𝐽.
𝑁.
右手に原稿用紙を握りしめて
大好きな兄の部屋のドアを開ける
𝐽.
𝐽.
緊張しながら
4枚ほどの原稿用紙を差し出す
𝑁.
𝑁.
𝐽.
𝑁.
なーくんのベッドに腰掛けて
真剣に俺が書いた物語を読む
兄の横顔を眺める
俺はこの顔が結構好きだ
紙をめくる音と
自分の鼓動の音が耳に響く
小3の頃からずっと続けている、
物語を書くこと
不登校の時
誰もいない家が寂しくて、暇で
偶然、日記のように書き始めた物語
なーくんに 褒められたのが嬉しくて
それから必死に国語を勉強した
𝑁.
𝐽.
𝑁.
𝑁.
𝐽.
新しいジャンルの物語も 作ってみたくて
ころ兄ちゃんに無理を言って
高校生の古文を教えてもらった
ころ兄ちゃん、説明下手やから ほとんど教科書読んでた ようなもんやけど...()
𝐽.
𝐽.
𝑁.
𝑁.
𝐽.
𝑁.
𝑁.
𝐽.
𝐽.
𝑁.
𝑁.
𝐽.
𝐽.
𝑁.
𝐽.
𝐽.
𝐽.
𝑁.
𝑁.
原稿用紙を返しながら
頭を撫でてくれる
𝐽.
そう言ってもらえたことが嬉しくて
口角が緩む
𝑁.
𝑁.
𝐽.
確かに
前までは大きかったなーくんが
中学生になってから 目線が同じくらいになった気がする
𝑁.
𝑁.
𝑁.
𝐽.
𝑁.
𝑁.
𝐽.
見せる人がいないのに書く物語なんて
味が薄くなってしまう
𝑁.
𝐽.
𝐽.
𝑁.
𝐽.
𝐽.
𝑁.
𝑁.
𝐽.
𝐽.
𝑅.
𝑅.
𝐽.
𝑅.
𝐽.
𝑅.
𝑅.
𝐽.
𝑅.
𝐽.
𝑅.
𝑅.
𝐽.
𝐽.
機嫌よく出ていく弟を見送りながら
自分の机の棚にある、
大量の原稿用紙を眺める
𝐽.
自分がどんな物語を書いたのか
振り返ることも時には必要
一番最初に書いた物語を パラパラとめくる
𝐽.
懐かしく思いながら
どんどん次の物語を読んでいく
過去の俺が書いたお話は
まだ下手だけど
その時の俺なりに一生懸命 書いたのがみてとれた
その中に
綺麗好きな俺にしては珍しく
たくさんの折れた跡がついた
3枚の原稿用紙が出てきた
𝐽.
他の原稿用紙には書いていなかった
月日が書いてあった
その年は俺が不登校に なり始めた年だった
なーくんに読んでもらうために
時間をかけて書く俺にしては これまた珍しく
書きなぐった文字だった
興味が湧いて
じっくりと読むことにした
今日も父さんがお酒を飲んで
怒っていた
特に今日はいっぱい お酒の空き瓶があった
いつもみたいに なーくんとさと兄ちゃんが
父さんの相手をしてくれてたけど
ころ兄ちゃんが委員会活動で 帰ってくるのが遅くって
父さんに八つ当たりされていた
𝐽.
蘇る記憶
𝐶.
𝐶.
父さん
父さん
父さんから泣いているころ兄ちゃんを庇うように
なーくんが前に立つ
𝑁.
圧がある笑みを浮かべて
さと兄ちゃんに何かを耳打ちしてから
ころ兄ちゃんの頭を撫でて
さと兄ちゃんが相槌を打ってから
ころ兄ちゃんを抱えて
階段を登っていった
りいぬ兄ちゃんは
その日は特別授業で遅くまで 帰ってこないと朝に言っていた
つまり、父さんと部屋にいるのは
なーくん、ひとりだけ
部屋にいるように言われたのに
不安でドアの隙間から覗いていた
さと兄ちゃんが階段に 消えていった瞬間
バチンッ!
部屋に鋭い音が響いて
なーくんは部屋の隅まで 飛ばされていた
𝑁.
赤くなった左頬をおさえながら
憐れむような目で父さんのことを見た
父さん
父さん
うずくまっているなーくんを
父さんは思いっきり蹴る
𝐽.
なーくんは一切抵抗せずに
殴られ続けている
謝りもしないので 父さんからの猛攻は止まない
母さんがいなくなってから
なーくんと約束した
″ もしも父さんが なーくんに手を出しても、 見なかったふりをすること ″
それを思い出して一生懸命堪える
意地でも謝らないなーくんに 腹が立ったのか
蹴るのをやめたかと思ったら
父さんは机にあった空き瓶を持って
なーくんに近づいた
𝐽.
