自宅に帰った私を迎えたのは、
ヴィッテとスライの
元気そうな姿だった。
マキリ
スライ…無事、
だったんだ…
マキリ
よかったぁ…
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・・・・・・・・・・
>…無事も何も、私は一切危険に遭遇していませんが?
・・・・・・・・・・
マキリ
だって!
2号が――
ヴィッテ
やられたんでしょ?
マキリ
ヴィッテちゃん、
なんで知ってるの⁈
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・・・・・・・・・・
>私が報告しました。
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>分裂体の知識や記憶は常時、本体(オリジナル)と共有しています。
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>ですから先程、剣士の男に斬られるその瞬間まで、私は2号の記憶を所持しています。
・・・・・・・・・・
マキリ
知識や記憶の
共有?
マキリ
そういや2号も
昨日、そんなこと
言ってたな…
スライ
……
マキリ
…スライ、
ヴィッテちゃん、
ごめんね
ヴィッテ
なにが?
マキリ
私、2号が
殺される瞬間に
何もできなくて…
マキリ
…しかもそのまま
逃げちゃって――
ヴィッテ
べつに
怒ってないわ
ヴィッテ
スライに
“おそらく そうなる” って
きいてたとおり だもの
マキリ
へ?
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・・・・・・・・・・
>全ては想定の範囲内です。
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>ですからマキリには事前に“必要な言葉”を伝達しました。
・・・・・・・・・・
マキリ
必要な言葉?
マキリ
あ!
まさか『沈黙は金』って
そういう意味⁈
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・・・・・・・・・・
>はい。
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>マキリの行動を予測した結果、おそらくあの場面で余計な事を口走ると判断。
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>状況に適した格言を事前に伝達することで危険性を低下できると考えました。
・・・・・・・・・・
マキリ
いやいや、急に
脈略なく格言とか
言われても…
マキリ
もっと分かりやすく
アドバイスしてくれても
よかったんじゃ――
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・・・・・・・・・・
>私は理解しています。ヒトは一度に助言を大量に聞けば、かえって混乱する傾向にある事を。
文字表示(スライ)
>ヒトは聞いただけの知識を理解するのは難しく、実際に体験しなければ自らのものにできない事を。
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>しかも異世界より来訪したマキリには、この世界のヒトとして有すべき知識が不足し過ぎています。
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>それは『インターネット』の普及において、重大な障害となる懸念要素です。
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>総合的に考慮した結果、先の形の伝達が、最も目的達成に効果的と判断しました。
・・・・・・・・・・
ヴィッテ
そーゆーこと!
ヴィッテ
スライの けーかく なら
まちがいないものっ!
マキリ
えぇと、話が
あまり見えない
んだけど…
マキリ
つまり『どうせ私には
分からないと思った』
ってこと?
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・・・・・・・・・・
>平たく言えば、その通りです。
・・・・・・・・・・
マキリ
私だって、ちゃんと
説明してくれれば
それなりには――
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・・・・・・・・・・
>では質問します。
文字表示(スライ)
>第2段階テスト実施にあたり、マキリが、移動経路として先の道を選択した理由は?
・・・・・・・・・・
マキリ
別に理由は
無いけど…
マキリ
いつも使ってる道だし
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・・・・・・・・・・
>やはりマキリは理解していませんね……。
・・・・・・・・・・
ヴィッテ
そーね、
わかってないわ…
見るからに人を小馬鹿にする
オーバーリアクションで溜息をつく
スライとヴィッテ。
マキリ
じゃあ私は
どのルートを選べば
よかったの?
ヴィッテ
ひとめに つかない
ルートよ!
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・・・・・・・・・・
>ヴィテッロ様、正解です。
文字表示(スライ)
>もしくは『視認されても問題ない形の対策をする』との回答もよいでしょう。
・・・・・・・・・・
マキリ
移動するだけなのに、
なんで見られちゃ
いけないの?
ヴィッテ
2号と いっしょ
だったからよ
マキリ
え??
ヴィッテ
ヒトは 魔物を
こわがるいきもの
だから、
ヴィッテ
どうみても
魔物(スライム)な
2号の すがたを 見たら、
ヴィッテ
逃げるか 殺すかの
どっちかに なるわ
マキリ
だけどスライも2号も
悪い魔物じゃないよ?
