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小さい子供が駆け回り、それを母親らしき人物がいさめている様子を横目に朝比奈柚希はスマホを見つめていた。
ガヤガヤと人が混み合うショッピングモールで、柚希はとある人物を待っていたのだ。
ちょうど、その人物から連絡が来た。
誤字の無い丁寧な文章は、その人の性格を表しているように感じ取れた。
彩夏さんから言われた通り、近くにあるお菓子コーナー等可愛いものが売っている場所を重点的に見て回った。
やがてしばらくすると、彩夏さんから到着を知らせる連絡が来た。
しばらくすると、彩夏さんがベビーカーを押してやって来た。
久我彩夏
そのベビーカーでは彩夏さんの双子の娘がうにうにと動いていた。
朝比奈柚希
柚希は赤ん坊達に心を奪われた。
久我彩夏
朝比奈柚希
赤ん坊があうあう言っている様子が愛おし過ぎて、10分はその場に鎮座していた。
しばらくしてから、二人で調理器具売り場に向かった。
久我彩夏
朝比奈柚希
前回、かなりの勢いで卵焼きを焦がしたので唯一あったフライパンが駄目になってしまったのである。
次の日に料理を教えてもらおうと隣人の高瀬朔也の部屋を訪ねたのだが、フライパンを買って出直して来いと切られたのだ。
朝比奈柚希
そう言って早速フライパンを彩夏さんと一緒に見繕った。
フライパンにはかなりの種類があった。
取っ手が外れるものや、焦げ付きにくいコーティングがされているものまで勢揃いだった。
朝比奈柚希
しかし、色々見て回るが料理の知識がまるで無い柚希には何が何だかサッパリだった。
久我彩夏
彩夏がオススメした物は、少々お値が張るが文句無しの良い代物だった。
朝比奈柚希
久我彩夏
色は、ホワイト、ブラック、ピンク、ブルー、グリーン、イエローの六種類あった。
朝比奈柚希
しばらく悩んでいたが、柚希は緑が好きなのでグリーンにする事にした。
久我彩夏
朝比奈柚希
久我彩夏
朝比奈柚希
久我彩夏
相手に気を遣わせない言い回しは、まさに上司の鑑だった。
朝比奈柚希
久我彩夏
新しくオープンしたカフェ《Okey-Dokey》は、内装も現代風でとてもオシャレなカフェだった。
中でもこの店のパンケーキは、味良し、映え良し、見た目良しの3種盛りだそうで...
店員
店員さんが丁寧に接客しているので、ここの職場はホワイトなんだろうなぁと感じた。
朝比奈柚希
高校時代に唯一したコンビニバイトの失敗を思い出して死にたくなったが、今は気にしないでおいた。
久我彩夏
朝比奈柚希
久我彩夏
朝比奈柚希
久我彩夏
そう言って彩夏さんはブラックコーヒーとショートケーキを頼んだ。
朝比奈柚希
店員
一通り注文を終え、先程の話の続きを始めた。
朝比奈柚希
久我彩夏
朝比奈柚希
彩夏さんの発言が上手く理解出来ず、柚希ははてなマークを浮かべた。
久我彩夏
その時点でようやく理解した。
朝比奈柚希
久我彩夏
久我彩夏
朝比奈柚希
久我彩夏
朝比奈柚希
柚希はそんな上司を持てて心から幸せだと感じた。
久我彩夏
そうやって照れる彩夏さんを笑顔で見ていると、店員さんが頼んだ商品を持ってきた。
店員
朝比奈柚希
久我彩夏
朝比奈柚希
柚希が頼んだチョコケーキは、意外とお高めだったがその理由も分かるくらいに高級感のある見た目だった。
朝比奈柚希
光り輝くイチゴを見て柚希は目を輝かせた。
久我彩夏
朝比奈柚希
柚希は手を合わせて早速チョコケーキを口に入れた。
なんと...甘さはもちろんだが苦味がありそれがチョコの味を引き出していてとても美味しかった。
朝比奈柚希
久我彩夏
朝比奈柚希
しばらくして、柚希は気になった事を彩夏さんに尋ねた。
朝比奈柚希
そう尋ねると彩夏さんは遠い目をして話し始めた。
久我彩夏
久我彩夏
朝比奈柚希
衝撃の事実を聞いて驚いた。
久我彩夏
朝比奈柚希
そう言うと彩夏さんは笑みを浮かべた。
久我彩夏
朝比奈柚希
驚きで何度声が出たか分からなかった。
朝比奈柚希
そう尋ねると、彩夏さんはとある人の写真を柚希に見せてきた。
朝比奈柚希
久我彩夏
朝比奈柚希
嘘だと思いたかった。
こんなに誠実で優しい人がこんなヤンキーだったなんて...信じられないにも程があるだろうっ!
