待ち合わせは、1年前のここだった
千恵子
どうしたの?
千恵子
こんな夜中に呼び出して
愛の告白、だろうか
そんな淡い期待をした
進次郎
千恵、これ見てみ
千恵子
っ…
千恵子
そん…な
見せられたのは手紙だった
もちろん恋文なんかじゃない
もっと…残酷な
彼宛ての赤紙だった
進次郎
そんな顔するな
千恵子
だって…進ちゃん…
進次郎
わしはお国の為に頑張るんじゃ
千恵子
そう、だよね
俯く私に彼は空を指差した
進次郎
ほら
千恵子
蛍…?
進次郎
蛍って死んだ人の生まれ変わりなんやって
進次郎
だから、もしわしが死んでも…
千恵子
いやや!
千恵子
そんな話聞きとうない!
進次郎
千恵きいて!
千恵子
っ!
進次郎
来年の今日、ここで会おう
千恵子
生きて会えるん?
進次郎
…
進次郎
蛍になっても
進次郎
必ず会いに行く
進次郎
行ってまいります
一丁前に敬礼なんかしちゃって
あんたのそんな姿見とうない
進次郎
千恵…
千恵子
進ちゃん…
千恵子
約束忘れてへんやろな?
進次郎
もちろん
大好きな幼馴染を置いて
過酷な戦場へとわしは向かった
握りしめた彼女の写真はシワシワで
空気も読めずわろてまう
進次郎
(千恵、年取ったらこないになるんかな)
進次郎
…見たかったな
叶わない願いを胸に
敵へと突き進む
進次郎
っ…!
あっという間の出来事
____銃弾が
胸を貫いた
彼が戦場へと行き
その後すぐに死んだと聞かされた
千恵子
いや…!
千恵子
いやや!!
嘘つき
来年会おうって約束したやん
私はただただ泣き崩れるしかできなかった
千恵子
進ちゃん…
___約束の日
来ないと分かっているのに来てしまった
千恵子
阿呆…
千恵子
進ちゃんの阿呆…!
また涙が出てくる
彼の声でもう一度
「千恵」って呼ばれたい
千恵子
約束忘れてるやんか…
千恵子
会いにくるんやろ…?
空を見上げたその時だった
進次郎
進次郎
千恵
千恵子
進、ちゃん…
彼はここにいない
けれど確かに彼の声だ
千恵子
蛍…
一匹の蛍が大群から抜け
私目掛けてふわりと飛んできた
千恵子
…っ
蛍って死んだ人の生まれ変わりなんやって
千恵子
あんた…まさか…!
蛍は何も言わない
けれどまるで口付けかのように頬に触れた
千恵子
阿呆…
千恵子
蛍じゃ意味ないやん…
千恵子
千恵子
でも、来てくれてありがとう…
涙が止まらない
そんな私の周りを一周すると
進次郎
進次郎
愛してた
その言葉を残して飛んでいってしまった
千恵子
私だって愛してた…
千恵子
だから
千恵子
来世ではちゃんと伝えてよね
もう蛍はいない
来年の今日、ここで会おう
あの日、あの時、この場所で
2人で見上げた空を思い出した