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雨の匂いが残る早朝だった。 殲滅部隊本部の重い自動扉が開いた瞬間、廊下にいた隊員たちの視線が一斉に止まる。
包帯の減った腕。 けれどまだ少しだけ不自然な歩き方。 その姿で立っていたのは――星奈ちゃんだった。
スズネちゃん
スズネちゃん
浅薙星奈(あさなぎせな)
スズネちゃん
浅薙晃誠
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
浅薙星奈(あさなぎせな)
雨霧ミカドさん
比嘉景虎
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
比嘉景虎
奥から歩いてきたハルトさんとナギさんだけは、笑っていなかった。 二人は星奈ちゃんの歩き方を見ていた。 ほんのわずか。 普通の人なら気づかないくらいの違和感。 左脚をかばう癖。 呼吸の乱れ。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ナギさん
少しの沈黙。 星奈ちゃんは視線を逸らさず答えた。ハルトさんとナギさんだけに聞こえる声で
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
星奈ちゃんは少しだけ苦笑した。
浅薙星奈(あさなぎせな)
その瞬間。 ハルトさんが机を叩いた。
ハルトさん
ハルトさん
星奈ちゃんの肩がびくっと揺れる。 でも、逃げなかった。 震える手を握りしめながら、小さく言う。
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
沈黙。 長い沈黙のあと。 ナギさんが深く息を吐いた。
ナギさん
ナギさん
ハルトさん
リカさん
アラタさん
リカさん
アラタさん
リカさん
アラタさん
その瞬間。 本部モニターに報が走る。 <東地区に高濃度霊災反応> 《殲滅部隊、第一種出擊要請》 空気が一気に変わる。 隊員たちが走り出す。
その瞬間、少しだけ視界が揺れた。 誰にも気づかれないくらい、一瞬だけ。 けれど星奈ちゃんは、拳を握る。 (......今度こそ) その瞳だけは、前よりずっと強かった。
アラタさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
《対象確認》 《等級“災厄級”一体》 《周囲住民の避難完了まで三分》
災厄級。 復帰初任務で当たる相手じゃない。 ハルトさんの低い声が通信に混ざる。 《星奈。前に出るな》 《今回は援護だけにしろ》
浅薙星奈(あさなぎせな)
扉が開いた瞬間、熱風みたいな霊圧が吹き込んだ。 崩れたビル。 黒く染まった空。 道路に刻まれた巨大な爪痕。 そして中央に立つ“それ”。 人型なのに、人じゃない。 顔の半分が裂け、無数の腕を引きずる異形。
比嘉景虎
次の瞬間。 化け物が消えた。 「ッ!!」 ドッガーン
前衛の隊員がまとめて吹き飛ぶ。
速い。 見えない。 災厄級特有の“認識阻害”。 視界から消えるタイプ。 隊員たちが押され始める。 その時だった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
憑从影
この異能力は黒い星光の鎖が自動生成される。 この鎖は、 暴れれば暴れるほど拘束が強化される。 敵は全員空中停止。 呼吸・感覚・動作までゆっくり奪われていく。
アラタさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさんの怒鳴り声が通を裂いた。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
星奈ちゃんの脳裏に、一度壊れかけた日の記憶がよぎる。 病室。 泣いていたナナセさん。 眠れなくなっていたコウくん。 無理して笑っていたメグリさん。 全部、浮かぶ。 でも敵は止まらない。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさん
その言葉に、 後ろからナギさんも笑いながら戦闘体制に入る。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
さらに通信越しにナナセさんの声。
黒神ナナセ
メグリさんも続ける。
三途川メグリ
星奈ちゃんの完全解放寸前だった霊気が、 少しずつ静かになっていく。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさんはため息をついて、 星奈ちゃんの頭を乱暴に撫でる。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさん
ハルトさんとナギさんが前へ出る。 星奈ちゃんを後ろに庇うように。
憑从影
ナギさん
ハルトさん
ハルトさん
ナギさん
二人が並ぶ。 それだけで空気が変わった。
憑从影
ナギさんとハルトさん
ハルトさん
ナギさん
ナギさんが距離を取る。 その瞬間を狙って、シャドウが巨大な黒腕を振り下ろした。 ハルトさんが叫ぶ。
ハルトさん
ドゴォォン!!!!
