「クビカリ様」
今、巷を賑わせている殺人鬼。
そのターゲットは、黒髪の若い女とされている。
犠牲者の頭を切断し持ち去り、現場に残した体の周りをそれぞれ違う花で囲うのが手口である。
柚
柚
古今東西の殺人鬼について纏められたサイトをスマホで見ながら
暗い部屋で私は呟いた。
柚
柚
生まれつき明るい色の髪をいじりながら、そうやって夢想する。
柚
柚
クビカリ様
舞台は廃教会、朽ちつつある壇上に座る紫の髪と赤い目を持つ
端正な顔つきの男、クビカリ様。
私の話を神妙な顔で聞いてくれて、私の頭を優しく撫でる。
クビカリ様
クビカリ様
顎に人差し指を当てて、思案する。
クビカリ様
クビカリ様
クビカリ様
クビカリ様
何処からか取り出した大鎌を掲げながらクビカリ様は続ける。
クビカリ様
柚
おーい、おーい!!
居ないのか、柚!!
柚
都合のいい妄想に浸っていたら、おじいちゃんが呼ぶ声で現実に引き戻されてしまった。
柚
胸に抱いていたスマホをベッドに置き
急いでおじいちゃんの部屋へと向かった。
息を弾ませながら扉を開けると
掛け布団の中に入ったままのおじいちゃんがジロリと睨んできた。
柚
柚
おじいちゃん
おじいちゃん
柚
柚
柚
おじいちゃん
おじいちゃん
おじいちゃん
そう言っておじいちゃんは麻痺の残っていない方の手で私をバシバシと叩く。
柚
柚
柚
柚
柚
おじいちゃん
おじいちゃん
そう憮然としながらぼやくおじいちゃんのズボンを脱がし、足を広げて紙パンツを破く。
股間についているモノを気にしないふりする技能は
数ヶ月前に脳梗塞で倒れたおじいちゃんの介護を、一手に引き受けるうちに身についてしまった。
お金がないから、とヘルパーさんも最低限にしか呼べず
「昔、柚はおじいちゃんが大好きだったろ?」
「そんな柚がお世話するからおじいちゃんは喜ぶんだ」
「散々可愛がって貰ったのよ?恩返しだと思って」
お父さんもお母さんもそう言って、介護にほとんど参加しようとしない。
おじいちゃん
柚
柚
柚
柚
柚
おじいちゃん
柚
柚
柚
柚
柚
柚
柚
誰も聞くものの居ない、私が溢した言葉は
まるで存在すらしなかったかのように、夜の闇に消えて行ってしまった。
次の日 学校の休憩時間
クラスのみんな
クラスのみんな
クラスのみんな
クラスのみんな
柚
クラスメートはいつものように、私を遠巻きに見ながら笑いものにする。
日常的に介護に携わる人には匂いが染み付き、簡単に落ちないと聞く。
みんなの嘲笑は、的外れもいいところなのだ。
でも私には、その悪口を跳ね除ける気の強さは無い。
その空気から逃げるように、スマホを取り出してSNSを開いた。
私のことを馬鹿にするクラスのみんな
普段はいじめに気づかないくせに、頭髪検査の時だけ
地毛が茶色っぽい事を目ざとく見つけて、文句を言ってくる生活指導の先生
おじいちゃんの介護を押し付ける家族、すぐに怒って叩いてくるおじいちゃん
みんな大嫌い
柚
柚
柚
「あいつまた浮気してた、まじ信じられなくて鬱」
「死ねやハゲ上司、お前のご機嫌取りなんてもう限界なんだよ」
「みんな私に死ねって言うんですね、りょーかいですーー」
私の投稿にいいねがいつ付くか、やきもきしてる間にも
病み垢繋がりで知り合った相互達の呟きがTLを流れていく。
柚
柚
柚
誰の目にも留まらない愚痴をそのままにしていたら惨めな気分になる。
なので先ほどの投稿を消して、また新たな心の叫びをスマホに打ち込む事にした。
誰でもいい、私を助けて
この地獄から救って
私を殺して、クビカリ様
柚
今までの沈黙が嘘のように
暴言を吐く者、綺麗事を「アドバイス」しにくる者
そして下心を隠そうとしない者が私の投稿に群がってきた。
柚
柚
柚
柚
そう思って設定を開こうとすると……
柚
柚
柚
そう息巻いてメッセージを見てみると……
@kubisama さん、こんにちは
私は巷で言う「クビカリ様」を知っています
DMでお話ししませんか?
柚
単語の意味がわからなかった為、検索エンジンで単語を検索してみる。
柚
柚
柚
beheadとのDM
kubisama
kubisama
behead
behead
kubisama
kubisama
behead
behead
behead
behead
コメント
2件
以前他の方にリクエストした「さつ人鬼とそれを盲信する信者」と言うコンセプトを自分なりに形にしたものになります。本連載もよろしくお願いします。