ヴィッテとスライが 我が家に来た翌日。
私の仕事はお休み。
…ってなわけで早速、 “スライム同士の通信”を 試してみることにした!
マキリ
役割を『スライム』に
担当してもらう――
マキリ
これしか
決まってないし、
マキリ
実際にテストするのが
近道だよね!
ヴィッテ
スライ
文字表示(スライ)
>…まずは何から実験しますか?
・・・・・・・・・・
マキリ
マキリ
家の中での“チャット”を
試してみよっか
ヴィッテ
やるっ!
マキリ
スライは、2階で
待機しててくれる?
マキリ
1階から“チャット”を
飛ばすから、
マキリ
表示されるかどうか
教えてほしいんだ
ヴィッテ
文字表示(スライ)
>承知しました。
・・・・・・・・・・
ヴィッテ&スライは 2階の寝室に向かった。
そして、私と 2号(スライ分裂体)は、 1階キッチンで待機中。
マキリ
スライ2号
マキリ
準備はいい?
文字表示(スライ2号)
>いつでも構いません。
・・・・・・・・・・
マキリ
マキリ
マキリ
1階のマキリ
マキリ
文字は表示されて
いますか?
マキリ
“チャット”時の喋り方は、 無線インカムのルールを 参考にした。
学生の時、バイト先で 使ったことがあったんだよね。
文字表示(スライ2号)
■マキリ
>こちら1階のマキリ。
文字表示(スライ2号)
・・・・・・・・・・
まずは2号の体に “私が喋った内容” が 表示される。
スライ&2号に伝えた通り、 喋り始めの『トーク開始』と 終わりの『どうぞ』は 省略されてるし、
肝心の内容も ちゃんと合ってるね!
マキリ
ここからだけど…
固唾を飲むこと 数秒。
文字表示(スライ2号)
■ヴィテッロ様
>こちら 2かいの ヴィッテよ。
文字表示(スライ2号)
・・・・・・・・・・
マキリ
思わず立ち上がる私。
ヴィッテ
どうだった⁈
パタパタ急いで 階段を駆け降りてきたのは、 瞳をきらきらさせたヴィッテ。
スライ
その後ろからスライが ぴょこぴょこ降りてくる。
マキリ
ちゃんと文字が
表示されてたから、
マキリ
成功だよ!
ヴィッテ
手を取り合って 大喜びする 私とヴィッテ。
初めてのチャットは、 たった1文ずつのやり取り だった。
完成形には、ほど遠い。
でも間違いなく、私が知ってる “インターネットの断片” そのもの。
それが…とても、 うれしかったんだ!
マキリ
通信テスト第1段階が
成功したってことで、
マキリ
入ってもいいかな?
ヴィッテ
文字表示(スライ)
>内容によります。
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・
マキリ
少しずつ広げるのが
無難だよね
マキリ
通信する距離を
少し伸ばすのはどう?
文字表示(スライ)
>距離を伸ばす、ですか?
・・・・・・・・・・
マキリ
室内での近距離の
通信テストだったよね
マキリ
ヴィッテちゃんには
家で待っててもらって、
マキリ
呼びかける形で
通信を試したいんだ
スライ
文字表示(スライ)
>……承知しました。
文字表示(スライ)
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・・
マキリ
文字表示(スライ)
>実行すれば理解できます。
・・・・・・・・・・
マキリ
“論より証拠”
だよね
マキリ
やってみるよ!
理由はわかんないけど、 スライなりに 考えがあるっぽい。
指示に従ってみるか。
30分後。
出かける準備をした私が 玄関のドアを開けようと したところ――
マキリ
いってきま――
文字表示(スライ)
> 『 沈黙 は 金 』
・・・・・・・・・・
――滑り駆け寄ってきたスライが 体に “大きな文字” を 表示した。
マキリ
マキリ
どうしたの?
文字表示(スライ)
>これは以前に私が耳にした言葉で、『何処かの国の格言』とのことです。
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
マキリ
脈略が全く 理解できないんだけど…
…もしかしてスライ、 意外と“不思議ちゃん”系 だったりする?
