Prから彼の親友について聞かされた次の日の放課後、
オレは彼に連れられてAkの病室に来ていた
Pr
Ak、Mz連れてきたでー!!

Prが車椅子に座っている誰かに声をかけると、
彼は手に持っていた文庫本をサイドテーブルに置き、こちらを向いた
Ak
Prーのすけ、今日も来てくれたんだ

Ak
あっ、隣の子がこの前話してたMzくん!?

Pr
せやで!!

PrにAkと呼ばれた身長の高いオレ達と同年代くらいの青年は、
オレのことを見ながら人のいい笑顔を浮かべる
ニコニコと明るく笑っている彼は、
パッと見ただけではあんな苦しい過去を持っているような人には見えなかった
Mz
(まあ、それに関してはPrも同じだけど、、、)

Ak
Mzくん、初めまして!!

Ak
オレはAk、Prーのすけから話聞いてるよ

Mz
こんにちは、お邪魔してます、、、

Ak
タメ口でいいよっ、同い年だし!!

Ak
ねーねー、君のことMzちって呼んでいい?

Mz
え

Ak
嫌だったらやめるけど、、、

Mz
あ、いや、嫌なわけじゃなくて、、、

Mz
その、誰かにあだ名つけられるの初めてだから、少しくすぐったくて

Ak
あ、そーいうことね!!

Ak
じゃあMzちって呼ぶね、よろしくMzち!!

Mz
えっと、オレも呼び捨てでいい、?

Ak
もっちろん!!

Pr
なんでそんな一瞬で仲良くなれるん、
俺Mzに友人って認めてもらうのに数日くらいかかったんやけど

Ak
まあオレは距離の詰めかたが普通と違うからなあw

Mz
でも、2人ともすごいよ

Mz
オレ、元々人と関わるのとか
面倒臭いって思ってるタイプの人間だったから

Mz
PrとかAkぐらいグイグイ来てもらわないと
逃げ腰になっちゃうというか、、、

Ak
え?それってオレもPrーのすけも
めちゃくちゃグイグイ来るってこと?

Mz
うん、まあ、そう

Pr
面倒臭くなったら言ってな?やめるから

Mz
大丈夫だよ、それどころかちょっと嬉しい

心配そうな顔をしているPrにオレがちょっと勇気を出して素直に答えると、
彼はとても嬉しそうに笑った
Pr
えー、そう言ってもらえるとうれしいわ

Ak
オレ今自分が割とグイグイいけるタイプでよかったって思った

Pr
ほんま、AkもMzもこんなに楽しくていい奴なのに
それを責める奴らの心境がわからんわ

Ak
Prーのすけ、Mzちには例の件話したの?

Pr
おん、一応共有しておいた方がいいと思って

Pr
嫌やった?

Ak
ううん、Prーのすけが大丈夫って判断した人なら大丈夫だよ

Pr
よかった

Prの疑問にそう即答するAkの姿を見て、
この2人がいかにお互いを信頼しあっているのかを思い知る
Mz
(すごいなあ、そこまで誰かと仲良くなれるの)

Mz
(Prのおかげで誰かと仲良くすることには抵抗無くなってきたけど)

Mz
(あそこまで誰かを信じてる自分は、まだ想像できないな、、、)

Ak
そういえば、突っ込んでいいことなのかわかんないけど、、、

Ak
Mzちも、その、クラスメイトから嫌なことされてたりするの?

Mz
まあ、そうだな

Mz
ちょっと持ち物隠されたりとか、そんくらい、、、

シャーペンの件を2人に話すのはまだ心の準備ができていないので、
オレはそう答えることで適当に誤魔化す
彼はオレがその答えをぼかしたことに
気がついているのか気がついてないのか、そのまま続けた
Ak
そっかあ

Ak
誰かに酷いことされるのって、
自分の存在を否定されているみたいで辛いよね

Ak
オレの場合はPrーのすけがいてくれたから、
酷いことされても自分を必要としてくれる人がいるって
前を向いて生活することができてたけど、、、

Ak
Mzちは、そういう人いた?

