月
なに…それ
陽会長
…ん?
月
なんで、笑うの?
陽くんは、目を逸らして少し俯いた
陽会長
陽会長
…笑った方が…いいかなって
月
そんなわけ、ないじゃん…
少しずつ、崩れていく
陽くんを覆ってしまった笑顔のポーカーフェイス
月
ねえ、陽くん
月
…お母さんと何か、あった?
陽会長
…何かって?
月
それは陽くんにしか分かんないけど
月
…でも陽くんは苦しそうだよ
陽会長
…それでいーんだ
月
!
ゆらりと視線をあげた陽くんとは
目が合ってるのに、合ってないみたいで
噛み合わない視線がとても居心地悪くて、気持ち悪かった
そしてそれはじりじりとわたしを焦らせる
月
…どういう、こと?
陽会長
ごめん、気にしないで
陽会長
このことはそれだけだよ、ただ、死んだってだけ
陽会長
それ以上なにもない
月
なんで?隠してるの分からないとでも思うの?
陽会長
でも俺が何もないって言うんだからそう思うしかないでしょ?
月
そうだけど、聞きたい
月
陽くんが苦しいならわたしもいっしょに苦しむ
陽会長
必要ない、意味わからないし
月
わかんなくていいからひとりで抱えないで!
月
わたしの前から消えるとき、何かあったんじゃないの?
陽会長
引っ越したよ、お母さんが死んで、お父さんがずっと誘われてた本社の方に行くことにした
陽会長
それに俺も付き添った
月
そんなことじゃない、そこに陽くんの気持ちは?
月
客観的なことは聞いてないよ…!
陽会長
…聞いてどーしたいの月ちゃん、落ち着きなよ
月
何かできるならしたいの
月
陽くんのため…いや、もしかしたら自己満足かもだけど…!!
陽会長
なんで?俺のこと好きじゃないんでしょ
月
っ好きだよ!
陽会長
陽会長
…そっか
月
…ぁ
陽くんのわたしを見る目が、俯瞰したような
一線引いたような、そんな雰囲気を感じさせた
その瞬間、わたしはついぶつけてしまった
月
(…ばか)
陽会長
…ごめんね、月ちゃん
いつものふわっとした、甘い優しい声が目の前で響く
パッと顔を上げると陽くんはわたしの目前で言った
陽会長
だったら俺、もう月ちゃんとプライベートで話すのやめる
月
…は?
月
だったらって、何…?
月
なに子どもみたいなこと言ってんの!?陽くんが弱いことなんてずっと知ってるよ!
陽会長
陽会長
…俺が、弱い…?
月
そう、ずっと!
陽会長
…ふっ、そう……ん、仕事終わった
月
(なんで、笑っ───…え)
陽くんはわたしを置いて生徒会室を出て行った
わたしが顔を上げたときにはもう、陽くんは笑ってなんていなかった。
陽会長
(ほんとにごめんね、月ちゃん)
陽会長
(月ちゃんの言うことは…それから俺が弱いってことは)
陽会長
(笑ってしまったくらいに、自分で1番分かってる)
陽会長
(…でも───)
河本くん
あ、会長…あれ
河本が、燐咲は?とでも聞きたげな顔をする
陽会長
荷物運びおつかれさま、ばいばーい
河本くん
あ、はあ…
陽会長
(でも、きっと話すことは苦しみを分けっこするのと同じだ)
家に向かってとぼとぼと歩くと上から声が聞こえる
風太センパイ
あれー?月ちゃんだ
月
!風太センパイ
風太センパイ
今帰りー?
月
はい!
少し前に言ってくれた言葉を思い出し、わたしはじっとセンパイの目を見る
だから相談くらいならいつでも乗る、またおいで
月
(ほんとは椿ちゃんに1番に言おうと思ってたんだけど…)
月
(風太センパイにも、聞いて欲しい)
風太センパイ
?そんなに見つめてどーしたの
月
センパイ、明日ってお時間ありますか…?
椿
え?相談?
椿
いいよいいよー!もちろん!
月
ありがとう!じゃあ放課後────…ってあれ?
月
椿、それ誰のノート?
椿
…あ、やば!さっき借りたの間違えて持ってきちゃった
月
え?
椿
翔ー!
桐村くん
あーい〜?
椿
ノート、返してなかった
桐村くん
んあー忘れてた、終わったん?
椿
終わった終わった、ヨユーよもう
桐村くん
ははっ、じゃあ次は自分でやれよなー?
椿
げ、むりむり!!
桐村くん
うわっやる気さえないとかやばー
桐村くんが駆けていくのを見てから言う
月
…椿って
月
ほんとに誰とでも仲良いね…わたし桐村くんと話したこともないのに
感心してそう言うと
椿はからっと笑った