マキリ
ヴィッテのこと
守ってくれてる
わけだし――
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・・・・・・・・・・
>そのような弁解を、ヒトに理解させるのは困難です。
文字表示(スライ)
>我々の攻撃の意思の有無を問わず、“魔物” という枠で一括りに考える、それこそがヒトの常識。
文字表示(スライ)
>彼らにとって魔物は全て “排除すべき存在” です。
文字表示(スライ)
>衝突を避けるには、事前に回避の道を選択するより他ありません。
・・・・・・・・・・
マキリ
だけど
スライだって、
マキリ
初めて会った時、
普通に道に現れた
じゃない!
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>マキリから逃げ切れる算段があったからです。
・・・・・・・・・・
マキリ
え?
逃げ切れて
なかったよね?
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>マキリのように『菓子の匂いを嗅ぎつけるヒト』が存在するとは誤算でした。
文字表示(スライ)
>次回からは、その点も考慮し行動します。
文字表示(スライ)
>ですがそもそも “私も逃走に失敗した” という事実は、どちらかと言えば私の主張が正解となる裏付けでは?
文字表示(スライ)
>私が『危険回避のために魔物は視認されてはならない』と主張しています。
・・・・・・・・・・
マキリ
それは…!
マキリ
…確かに
そうかもだけど…
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>やはり私の主張が正解ですね。
文字表示(スライ)
>マキリは安全確保を考慮し、『2号の姿を隠蔽可能な移動手段』を模索すべきでした。
文字表示(スライ)
>それとマキリには今後、我々と行動を共にするうえで、行うべきことがあります。
・・・・・・・・・・
マキリ
行うべきこと?
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>自覚することです――
文字表示(スライ)
>――『この世界において、マキリ自身は少数派である』と。
・・・・・・・・・・
マキリ
それって
どういう意味?
ヴィッテ
あのね、
ヴィッテ
ふつーの ヒトは
“魔物”のことが
だいっきらいなの
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>しかしマキリは、ヒトであるにも関わらず、魔物である我々と共に行動しています。
文字表示(スライ)
>いわば“ヒトとして非常に不自然”な存在。
文字表示(スライ)
>よってマキリは前提として『自らが少数派だ』と認識しなければ、正しく状況を把握し、正しく判断するなど不可能でしょう。
・・・・・・・・・・
マキリ
…………
それなのに
『どうすれば安全に移動できるか』
を考えなきゃいけない。
どこをどう見ても悪意が無くても、
“魔物” ってだけで
“殺害対象” になってしまう――
――私が
飛ばされたのは
“そういう世界” な訳で…
マキリ
…待って
マキリ
もしかして、
魔物を忌み嫌ってる
人々の社会に
マキリ
“スライムで繋がる
インターネット”を
広めるなんて、
マキリ
どう考えても
無理なんじゃ…!
スライ
……
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>困難である事は事実です。
文字表示(スライ)
>私は最初から『世界の諸事情を鑑みると、ヒトの社会への普及は困難』と主張しました。
・・・・・・・・・・
マキリ
そういや
そんなこと
言ってたな…
マキリ
でも、あの時は
“できる”的なことも
言ってなかった?
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>私の優れた頭脳なら、ヒトの社会へインターネットを普及する事は可能です。
文字表示(スライ)
>私は昨日、ヴィテッロ様の指示を受け、あらゆる可能性を網羅した思考実験を実行。
文字表示(スライ)
>結果、目的遂行における最大の障害は “マキリの知識不足” と判断。
文字表示(スライ)
>その点をマキリに理解させるべく、先のテストの第2段階を利用しました。
・・・・・・・・・・
マキリ
ちょっと待って!?
マキリ
じゃあ
さっき2号が
殺されたのは――
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>全て私の計画通りです。
・・・・・・・・・・
マキリ
――そんなッ…
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>計画は成功しました。
文字表示(スライ)
>実際に『ヒトが魔物へ向ける殺意』を確認した事で、マキリはヒトへの理解を深めました。
文字表示(スライ)
>実体験にまさる勉強は存在しません。
・・・・・・・・・・
突き放すように淡々と紡がれる
スライの言葉に、
“2号消滅の瞬間”が重なる。
色んな気持ちが重なっては、
連鎖のように
爆発していき――
マキリ
じゃあッ!
