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その日から、志保は毎日のように神社へ通った。

優希は必ず、学校帰りに鳥居の前で立ち止まる。

静かに両手を合わせ、目を閉じ、長い時間をかけて祈りを捧げる。

志保は決まってその隣に座り、時には足に擦り寄ったり、膝の上にのったりした。

優希は笑って頭を撫でてくれる。

その仕草のたびに、志保の心は温かく満たされていった。

若林 志保(猫の姿)

(人間のときには、こんな気持ち知らなかった……猫になった私が、一番会いたいのは、この人なんだ)

けれど同時に、胸の奥に小さな棘のような不安が刺さっていた。

──なぜ、彼は毎日祈るのだろう?

ある夕暮れ、志保は鳥居の前で耳をぴくりと動かした。

境内の石段に座る優希が、誰かと電話をしていたのだ。

吉沢 優希

……うん、大丈夫。……手術、ちゃんと受けるよ

その言葉に、志保の毛並みが逆立った。

手術──?

吉沢 優希

心配しないで。成功するように、毎日お願いしてるから

優希の笑顔は明るく見えた。

でも、その声の奥にはかすかな震えがあった。

志保は胸を締めつけられる思いで彼を見つめた。

猫の耳には、鼓動の高鳴りがはっきりと響いている気がした。

若林 志保(猫の姿)

(そうか……。この人は、病気なんだ)

言葉にできない痛みが、志保の心に広がった。

猫になった自分には、祈ることも、励ますこともできない。

ただ、そばに寄り添って見守ることしかできなかった。

その夜、神社を後にする優希の背中を追いながら、志保は小さくつぶやいた。

若林 志保(猫の姿)

(お願い。どうか、優希の手術が成功しますように……)

猫の声は祈りにはならない。

けれど、志保の胸には確かに願いがあった。

赤い鳥居の下で重ねた祈りには、夏の空に溶けていった。

猫になった私は鳥居の前で君を待つ

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