マキリ
いってくるね!
ヴィッテ
スライ
ヴィッテ達に見送られ、 私と2号は家を出た。
マキリ
出かけることだし、
マキリ
わけだから、
マキリ
買い物でも
してこよっかな?
スライ2号
マキリ
しばらく我が家に
泊まるわけだし、
マキリ
スプーンとかも
買い足したいよね
マキリ
始めたばっかで
食器少ないんだよなぁ…
マキリ
良さげなのが
あるといいけど――
――ドドドッ ドドドォッ!
――ドカドカ ドタドタッ!
道の向こうから 凄い勢いで、5人の男達が 猛ダッシュしてきた!?
マキリ
マキリ
目が血走ってて
怖いんだけどッ!?!?
私は、慌てて 道の端へと逃げた。
マキリ
邪魔にならないはず…!
マキリ
あれ何だと思う?
何気なく振り返って スライ2号に話しかけるが――
マキリ
2号がいない?
マキリ
ぴょこぴょこ私の後ろを
付いてきてたはずだよね?
マキリ
はぐれたんだろ??
きょろきょろ辺りを 見回すと――
――2号ってば、 道の真ん中で 止まってるんだけど!?
走る人々が 止まることなく 2号へ近づく。
マキリ
踏みつぶされちゃう!
とっさに、私は 2号に声をかけよう としたが――
傷だらけの大男
走る集団から 1人の男が飛び出して、 特大の剣を振るった。
――ズザァッ!
マキリ
男の剣が、2号の体を 真っ二つに切り裂く。
左右に分割された ゼリー状のスライムは 粒子に姿を変え、消滅。
全ては、一瞬の、 出来事だった。
傷だらけの大男
怪我は無ェかッ?
私のほうへ 野太い声で呼びかけたのは、 筋肉ムキムキで傷だらけの大男。
彼の手に 握られているのは――
――さっき 2号を殺した “大剣” 。
マキリ
瞬間、“何か”を 叫びそうになった。
同時に私の頭をよぎったのは――
・・・・・・・・・・ >『 沈黙 は 金 』 ・・・・・・・・・・
――さっきスライが 表示した“格言”。
声にならない声と ともに、
私の顔から 血の気が引いていった のだった。
マキリ
マキリ
マキリ
青かったはずの空が、 いつの間にか、 オレンジ色に染まっていた。
マキリ
わかんない…
マキリ
混乱する頭を落ち着かせつつ、 状況を思い返してみる。
マキリ
外出して、
マキリ
エイバス中心街のほうに
向かって歩いてたら、
マキリ
2号が攻撃されて…
マキリ
マキリ
走って逃げたんだ…
2号が殺され動揺した私は、 その場から思わず 全力で走り去ってしまった。
ふらふら放心状態で歩くうち、 いつの間にか夕方に なっていたのだろう。
マキリ
スライの分裂体
なんだよね?
マキリ
本体のスライは
どうなっちゃうのかな…
“脳裏に焼き付く光景”が フラッシュバックすると ともに、
“最悪な想像”が 頭をよぎる。
それまで元気だった2号が 真っ二つになった瞬間。
スライムを瞬殺した 大剣男の、 鬼気迫る表情。
マキリ
思い出すだけで、ガタガタと 体の震えが止まらない。
マキリ
マキリ
いられない……か
現在、 私が立っているのは 我が家の玄関前。
…そう。
今朝、ヴィッテとスライが 送り出してくれた場所。
マキリ
ヴィッテちゃんに
伝えなきゃだよね…
マキリ
心配だし、
マキリ
逃げるわけには
いかないし…
マキリ
逃げたところで
行く当てはないもの
私は、意を決して 玄関のドアを開けた。
ヴィッテ
ヴィッテ
マキリ
文字表示(スライ)
>随分遅かったですね。
・・・・・・・・・・
マキリ
マキリ
よかったぁ……
いつも通りの元気なスライに、 私の中で張り詰めていたものが 一気にゆるんだ。