Mz
……。

オレの反応を見てAkはその答えを察したのか、
眉尻を下げていたわるような表情を浮かべながらこう告げる
Ak
……そっか

Ak
頑張ったね、Mzち

彼の口から紡がれたその言葉は偽善に塗れた大人達がいいそうなものと
言葉の並びこそ同じものの、苦しみを知っている者にしか出せない
不思議な重みを持った心に染みる言葉だった
Akの言葉に涙がこぼれそうになっている自分がいて、
海岸でAtに自殺を止められた時に少しよぎった自分の深層心理が
あの時よりも鮮明にわかる
Mz
(やっぱりオレ、心のどこかで救ってほしいって思ってたのか、、、)

Mz
(あの日Atに自殺を止められて、もうちょっと生きてみることにして)

Mz
(こんなに優しい奴らと出会えて、友達になれた)

Mz
(もしあのまま死んでたら、
オレはこんな幸せ知らないで死んでただろうな)

Mz
(生きていてよかった、って、久しぶりに心の底から思えた)

Mz
(今度Atに会ったら、ちゃんとお礼言わないと)

Ak
Mzち?

Mz
ごめん、Akにそう言ってもらえていろんなものあふれちゃって

Ak
そっか、本当に辛かったんだね

オレの瞳から勝手にポロポロとあふれてくる数年ぶりの涙を、
Akが優しい顔をしながらその手でぬぐってくれる
Akのこともあったからなのか、こういうときに相手が何を望むのか
下手したら大人達よりよくわかっているであろうPrが、
優しい手つきで背中をさすってくれる
今まで愛を受け取ってこなかった分、
こいつらの友愛が何よりも嬉しくて、また泣いてしまうという
無限ループに突入してしまった
Mz
(こいつらには、いつかあのことも打ち明けたい)

Mz
(まだ覚悟は決まってないけど、ちゃんと伝えたい)

しばらく泣き続けて涙もおさまってきたころ、
オレはサイドテーブルに置いてあるラノベを見て目を見開いた
Mz
これ、、、

Mz
(オレが今、読んでるやつだ)

Ak
あれ、Mzちそれ知ってるの!?

Pr
この前Mz、確かこのシリーズの一巻借りてたよな

Mz
そうそう、知り合いに勧められて、、、

Mz
それにしても意外だな、Akってこういうのも読むんだ

Ak
実は同じ病院に本好きの子がいて、
その子のイチオシのシリーズなんだってさ

Mz
へぇ、、、

オレがやっぱりこのラノベは流行っているのだろうかと考えながら
その表紙をぼーっと眺めていると、病室のドアが開いて
看護師さんらしき桃色の髪の男性が入室してきた
Kty
Akくん、今日の分の夕食持ってきたよ

Pr
あ、俺が運びます

Kty
ほんと!?ありがと!!

手伝いを申し出たPrにその人は元気な笑顔を浮かべると、
Akの隣に立っているオレを見て目を見開いた
Kty
あれ、見かけない子だね

看護師さんの言葉に、Akの元まで食事を運んでいたPrが答える
Pr
その子俺のこっちの学校での友達で、Mzって言うんです

Kty
あ、Prちゃんの新しいお友達ね

Ak
オレの東京でできた3人目の友達でもあるよー!!

Pr
え、残りの2人誰?

Ak
Ktyちとー、本交換してる子!!

Pr
本交換しとる子はまだええとしてKtyさん友達扱いなんか、、、

Kty
www

Pr
Mz、この人はAkの担当看護師さんでKtyさんって人

Mz
Kty、さん?

Kty
そうだよ!!よろしくね

そう言ってにこりと笑ったKtyさんの笑顔は、
どことなくTg先生と似ているような気がした
Mz
(2人は多分面識ないし、
ちょっと雰囲気似てるだけなんだろうけど、、、)

Ak
ねーねーKtyち、あの子から続き借りてくれた!?

