この作品はいかがでしたか?
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あいつに初めて会った日
その時は夜中で、真っ暗になっていて
満月が空の上に昇っていた日の事だった。
誰もいない海で、俺は呆然と立っていた
生きる意味も見失い、何故俺がここにいるかすら分からなくなっていた俺は
その海を、見ていた。
特に意図的に来た訳ではない。
なにかをしようとして来た訳ではない。
だけど、気づいたら俺は沈んでいた。
……身も、心も限界だった
俺は静かに目を閉じて、体を海の波に任せ、
そして意識を失った。
__ダメだよ、死んだら!!
きっと、俺はこの時を忘れない。
この日のことを、この夏のことを。
俺はきっと、一生忘れることは無いだろう。
そんな大きな出来事が、
俺の人生を大きく変えたこの出来事が。
未だに、今生きる俺の記憶にこびり付いている。
ラン
オボロ
ラン
オボロ
ラン
オボロ
そう言って手を口に持って来て、透き通る高い声でクスクス笑う姿はとても美しかった。
こいつは本当に綺麗と言った言葉で表せないほど美しかったんだ。
下半身は海に沈んでおり、今は俺が岩場に居て、その岩場に彼女は身体を寄せている感じだ。
海にはキラキラ輝く物があった。
彼女のすぐ真下に。
青と、緑が混じった……鱗のようなものが。
そこにはあった。
ラン
オボロ
オボロ
ラン
オボロ
オボロ
そして彼女は岩場に手をつき、下半身を乗せた。
俺は思わず目を丸くしてしまう。
だって、そこには……、
オボロ
そう言って彼女はにやっと笑った。
ラン
オボロ
落ち着いて落ち着いて!!!
と慌てる彼女を前に俺は目を限界まで見開いていた
……『人魚』
そのファンタジー世界でしか聞かない名を、俺は現実で見て、……聞いてしまった
嘘だと思う、だが。
満月に照らされて光っている鱗を目の前に、俺は嘘だなんて思えなかった。
彼女は真珠のアクセサリーを身につけ、
柔らかそうな布を身にまとい、
そしてほんのり水色が混じった綺麗な長い白い髪を風になびかせて、
そこに、俺の横に人魚は座っていた。
オボロ
名前、そして正体を聞いて身を固まらせている俺を目の前に彼女は慌てすぎているほど慌てていた。
俺と同様、目を大きく見開いている。
目を素早く瞬きし、その度に長いまつ毛がよく見える。
オボロ
ラン
オボロ
身の危険を感じた俺は何となく動くことに成長した。
そんな俺を見て彼女はまた笑った。
オボロ
ラン
オボロ
ラン
オボロ
ラン
オボロ
初めは気品のある、礼儀正しい人……いや人魚だと思っていた。
だが、話し始めるとそんなことなかった。
優しくて、元気で、明るくて、テンションの上がり下がりが激しく、場面の切り替えできる。
そんな奴、簡単に言えば本当に良い奴だった。
まるで、いつかの“あいつ”のように。
明るく振る舞うが、決して貶したりとかはしない。
俺の事情を話すと、綺麗事はいわないで、
ただただ静かに聞いてくれた。
俺が1番求めていたことを人魚はしてくれた。
だから、居心地がよかった。
こいつと話す度に、とても安心するものがあった。
俺が暗殺者だと言っても、こいつは怖がらなかった。
人を殺したと言っても、唯一の相棒を拒絶したと、なんと言っても。
『お疲れ様』
その言葉が俺に響いた。
オボロ
オボロ
と笑いながら言う人魚に、最もだと思う。
かれこれ通い始めて数ヶ月
暗殺の仕事が終わったらここへ来て、とほぼ毎日それを繰り返していた。
もしかしたら俺は、俗にいう依存、というものをしているのかもしれない。
初めてだった。
“あいつ”以外にこんなに大切に思ったことは。
人のことを大切に思える心があったんだなと俺は思う。
暗殺者として大量の人間を殺してきた。
何人の人を、助けてと嘆く子供まで暗殺してきた俺にとって、心はないと同然だった。
これが能力を持った人間の宿命、
そう何度も何度も言い聞かせて人を殺めていった
今思えば心はもう壊れていたのかも知れない。
いや、元々壊れていたのかもしれない。
両親が火事で死に至り、傷つけないために大切な、唯一無二の俺の希望から離れ
『能力』という物のせいで人生が無茶苦茶になって
……きっと、全てを諦め、絶望し…
この数ヶ月は、俺を元通りにさせるには長いくらいだった。
ちゃんと“人間”と呼べるくらいの人間の機能は人魚によって戻ってきていた。
……本当に人魚を信頼していたのかなんて俺にも分からない。
もしかしたら人魚を“あいつ”に当てはめているのかもしれない。
だけど、……人魚の事が大切、と呼べる
その俺の気持ちは本物だった。
だからこそ
あのことは本当に、_____
オボロ
ラン
ある日の出来事。
いつも通りあいつのいる、人通りの少ない海に、響き渡る音がひとつ。
高く、透き通り、響き渡るあいつの歌声。
本当に綺麗で、幻想的で、でも少し寂しげでそんな歌声。
あいつの座る岩場の上にある三日月。
三日月が人魚を照らし、その光が尾びれに当たりキラキラ輝いていて、光っていて。
そして長い、艶のある白い髪が、柔らかそうな水色の服が。
風によって靡いていた。
俺は、これ以上に美しい景色を見たことがない。
そう確信して言えるほどだった。
