さおり
夏美、『猿夢』って知ってる?

夏美
知ってるよ。寝る度に同じ夢が続いていって、最後は…ってやつでしょ?

さおり
そんな感じの。

夏美
それがどうかした?

さおり
いや、知ってるなら説明しやすいなって

夏美
?

さおり
実は私さ…似たような夢を見るようになっちゃったんだよね

夏美
どんな?

さおり
私の夢も電車の中の夢なんだけど…乗客がまばらな電車の中

さおり
そこに…体がぐちゃぐちゃになった人が別車両から入ってくるの。

夏美
うぇ〜…

さおり
それだけでも気味悪いよね。だけどそれだけじゃないの

さおり
そのぐちゃぐちゃの人は乗客一人一人の顔を覗き込んで何か言ってるの

さおり
そのうち私のところにもぐちゃぐちゃの人が来て…

さおり
「僕のこと知りませんか」って…聞いてきたの

さおり
それが初めて見た夢だったから、当然その人のことなんて全然知らなくて「知りません」って答えた

夏美
そしたら?

さおり
そこで目が覚めた

夏美
…もしかして次その夢見たらやばいんじゃ…

さおり
私もそう思ったよ。でも結局さっき言った『猿夢』みたいな怪談に触発されただけじゃないかな、と思って次の日もちゃんと寝たんだよ。

さおり
それが一週間前の話。

夏美
なんだ余裕じゃん

さおり
うん。だってそのぐちゃぐちゃの人、いつも違う人だから。

夏美
夢は一応見るんだ…

さおり
あれから毎日、ね…

夏美
大丈夫?夢の結末どうこうより、そんな夢毎日見てたら精神的に参るんじゃ…

さおり
うん…だから相談したんだ。一人で抱え込むよりは誰かに共有した方が楽になるかもと思って。

夏美
そりゃそうだよ。

さおり
こんな話、ちゃんと聞いてくれるの夏美だけだよ。ありがとう。ほんとに楽になった気がする。

夏美
あまり無理しないようにね?また見ちゃったら遠慮なく相談して

さおり
ありがとう…

美希
夏美

美希
今、いいかな

夏美
うん

美希
さおちゃんのこと、なんだけど…

夏美
うん…

美希
どうしてさおちゃん…夏美に何か言ってた?

夏美
二週間前ぐらいからずっと、悪夢にうなされてるって相談は受けてた。

美希
悪夢…悪夢見るほど悩んでたのかな…私にも相談して欲しかったよ…

夏美
…

電車内


夏美
電車の…中…

夏美
ち、ちがう…きっと、さおりの話を聞いたから、それでこんな夢を見てるんだ。

それを確認したついでに視界に入れてしまった『ぐちゃぐちゃの人』。
ぐちゃぐちゃの人はその一人一人の顔を覗き込んで何かを言っている。
夏美
あ、ひ、あぁ…

さおりは知ってる人にとうとう出くわして、ああなったんだろうか。
夏美
やだ…早く、目覚めて…

不自然に曲がった足が見えてそれを悟ったのも束の間、
さおり
私のこと、知りませんか
