蝶屋敷の奥の部屋
芙梛の部屋には、淡い灯りが灯っていた
静かすぎる程の静寂の中で 芙梛と無一郎は向かい合って座っている
暫く言葉も交わさず、 芙梛は膝の上で指をぎゅっと握っていた
そして、やがて意を決したように口を開く
芙 梛
...全部は言えない
芙 梛
でも、...ほんの少しだけ
芙 梛
話してもいい...?
時 透
うん
無一郎は静かに頷いた
彼の目は、真っ直ぐ芙梛を見ている
芙 梛
私ね、鬼...なんだ
芙 梛
"上弦の零" 、それが私
時間が止まったように、 部屋の空気が一瞬にして重くなる
外からは虫の声すらも聞こえない
無一郎は、少しだけ視線を落としてから、目を閉じた
まるで、その事実を静か に自分の中に落とし込もうとしているように
やがて彼は、目を開いて言った
時 透
...そうなんだ
その言葉は予想とは違って、驚きや怒りではなかった
何処までも、静かで、優しかった
時 透
何となく、分かってた気がするんだ
時 透
芙梛と、前に会った "上弦の零" が似てるって
時 透
ずっと、そう思ってたからね
芙梛はその場に俯きそうになるのを堪えて、 唇を噛み締める
芙 梛
それでも、言ったら...
芙 梛
きっと、無一郎に嫌われるって思ってた
時 透
それは違うよ
そう言って、無一郎は芙梛を真っ直ぐ見つめた
時 透
僕は多分、芙梛の事が...
時 透
好きなんだと思う
時 透
だから、君が鬼だって知っても...斬ろうとは思えない
言葉の一つ一つが、芙梛の胸の奥に刺さってゆく
そして心の何処かが、じんわりと温かくなる
芙 梛
ッ...でも私、鬼なんだよ?
芙 梛
人を殺した事だって、ある
芙 梛
無一郎と一緒にいちゃいけないの
時 透
だったら、どうすれば一緒にいられるかを考える
時 透
僕は、それを選ぶよ
芙梛は何も言えなかった
ただ、涙が勝手に零れ落ちた
無一郎はそっと、芙梛の手を握る
その手はまだ震えていたけれど、少しだけ温かかった