歌声が昼よりかは暗い、この空間に溶けていった
歌い終えると、彼女はその長い髪を耳にかけ
少し月を見上げて、俺の方向に、…後を振り返らず、言葉を続けた。
オボロ
オボロ
そう言って彼女は俺の方向に振り向き
オボロ
その問いに俺は迷いなく頷いた
彼女はいつのまにか消えていった。
「私が近くにいるとあなたが危険な目に遭う」
っていう一言だけを添えて。
恋とか、そういうのではなかったけれど
……本当に辛くて、悲しくて、…許せなかった
大好きで、ずっと一緒に居て、
私に「暖かさ」を教えてくれた子で。
そんな彼女の、……
死体を見つけた。
見つけて触ったら、海の泡となって消えちゃったんだけど、ね。
まぁ、人魚が死んでいたなんて今更なんだけど……
今となっては私の知る限り、人魚は私一人。
だけど、どこかで生きてるって期待してた分
辛くて、辛くて、辛くて
心が裂けそうな気分になった。
そんなに多くは語らない。だけど
オボロ
そう人魚が静かに告げた直後。
俺の背後に気配が現れた
ラン
いきなり現れた気配に困惑する。
即座に後ろを振り向き、もっと困惑する。
そこには武器、……ナイフ、剣、斧を持った大柄な男達が大量にいた。
もう一度彼女の方を見ると、彼女は諦めたような、優しい表情をしていた。
「行け」
その真ん中にいた男が発した言葉により、男達があいつに向かって武器をふり投げた。
男どもと人魚に挟まれている俺はそれに巻き添えを受けそうになる。
だけど、そんなこと考えている暇はなかった。
呆然としていて、反応に遅れた。
凶器は人魚を目掛けて大量に降り注がれていた
それに巻き添えにされ、数本の凶器が俺の身体に刺さりそうになった時に
一つの、聞き慣れた声が俺の耳に響いた。
『危ないっっ……!!!!』
咄嗟に目を瞑った俺は痛みを感じなかった。
何かに刺さった音は聞こえた。だけど
俺に一切痛みはなかった
何かの液体、...血らしきものは俺の身体についている。
だけど、痛みがなかった。
...死ぬ直後になると痛みを感じなくなるのだろうか
そんな事を考えるも、目は開けられそうだ
少し疑問に思いながらも俺は目を開ける
すると、そこには
信じられない光景が広がっていた
オボロ
目の前に血濡れで横たわっている、毎日、いつも見てきた彼女。
背中に数本の凶器が刺さっており、苦しそうに吐血を繰り返していた。
真っ白で透き通った肌は赤く染まり
青と緑で先程キラキラ輝いていた尾にひとつ凶器が刺さっており、
そんな状態で俺の事を抱きしめていた
オボロ
そんな状況の中でも笑いながら、掠れ掠れの声で俺に告げた。
ラン
目を見開き、呆然とする俺に彼女は告げた。
オボロ
オボロ
えへへ、と笑いながら、話すことも辛いだろうに笑いながら話す彼女に俺は思わず言葉を漏らす。
ラン
ラン
オボロ
先ほどの明るい笑顔を引っ込め、真剣な表情で告げた
オボロ
ラン
オボロ
ラン
オボロ
そして先程の優しい笑みを浮かべて
オボロ
オボロ
オボロ
オボロ
オボロ
オボロ
オボロ
ラン
オボロ
オボロ
オボロ
オボロ
オボロ
オボロ
オボロ
ラン
オボロ
オボロ
ラン
額に汗を浮かべて一生懸命に言葉を紡ぐこいつに俺はそうだと告げた。
人魚は一度きょとん、とそしてまた笑った
『ほら、嬉しい』
と口パクで言ったような気がした。
ラン
オボロ
ラン
オボロ
ラン
オボロ
その言葉に目を見開き、嬉しそうに笑った。
数秒後、彼女は閉じていた口を開き、言った。
オボロ
オボロ
あなたの事が好きでした
そう言って彼女は、翡翠の瞳を閉じた。
ラン
ラン
目を閉じた彼女に、不安になり何度も声をかける
だが、その瞳が開くことはなかった。
いつぶりだろうか。
鼻がツンと痛くなり、視界がボヤけることは。
何年も、「泣く」という行為をしてこなかった気がするくらいには、久々だった。
大きな声で嘆いたりはしない。
ただただ、悲しみと、怒りと、この世の理不尽さに、そして自分の不甲斐なさに。
涙をボロボロ流していた。
彼女の身体を、海水につけた。
すると彼女の身体は水の泡となり消えていった。
これが人魚のとしての「死」なのだろうか
泡となったところには、一つの光っている
彼女の尾にあった「鱗」が水面に浮かんでいた
最後に彼女が告げた
好きでした、という言葉
その言葉の真意は俺にはわからない
聞くこともできない。
だって唯一知っていたであろうオボロは死んでしまったのだから。
けれど、もし。
俺と同じ意味の『好き』だったら。
俺は___
ルビ
ラン
ルビ
ラン
タマ
パーズ
ダイヤ
タマ
ダイヤ
パーズ
ルビ
ラン
タマ
ラン
タマ
ナイト
ルビ
ナイト
ダイヤ
ナイト
ルビ
ラン
三日月を見るとあいつを思い出すことがある。
特別綺麗な三日月の日は。
あの鱗は拾ってお守り代わりにしている。
壊れることなく、何年経ってもずっとあの綺麗なままだった。
あいつの笑顔は、きっと永遠に忘れない
あの日の出来事を、絶対に。
ラン
ルビ
ラン
俺は“あいつ”のように、相棒に笑顔を見せた。
カルビ
カルビ
カルビ
カルビ
( っ'-')╮ =͟͟͞͞🫛🫛🫛
コメント
7件
急遽二次創作(?)にしました。 灰谷蘭くんだと思ってください(((