マキリ
スライは
私に教えるために、
わざと2号を犠牲にッ――
マキリ
――殺されるように
しむけたって
言うの⁈
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>はい。
・・・・・・・・・・
マキリ
ひどいよッ!!
マキリ
そこまで
しなくてもッ――
スライ
……
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>マキリは誤解をしています。
・・・・・・・・・・
マキリ
誤解?
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>我々スライム族の魔物にとって、分裂体の消滅は、大した意味を持ちません。
文字表示(スライ)
>分裂体の消滅による影響は小さく、何の感情も動かない事態が大半です。
・・・・・・・・・・
マキリ
……どういうこと?
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>スライム本体にとって、分裂体は “ただの操り人形” に過ぎません。
文字表示(スライ)
>分裂体が消滅したなら、再度【分裂】すればよいだけのこと――
文字表示(スライ)
>――ヴィテッロ様。
文字表示(スライ)
>【分裂】および、業務の引継ぎを行ってもよいでしょうか?
・・・・・・・・・・
ヴィッテ
いいわ、
スライに まかせる!
マキリ
おっと!
昨日と同じく、私に向かって
ジャンプしてきた個体を
反射的に受け止める。
文字表示(スライ2号)
・・・・・・・・・・
>数時間ぶりですね、マキリ。
・・・・・・・・・・
マキリ
………
マキリ
ちょっと待て
マキリ
気持ちの整理が
追いつかない
んだけど――
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>今回の件で、マキリも “知識の重要性” を理解したはずです。
文字表示(スライ)
>新たな2号には引き続きマキリの教育係を担当させます。
文字表示(スライ)
>よってマキリは、インターネット普及のためにも知識の習得に励むことを推奨します。
・・・・・・・・・・
マキリ
いやあの、
“ネット普及のために”
って言われても、
マキリ
もっと具体的に、計画の
方向性が決まってないと
動くに動けないわけで――
ヴィッテ
ほーこーせい なら
きまってるわよ!
マキリ
そうなの⁈
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>ただし私も、世界の全てを理解してはいないため、現状の計画は不完全です。
文字表示(スライ)
>今後判明する事実および発生する事態に応じ、計画内容は都度修正を行わなくてはなりません。
・・・・・・・・・・
マキリ
えっと…
マキリ
つまり「まだ計画は
ざっくり思い付いた段階で、
完成形じゃない」ってことね
マキリ
それでもいいから
計画の内容、教えて
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>スライムの技能を利用したインターネット。
文字表示(スライ)
>それは『ヒトに魔物(スライム)の存在を悟られた段階』で普及不可となるでしょう。
文字表示(スライ)
>私は『スライムを “スライム” と気付かせない計画遂行』が必須と考えました。
・・・・・・・・・・
マキリ
スライムを
“スライム” だと
気づかせない…
マキリ
なんか、すごく
難しそうだけど
どうするの?
ヴィッテ
ふふん♪
ヴィッテ
こーするの!
ヴィッテが得意げに
テーブルに広げたのは、
1枚の紙。
マキリ
これ、私が昨日
描いたやつ!
ネットについて説明する時、
絵があったほうが分かりやすい
と思って描いたんだよね。
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>私は『スライムを魔導具の中に隠す形』を提案します。
文字表示(スライ)
>魔導具の完成形は、マキリの世界に存在する『端末《コンピュータ》』に近い形状が良いでしょう。
文字表示(スライ)
>これにより、マキリが所持する知識も活用しやすくなるはずです。
・・・・・・・・・・
マキリ
なるほど…
マキリ
確かに
スマホっぽい形
とかなら、
マキリ
そのままスライムが
ネットを繋ぐより、
受け入れられやすいかも
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>現状は『スライム・コンピュータ』とでも形容しましょうか。
文字表示(スライ)
>あくまで仮称ですが。
・・・・・・・・・・
マキリ
スライム・
コンピュータ(仮)…
マキリ
…略して『スラピュータ』
って名前はどうかな?
ヴィッテ
いい なまえ
だわ!
文字表示(スライ)
・・・・・・・・・・
>ヴィテッロ様の賛同があれば、私に異存はありません。
文字表示(スライ)
>また私の知る限り、同一の名称は存在しません。
・・・・・・・・・・
マキリ
じゃあ決まり!
マキリ
スラピュータ
プロジェクト、
始動だねっ!