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陽炎
あと、もう少しで村に着くはずなんだけど…………
カー、カー
陽炎
急がないと、日が暮れるな
早歩きでその場をあとにする
陽炎
陽炎
(…………おかしい)
陽炎
(歩いても歩いても、景色が変わらない…………)
陽炎
──まさか
そのとき気配を感じ、その場で立ち止まった
陽炎
──そこにいるんだろ？
陽炎
出てきたら、どうだ？
カサッ
陽炎
……！
ぎゅっ
草むらから現れ、陽炎は妖狐に抱きしめられた
？
さすが、俺の陽炎♪
陽炎
(やっぱり…………)
？
俺がいるって、よくわかったな♪
９本のしっぽがふりふりと横に振る
陽炎
何度も、萌葱に化かさればね……
陽炎
陽炎
──そろそろ、里に帰ったら？
萌葱
陽炎が俺の許婚になったら、帰る
陽炎
……許婚って
萌葱
陽炎の花嫁は、俺しかいない
陽炎
(……何言ってんだろう？)
一見すれば美女だが、萌葱はれっきとした男である
カー、カー
陽炎
……そんなことしてる場合じゃない
陽炎
早く村に行かないと──
萌葱
日が暮れてしまうな
陽炎
だったら、離して
萌葱
テレなくてもいいぞ
陽炎
テレてないから！
萌葱
素直じゃないな
陽炎
いいから、離せ！！
ごっ
村に着くと同時に日が落ちた
陽炎
やっと、着いた…………
萌葱
……殴ることないじゃないか
頬を押さえている
陽炎
陽炎
だったら、どさくさに紛れて
陽炎
あちこち、身体を触りまくろうとしないで
村人
おや、あんたたち旅人かい？
萌葱
陽炎は萌葱の口を手でふさいだ
陽炎
そうです
陽炎
一夜の宿をお借りできるところ、ありませんか？
村人
なら、宿坊がいいね
村人
宿坊はこの道をまっすぐ行って、右に曲がると宿坊があるよ
陽炎
ありがとうございます
村人が立ち去ると、ふさいだ手を離した
萌葱
──なぜ、俺の口をふさいだ？
ふてくされる
陽炎
陽炎
あの村人に、なにを言おうとした？
萌葱
なにをって
萌葱
なれなれしく、陽炎に話しかけるなって──
陽炎
ふさいで、正解だな
萌葱
むぅ……
陽炎
とにかく、宿坊へ向かおう
萌葱
ずいぶんと、殺風景な部屋だな
陽炎
失礼なこと言うな
萌葱
俺なら、一番いい部屋に案内するぞ
萌葱
そして陽炎にいろんな、もてなしをして
萌葱
最終的には、あんなことやこんなことも────
陽炎
後半、ぼくに何をする気？
萌葱
萌葱
さすがに口にするのは、憚れる──
テレつつ、萌葱は赤ら顔になった
陽炎
…………お風呂、入ってこよ
萌葱
……！ 風呂に入るのか？
萌葱
なら、俺も……！
陽炎
ひとりで入ってくるから、大丈夫だよ
萌葱
ダメだ！
萌葱
陽炎をひとりに、させるわけにはいかない！
陽炎
……なんで？
萌葱
万一があるだろ！ 覗き見されたら、どうする？！
陽炎
──は？
萌葱
それだけじゃない！
萌葱
陽炎が襲われたりしたら、俺は──
陽炎
誰が襲うんだよ？
萌葱
萌葱
陽炎は、もう少し……
萌葱
自分のこと、気にかけてほしい
陽炎
……萌葱
男とも女とも見える中性的な顔が、困惑気に見つめる
翌日
昼過ぎ
萌葱
陽炎！！
萌葱
ひどいじゃないか！！
萌葱
置いて行くなんて……！！
陽炎
(思ったより、早く来たな)
陽炎
一応、起こしたんだけどね
萌葱
おかげで、探しまわったぞ！！
ぎゅっ
陽炎
……歩きづらいんだけど？
萌葱
俺を置いて行くからだ……
いつもと違う表情(カオ)に少し戸惑う
陽炎
……悪かったよ、置いてったりして
萌葱
萌葱
陽炎──
陽炎
ん？
萌葱
今から、色宿へ向かうぞ
陽炎
は？
萌葱
陽炎を探す途中で、いい色宿を見つけた
萌葱
さ、行くぞ♪
抱きかかえられた
陽炎
誰が行くか……！！
陽炎
離せ！！ この万年発情期狐が！！
萌葱
テレなくてもいいのに★
陽炎
テレてねーわ！！
鬼と狐は今日も旅を続ける
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