ハルトさんが横から黒腕を吹き飛ばした。
ハルトさん
後方で見ていた星奈ちゃんが気づく。
浅薙星奈(あさなぎせな)
シャドウは再生してるんじゃない。 “核”が移動している。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさんとハルトさん
ナギさん
ハルトさん
シャドウが無数の影を解き放つ。 戦場が闇で埋まる。 だが二人は止まらない。 ナギさんが真正面から突撃。
ハルトさん
影の中心を移動していた“核”。 ――バァン!!! シャドウの核を貫く。
ナギさん
巨大なシャドウの身体が、ゆっくり崩壊していく。 黒い霧が空へ溶ける中、ナギさんが肩で息をした。
ナギさん
ハルトさん
後ろでは、星奈ちゃんが呆然と二人を見ていた。 完全解放なんか使わなくても。 ちゃんと――守ってくれた。 その事実に、胸が熱くなる。 するとハルトさんとナギさんが振り返り、いつもの調子で言った。
ハルトさん
ナギさん
戦闘が終わった頃には、空の黒雲も少しずつ薄れていた。 崩れた道路。 焦げた瓦礫。 戦いの激しさだけが、そこに残っている。 星奈ちゃんは救護班の簡易テントで座っていた。 完全解放寸前までいった反動で、指先がまだ細かく震えている。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさんは近くの瓦礫に腰掛けると、珍しく静かな声で言った。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
完全解放。 あの力を使えば、たぶん勝てる。 でも代わりに、自分がどうなるか 分からない。 また目覚めなくなるかもしれない。 記憶が消えるかもしれない。 それでも――。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさんはしばらく黙っていた。 遠くではナギさんが救護班に怒られている。
三途川メグリ
ナギさん
ハルトさん
星奈ちゃんは黙る。
ハルトさん
意外な言葉だった。 ハルトさんは強い。 いつも余裕がある。 絶対に折れない人だと思っていた。
ハルトさん
ハルトさん
ハルトさん
風が吹く。 その時。 後ろからトタトタと誰かが走ってきた。
黒神ナナセ
ナナセさんだった。 勢いのまま星奈ちゃんを抱き締める。
黒神ナナセ
浅薙星奈(あさなぎせな)
その後ろからメグリさんも来る。 さらにナギさんは怪我した状態で来た。
三途川メグリ
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ハルトさん
ハルトさん
ナギさん
その輪の中で、星奈ちゃんはふと気づく。 ーーああ。 ちゃんと頼っていいんだ。 守るだけじゃなくて。 守られても、いいんだって。 そして少し離れた場所で。 ハルトさんがその様子を見ながら、小さく息を吐いた。
ハルトさん
その表情はどこか安心したようだった。
殲滅部隊本部――隊長室。 重たい扉が「ガチャッ」と閉まる音がして、部屋の空気が一気に張り詰めた。 机の前に立たされている星奈ちゃんは、視線を逸らしたまま小さく肩を すくめている。 その正面。 腕を組んで立っているナギさんの顔は、いつもの柔らかさが完全に消えていた。
ナギさん
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
隊長室の空気がさらに重くなる。 机の端には、戦闘後の報告書。 その横には医療班の診断結果。 “侵食進行を確認” その文字を見た瞬間、星奈ちゃんは少しだけ目を逸らした。 ハルトさんは深く息を吐く。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
返事はない。 沈黙。 でもその沈黙だけで、答えは十分だった。 ナギさんは額を押さえる。
ナギさん
ハルトさん
その言葉に、星奈ちゃんの指先がピクリと止まった。 図星だった。
浅薙星奈(あさなぎせな)
やっと出た声は小さい。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさん
ナギさん
怒られているのに。 責められているのに。 その言葉の奥に、 “心配”があるのが分かってしまった。 だから余計につらい。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
ハルトさん
その時だった。 隊長室の扉が少しだけ開く。
リカさん
その後ろには、こっそり覗いてるメグリさんとナナセさんまでいた。
戦いが終わってから、数日後。 久しぶりに静かな夜だった。 リビングにはテレビの音が小さく流れていて、キッチンからはメグリさんの作る夕飯の匂いがする。
三途川メグリ
浅薙星奈(あさなぎせな)
ソファに沈み込む星奈ちゃんは、毛布にくるまっていた。 その額には冷却シート。
その額には冷却シート。 完全解放の反動は消えていなかった。 無理をするとすぐ熱が出る。 ナナセさんは呆れた顔で薬を机に置く。
黒神ナナセ
浅薙星奈(あさなぎせな)
黒神ナナセ
浅薙星奈(あさなぎせな)
その瞬間、リビングの端で新聞を読んでいたハルトさんが低い声を出す。
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
その瞬間。 星奈ちゃんは毛布のまま勢いよく立ち上がる。
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
そのまま抱きつく。 コウくんは一瞬よろけたが、 すぐに苦笑した。
浅薙晃誠
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
ハルトさんとナギさんの視線が刺さる。 星奈ちゃんはそっと目を逸らした。 その時。 ふと部屋の空気が静かになる。 コウくんは星奈ちゃんの頭を軽く撫でた。
浅薙晃誠
でも、その言葉に部屋の全員が少しだけ黙る。 完全解放。 あの瞬間、星奈ちゃんは本当に消えかけていた。 記憶も、存在も、全部。 だからこそ、その鳴ってとごという事実が重かった。
星奈ちゃんは少しだけ笑う。
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
浅薙晃誠
コウくんは何も言わなかった。その代わりに、ぐしゃぐしゃと乱暴に頭を撫でる。
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
三途川メグリ
一瞬で空気が変わった。 ナギさんが立ち上がる。
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
三途川メグリ
ハルトさん
浅薙晃誠
浅薙星奈(あさなぎせな)
三途川メグリ
戦いは終わっていない。 副作用も残っている。 完全解放の傷跡も消えていない。 それでもーー この家には、帰って 来られる場所があった。
夏になったよ!
