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ナナセ
その誰かの顔は曖昧で、目覚めた瞬間にはもう覚えていない。だが、手の中の温かく濡れた感触だけは、現実のようにリアルだった。
目が覚めた朝。制服に袖を通しながら、背中にチクリとした違和感を覚えた。鏡を使って確認してみると、そこには朱色の印が浮かんでいた。
ねじれた勾玉のような形。血のような色。触っても痛くもかゆくもない。でも、確かにそこにある。
ナナセ
独り言が、空虚に部屋の中へ消えていく。
この日から、「夢」は現実に滲み出すようになった。
校舎のガラスに浮かぶはずのない顔。教室の窓の外に立つ影。誰もいない図書室で響く笑い声。
そして、帰り道。
誰もいない夕暮れの路地で、そいつは現れた。
白い狐面。古びた狩衣のような服。声は男とも女ともつかず、耳元に直接語りかけてくるようだった。
狐面の存在
狐面の存在
ナナセは、黙っていた。恐怖よりも、何かが喉の奥で疼いた。
……記憶を返す? ……思い出したくない、正体?
わからない。 でも、知りたい。