記憶を失っても。

コンコン

涙をこらえて笑顔でそう放つ

これで何度目の自己紹介だろう

あの日…そう。あの夏の日からだ

7月28日 この日はかなりの猛暑日であった

蝉の声がむさくるしさを増してくる

僕達はかき氷が美味しいと有名な喫茶店へ足を運んでいた

横断歩道

ぺいんとさんはよそ見をしていた僕の肩を掴み安全を確保してくれた

なんていつも通りの何気ない会話をしながら青になるのを待つ

ﾌﾞｰﾝ……

ﾌﾞｰﾝ……

ドンッ

勢いよくぺいんとさんに突き飛ばされた

次の瞬間だった

ｷｷｰｯｯｯ！！！

ﾄﾞﾝｯｯｯｯｯ！！

鈍い音が街中に響き渡る

力の入らない体を頑張って起こし､ヨロヨロとぺいんとさんの方へ歩く

返事はない

ぺいんとさんの頭部からは血が流れ出ている

体を揺すれば手に血がべっとりと付着した

そして僕は実感した

ぺいんとさんは車に跳ねられた

コンクリートにぺいんとさんの血が滲む

真夏の太陽に照らされて光っていた

手に血が着こうが暑かろうが僕は必死にぺいんとさんに声をかけた

それでも目を覚ます気配はない

救急車とパトカーのサイレンが聞こえてきた

僕の声はサイレンによってかき消された

僕は無のままぺいんとさんの治療を待った

その姿はまるで死人同様だ

ﾀｯﾀｯﾀｯﾀｯ…

遠くから走ってくる足音が聞こえてきた

ゆっくりと顔を上げた

そこには汗で濡れた二人の顔があった

2人にあったからか､安心して涙が出てきた

今更そんなこと言っても無駄なのに

でもこうするしか無かった

こうでもしなければおかしくなってしまいそうだったから

クロノアさんは僕を抱きしめてくれた

僕の涙でクロノアさんの服が湿る

それでも構わず泣きわめく僕を優しく包み込んでくれた

本当は二人だって辛いはずなのに

願うとしかできない無力さ

ほんとに嫌になる

忘れていた

ぺいんとさんの血が着いていた

でも洗いたくはなかった

クロノアさんは理解をしてくれた

トラゾーさんも微笑んでいる

嬉しかった

何時間もの治療が終わった

中から先生が出てくる

黙って先生の返答を待つ

顔が曇る

なんだそれ。聞いたことないぞ

そんな病気…あっていいの…？

じゃあ…僕たちのこと…忘れてるってこと…？

いままでの思い出も…全部……

僕たちにできること

ぺいんとさんのために……

満場一致だ

そういって医者はこの場を離れた

しかし僕のメンタルはズタボロだった

トラゾーさんが咄嗟に僕の身体を支えた

僕に優しく微笑みかける

初めて強い口調で返された

静かに泣き崩れた

クロノアさんだって辛いのに

リーダーだから…最年長だから…しっかりしなきゃって思ってたんだろう

でも､本当は辛いんだ。僕なんかよりももっと

きっと溜め込んでしまうから

それでもトラゾーさんは凄いや

一切取り乱さない

辛いだろうに。同い年がいなくなって

一通り落ち着いた

病室の中には1人ずつ入るらしい

しかも1日1人

1日に何人も初対面が現れたらびっくりしてしまうらしいからだ

だから今日はリーダーのクロノアさんが行くことになった

ｶﾞﾗﾗ…

ぺいんとがこちらを向いた

なんだか懐かしい

包帯だらけでギプスだらけ｡そんなぺいんとだけど

大人しくなった声が病室に響く

あぁ…やっぱり喪われている

なんて笑ってみせる

それはそうか。

この無邪気な笑顔

今までをフラッシュバックさせてくる

お前の事だよ…ぺいんと

1日だけの仲だけど

これを毎日続けていれば…ぺいんとは元に戻る…？

それは精神面的にも辛い

でも､またあの4人で実況したいから

俺は諦めないよ。ぺいんと