Kty
あ、それがね

Kty
その子、最近ずっと寝ててあんまり起きてないんだよね、、、

Kty
だから申し訳ないけど、本は持ってきてないよ

Ak
そうなんだ、今度病院のコンビニでパイナップルゼリー買ってきて
お大事にって気持ちを込めてKtyさん通して渡そうかな、、、

Ak
確かその子はパイナップルゼリー好きなんだよね?

Kty
好き、っていうか、他のものより食べるのが早いって感じだけど、、、

Kty
あの子、基本的に無表情だから

Ak
そっかぁ、そうだよね

Ktyさんの言葉を聞いてうつむいたAkの顔には心配の色が滲み出ていて、
彼の人の良さと読書友達への友愛が手に取るようにわかった
Ak
顔も名前も知らないのに、w

Kty
まあでも、最近の子達だと読書を楽しむ子って少ないから

Kty
そこを共有できるのは結構大きいよね

Ak
本の話ならKtyちともできるけどさあ、、、

Ak
やっぱり価値観とか受け取り方が大人びてるじゃんっ!!

Kty
大人だからねーw

Mz
Ktyさんも読書するんですか?

Kty
いっぱいするよー、僕の恋人が本大好きだし

Kty
高校時代は図書室に入り浸ってたしねw

Pr
Ktyさん恋人いんの!?

Ak
それはオレも初耳っ!!

Kty
今初めて言ったからねw

Ak
その子可愛い!?プロポーズする!?

Kty
ふふ、内緒w

Pr
えーーーーーー

恋愛の話になった瞬間目の色を変えたAkとPrにオレが苦笑しながら
3人のやり取りを聞いていると、そういえば、とKtyさんが何かの紙を出した
Kty
ラノベは借りてこなかったけど、
その子が書いたAkくんの本の感想文は持ってきたよ

Ktyさんが大量の文字が書かれたA4の紙を数枚机に置くと、
Akは嬉しそうに目を輝かせる
Ak
あの子、ちゃんと読んでくれたんだ!!

Kty
一生懸命書いてたよー、読んであげてね

そこまで言うとKtyさんは、じゃあ僕はこの辺で、と
病室から出て仕事に戻った
オレが後ろからAkが抱えているその紙を覗き込むと、
そこに書かれている字はとても丁寧で
その人が心を込めて書いたのだろうなということが伝わってくる
Pr
やば、めちゃくちゃ字綺麗やん、、、

Mz
オレこの人の字すごい好き

Ak
その子、国語がすっごく得意なんだって

Mz
へぇ、そうなんだ

その後もAkのその読書友達についての話を聞いていると、
Prが時計を見て言った
Pr
やば、もう面会時間終わるやん

Mz
ほんとだ、外も結構暗いな

Mz
(ここまで暗いとAtももういないだろうな、、、)

Mz
(ここ最近あいつに会いに行ってないし、明日は海岸行くか)

Ak
えーっ、2人とももう帰っちゃうの!?

Ak
人が増えるとその分楽しいけど、
その人達が帰る時の寂しさも増えちゃう、、、

Pr
なんかその気持ちわかるわーw

Pr
何もなければ俺は明日もまた来るわ

Ak
うう、待ってる、、、

Ak
Mzちは次いつ来る?

Mz
うーん、平日の夕方はちょっと用事があるから
次来るのは週末の昼間とかかなあ、、、

Ak
ずっと先じゃあああああん!!

Pr
ゆーて2、3日やろw

Ak
それでも寂しいもんは寂しいよぉ、、、

Mz
ごめんAk、でも夕方はちょっと外せなくて、、、

Ak
うう、Mzちにとって大事な用事なんだろうから
ちゃんと我慢するよ、、、

Pr
Akはちゃんと我慢できてえらいなーwww

Ak
それ絶対からかってるでしょ!!w

Pr
www

病室にオレたち3人の笑い声が響き渡り、
Akの病室が個室であったことに安心する
こんなに楽しい時間が過ごせているのもひとえにAtのおかげだな、と
思いながら、オレはひとしきり笑った後Prと一緒に病室を後にした