後先は考えられなかった
なーくんが死んじゃうかもしれない
その思いだけが自分を動かした
気づいたらドアを開けて
なーくんの方に駆け寄っていた
𝐽.
𝐽.
びっくりして顔を上げたなーくんは
切羽詰まった顔で叫んだ
𝑁.
𝑁.
その声までも無視して
なーくんに抱きつく
次の瞬間
右肩に重い衝撃が走った
𝐽.
父さんが持っていた瓶が あたったんだと理解した
𝑁.
𝑁.
痛くて動けない俺を
必死に揺さぶっている
𝐽.
なんとか口だけを動かす
父さん
父さん
父さん
もう一度ビール瓶を振り上げるのが
揺れた視界で見えた
𝑁.
今まで聞いたことがない
大きくて強い怒鳴り声
なーくんの声だと気がつくまでに 時間がかかった
父さん
自分がどんなに攻撃されても
反撃をしなかったなーくんの怒声
父さんをも固まらせる程の迫力だった
固まる父さんを無視して
なーくんは俺のことを抱き上げる
𝑁.
いつもの優しい声で
父さんの方は向かずに言った
父さん
父さん
𝑆.
俺が部屋にいないことに気がついて
探しにきたのであろう、さと兄ちゃん
父さん
慌てだす父さん
そりゃあそうだ
さと兄ちゃんは柔道の黒帯だから
𝑆.
𝑆.
父さん
𝑆.
父さん
𝑆.
𝑆.
𝑆.
𝑆.
𝑆.
なーくんに抱きしめられていたせいで
さと兄ちゃんの顔を見えなかったが
いつもよりトーンが低い声だったのを覚えている
父さん
𝑁.
𝑁.
𝑆.
𝑆.
動けないでいる父さんを置いて
なーくんに抱えられたまま
階段を上がっていった
ころ兄ちゃんのことは
さと兄ちゃんに任せて
なーくんに抱っこされたまま
なーくんの部屋に連れていかれた
ぽすっ、と優しく ベッドに置いてくれる
𝑁.
𝐽.
右肩だけ服を脱ぐ
𝑁.
𝑁.
湿布を貼りながら
頭を撫でてくれる
𝑁.
𝑁.
なーくんの方が体が痛そうなのに
ずっと俺の右肩をさすっている
𝐽.
そう言って
赤く腫れている なーくんの左頬に触れる
𝐽.
昔、怪我をして帰ってきた時、
母さんがしてくれたように
なーくんをそっと抱きしめる
𝑁.
俺の頭を撫でながら
なーくんは泣いていた
母さんの葬式でも 泣かなかったなーくんが
𝑁.
なーくんは悪くないのに
悪いのは父さんなのに
なーくんは何度も何度も謝った
なんでなーくんは謝ってたのかな
大きくなったら分かるのかな?
そこで原稿用紙は終わっていた
過去の俺がぐしゃぐしゃにした理由が分かる気がする
𝐽.
後にも先にも
母さんが亡くなってから
なーくんが泣いたのは この時だけだった
今ならなーくんが泣いた理由が分かる
この時のなーくんはまだ中3だった
𝐽.
あと1年であの頃のなーくんと 同じようになれる自信がない
でも、これは
なーくんが悲しいほどに大人なのは
いいことなのかな
ふと、なにも考えずに
なーくんの部屋に走った
ノックもせずに部屋に飛び込む
𝐽.
𝑁.
ブルーライトカットのメガネを かけたなーくんが
驚いた顔でこちらを見る
𝑁.
𝑁.
𝐽.
𝐽.
𝑁.
なぜかとても嬉しそうに笑っている
𝑁.
𝑁.
手を広げて
俺の方を見る
𝐽.
久々に抱きしめられて
なんとも照れくさくなる
𝑁.
𝑁.
あの時と同じように
頭を撫でながら
聞いてくる
𝐽.
𝐽.
𝑁.
𝐽.
ああ、あったかい
𝐽.
𝑁.
𝑁.
𝐽.
疑問形で答える
𝑁.
𝑁.
大人のようで
子供らしくて
自分のことは二の次で
弟思いで
無理をしやすいくせに
他人の無理にはすぐ気づく
でもちょっぴり甘えん坊
そんな、俺の大好きな兄ちゃんです
𝑡𝑜 𝑏𝑒 𝑐𝑜𝑛𝑡𝑖𝑛𝑢𝑒𝑑...
コメント
17件
連載ブクマとフォロー失礼します🙇♀️
今まで見てきたお話の中で1番好きです、本当に尊敬しかないです、!