空気はぬるく、風鈴の音が遠くで 揺れていた。 町の神社では、年に一度の 夏祭りが開かれている。 提灯の灯りが石段を照らし、 屋台からは焼きそばや りんご飴の甘い香りが流れていた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんは、久しぶりの祭りの景色に目を輝かせる。 隣にはコウくん。 少し後ろにはハルトさん、ナギさん、ナナセさん、メグリさん、そしてミレイさん達もいた。
浅薙晃誠
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
ユウマくん
浅薙星奈(あさなぎせな)
けれどその横顔は、どこか安心していた。 植物状態から目覚めて、 長い入院生活を終えて。 こうして皆で祭りに来られる日が、本当に戻ってくるとは思っていなかったからだ。 ――だから今日は、誰も無理に止めなかった。
黒神ミレイ
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ナギさんの即答に、皆が笑う。 ──数分後。
三途川メグリ
メグリさんがりんご飴を差し出す。
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハカちゃん
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんは嬉しそうに笑った。 その笑顔を見て、ナナセさんが小さく呟く。
黒神ナナセ
黒神ミレイ
マキちゃん
あの時。 星奈ちゃんが命を削るほど能力を使った夜。 もう戻らないかもしれない、と全員が覚悟していた。 だから今、こうして笑っているだけで十分だった。 ――その時。
ドンッ!!
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんは立ち止まり、空を見上げる。 赤、青、金。 光が夜空いっぱいに広がっていく。 その横顔を、ミレイさんが静かに見つめていた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
黒神ミレイ
星奈ちゃんは小さく笑う。
浅薙星奈(あさなぎせな)
その言葉に、一瞬だけ空気が止まった。 コウくんが眉を寄せる。
浅薙晃誠
浅薙晃誠
少し怒ったような声。 でもその目は、泣きそうだった。 星奈ちゃんは困ったように笑って、
浅薙星奈(あさなぎせな)
屋台の灯り。 笑い声。 夏の夜風。 星奈ちゃんはふと足を止める。 ――守りたかったのは、 こういう時間だったんだ。 戦いでも、力でもなく。皆で笑って過ごせる、当たり前の日常。 その時だった。
ヒュゥゥゥ……
大花火が夜空へ打ち上がる。
ドォォン!!!
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナナセさんとメグリさんにしか聞こえない声で
浅薙星奈(あさなぎせな)
三途川メグリ
三途川メグリ
黒神ナナセ
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
ユウマくん
屋台通りを少し外れると、祭りの騒がしさが少し遠くなる。 虫の声と、 風鈴の音だけが静かに響いていた。
黒神ナナセ
浅薙星奈(あさなぎせな)
黒神ナナセ
仮設トイレの前には少し列ができていた。 星奈ちゃんは「うわぁ……」って顔をする。
浅薙星奈(あさなぎせな)
三途川メグリ
黒神ナナセ
浅薙星奈(あさなぎせな)
三途川メグリ
浅薙星奈(あさなぎせな)
黒神ナナセ
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
「ズキッ!」
ズキン!、ズキン!
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙星奈(あさなぎせな)
黒神ナナセ
三途川メグリ
三途川メグリ
浅薙星奈(あさなぎせな)
戻ろうとした時、遠くで花火が一発上がった。 ドン――ッ!! 夜空に大きな青い花が咲く。 星奈ちゃんは思わず見上げた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
その横顔を見ながら、ナナセさんが少しだけ安心したように微笑む。 最近まで入院していたとは思えないくらい、ちゃんと笑えていたから。 すると後ろから慌てた声。
ハルトさん
振り向くと、 ハルトさんとナギさんが来ていた。
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
ナギさん
ハルトさん
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんが呆れて笑うと、ハルトさんは少しだけ安心した顔をした。 その瞬間―― ドォン!!!! 今度は大きな連続花火。 みんなで同時に空を見上げる。
赤、金、青。 夜空いっぱいに広がる光。 屋台の喧騒も、笑い声も、 全部混ざって。 その夏の一瞬だけは、戦いも不安も忘れられるくらい平和だった。
黒神ナナセ
浅薙星奈(あさなぎせな)
星奈ちゃんはそっと笑う。
浅薙星奈(あさなぎせな)
浅薙晃誠
ハルトさんも肩をすくめた。
ハルトさん
ハルトさん
ナナセさんの優しい声。 星奈ちゃんは少しだけ目を潤ませながら、
黒神ナナセ
浅薙星奈(あさなぎせな)
と、強く頷いた。 夏の花火は、まるで祝福みたいに夜空を照らしていた。
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𝐆𝐞𝐚𝐭𝐬 IX