テラーノベル
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それは、ほんの一瞬、通学路の風景が“歪んだ”ように見えた瞬間だった。
空が、音もなくひび割れた。 家々の影が、にじむように広がった。 見慣れたはずのアスファルトの地面が、ざらざらと紙のようにめくれ、真っ黒な何かがその下から覗いた。
そして——
狐面の存在
声が、どこからともなく降ってきた。
ナナセが振り向くと、そこにいたのは、狐面の存在だった。
夕暮れの光の中で、白い狐面が不気味に鈍く光る。金色の瞳が面の内側からのぞいているように錯覚する。着ているものは、どこか時代劇で見たような狩衣だが、ひどくくたびれていた。異質なものなのに、不思議とそこに“いるべき存在”のような馴染みを感じさせる。
ナナセ
狐面の存在
狐面は、くすくすと笑う。
狐面の存在
ナナセ
ナナセは口元をひきつらせる。夢の中のような、現実味のない言葉だった。
ナナセ
狐面の存在
ナナセ
狐面の存在
狐面はナナセの背中へ目を向ける。いや、正確には、その“印”へ。
狐面の存在
ナナセ
ナナセの中で、言葉にできない恐怖と懐かしさが交錯する。
狐面の存在
狐面は声の調子を変えた。嘲るような調子が、急に鋭く、切り裂くように変わる。
狐面の存在
ナナセの背中に、じわりと熱が走った。
狐面の存在
狐面の姿は、次の瞬間、掻き消すようにして消えた。
——地面は、空は、街の音は、いつも通りの世界に戻っていた。
だがナナセの背中に、確かに熱は残っていた。
そして、制服の袖口からは、小さな紙切れがはらりと落ちた。
そこには、見覚えのない一筆書きの筆文字で——
《最初の怪異:喪女ノカカシ》
とだけ、書かれていた。
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