだよ【ストーリーテラー】……。

四ツ谷

言われなくても分かってるんだけどね。

四ツ谷

さてさて、いよいよ大詰めだぜ。

四ツ谷

一宮、どう出る？

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