タケナガ
いやいや、遠路はるばる申し訳なかったね。

タケナガ
うちのはお転婆だから、貰い手なんて物好きはいないと思っていたんだがなぁ。

ミホ
お父さん、それって流星君が物好きってこと?

タケナガ
いや、そんなつもりは……。

リュウセイ
いえいえ、かなりの物好きかと思います。

リュウセイ
鬼の刑事と呼ばれるお義父さんとも、うまくやっていけそうですし。

ミホ
確かに、お父さんとウマが合う時点で物好きだよね。

ミホ
お父さん、頑固で融通がきかないから。

タケナガ
こ、こいつは一本取られたな。

ミホ
まぁ、でも良かったよ。こうして結婚を認めてくれてさ。

リュウセイ
男手ひとつで美穂さんをここまで育ててくださったんですものね。

リュウセイ
しかも、刑事という激務の中で。

タケナガ
まぁ、周りに無理を言ったし、協力もしてもらったがね。

タケナガ
この子が幼い内に、母親が逝ってしまうなんて考えてもいなかったがな。

タケナガ
で、明日から早めの新婚旅行か……。

リュウセイ
えぇ、沖縄ですけどね。

タケナガ
ずっと行ってみたいって言ってたもんな。

タケナガ
俺は一緒に行ってやれないが――。

武永はそこで言葉を区切ると、テーブルの下に隠しておいたものを取り出し、テーブルの上に置く。
タケナガ
これは俺からの餞別だと思ってくれたらいい。

ミホ
……お父さん。今の時代って、ネットで簡単に情報を調べられるんだよ?

ミホ
それに、この手の観光誌って、妙に場所を取るサイズなんだよね。

リュウセイ
こら、美穂。お義父さんの気遣いなんだから――。

ミホ
まぁ、ありがたく受け取っておきます。

ミホ
スーツケースの中に入るところあったかなぁ……。

美穂は観光誌を受け取ると、それを傍に置くと、内容をざっと確認するためか、ページをパラパラとめくろうとする。
タケナガ
おっと、そういうもんは旅行先で見るんだよ。

タケナガ
今見るのは無粋ってもんだ。

ミホ
えー、それこそさ、こんなのを旅行先で広げてるのっておかしくない?

ミホ
もうちょっとサイズ感どうにかならなかったのかなぁ。

文句を言い続ける美穂の姿を見て話題を変えようとしたのか、武永が切り出す。
タケナガ
で、一旦家に帰るのか?

リュウセイ
はい、今日の夕方には出て、夜には自宅ですね。

タケナガ
いっそのこと、ここから直接……なんて言っても、ここは田舎だからなぁ。

ミホ
結局、空港に近いとなると、私達が住んでるマンションのほうなんだよねぇ。

ミホ
まぁ、荷物もマンションに置いてあるわけだし、旅行の前の日くらいは家でゆっくり寝たいもの。

ミホ
お父さんに晩酌を付き合わされる流星君の身にもなってよ。

リュウセイ
まぁ、僕も嫌いじゃないんですけどね。

リュウセイ
お酒……。

ミホ
はぁ、毎晩飲み潰されていたのに良く言うよ。

タケナガ
それを見越して、ここまでバスで来たんだろう?

タケナガ
帰りは駅前のロータリーまで送ってやるからな。

リュウセイ
お、雷ですか――。

タケナガ
どうやら、ちょうど帰る時間帯辺りに一雨ありそうだな。

ミホ
お父さん、昔から疑問なんだけど、どうして雨が降るタイミング分かったりするの?

タケナガ
――雨の匂いがするんだよ。

リュウセイ
雨の匂い?

ミホ
私には分からないけど、雨が降るぞ……ってお父さんが言うと、その後必ず降るんだよね。

タケナガ
田舎の人間はな、雨の匂いが分かるんだよ。

この時の武永の言う通り、美穂達が帰る頃には、辺りは雷鳴轟く豪雨となった。
見事に雨を予測できた武永だったが、こればかりは予測できなかった。