久我彩夏
久我彩夏
朝比奈柚希
久我彩夏
そう言って彩夏先輩は微笑んだ。
久我彩夏
そう言って双子の方を見た。
久我彩夏
柚希は羨ましく感じた。
結婚したらこんな幸せな生活が送れるのかぁと呑気に考えていた。
久我彩夏
朝比奈柚希
なんて愛想笑いをしたが後に後悔する事になるとは思いもしていなかった。
久我彩夏
彩夏さんがそう尋ねた。
朝比奈柚希
その時まずい事を言ってしまったと思った。
久我彩夏
やっぱり聞かれてしまった。
柚希が料理に挑戦しようと思ったきっかけは同期の堂本佳奈なのであながち間違いでは無いのだが、理由は他にもある。
それは、アパート《nerima》に住んでいる高瀬朔也という男だ。
柚希は彼の秘密を知ってしまったので極力彼の話題を出すことをしたくない。
なにせ柚希は口が軽いからだ。
朝比奈柚希
そう思い口をつぐんだ。
久我彩夏
朝比奈柚希
絶対に話してはならない。
話したら…何をされるか分かったもんじゃ無いっ!!
家に帰って柚希はベッドに飛び込んだ。
朝比奈柚希
楽しい事をしても人間というのは疲れる生き物なのである。
朝比奈柚希
そう言って柚希はおもむろにスマホを弄り始めた。
そして、YouTubeを開きsakuyaと検索をかけた。
朝比奈柚希
思わず声が出てしまった。
朝比奈柚希
今まであまり見た事がない数のチャンネル登録者数を持っている人間と、私は話してしまったのか...
朝比奈柚希
そんな不吉な事を口にしていると、ある事を思い返した。
朝比奈柚希
そんな事を考えながら画面をスワイプしているの、ある動画が流れてきた。
朝比奈柚希
もしもこれを作れるようになれば、朔也さんに認めて貰えるかもしれない。
柚希の妄想内
朝比奈柚希
高瀬朔也
朔也が料理を口に含む。
高瀬朔也
朝比奈柚希
高瀬朔也
朝比奈柚希
朝比奈柚希
そんなどうでも良い妄想を繰り広げていた。
そんな時、家のチャイムが鳴り響いた。
ピンポーン...
朝比奈柚希
朝比奈柚希
朝比奈柚希
そう返事をして扉を開けるとそこに居たのは長身のイケメン・高瀬朔也だった。
朝比奈柚希
高瀬朔也
しまった。
つい妄想してる時の癖が出てしまった。
朝比奈柚希
高瀬朔也
朝比奈柚希
これは、告白と捉えて良いのだろうか。
朝比奈柚希
高瀬朔也
朝比奈柚希
そう言って無理矢理中に入れられた(一応私の家)
朝比奈柚希
そう言っている柚希を横目に朔也はタッパーを机に並べていた。
そのタッパーの中には宝石のようにキラキラと輝く料理がたくさん詰まっていた。
朝比奈柚希
高瀬朔也
高瀬朔也
朝比奈柚希
何を言っているのかさっぱり分からなかった。
朝比奈柚希
高瀬朔也
なるほど。
その為にここに来たのか...となんだか残念な気持ちになった。
朝比奈柚希
高瀬朔也
どうやら訳ありらしい。
高瀬朔也
朝比奈柚希
正直残念な気持ちが強かったが、とりあえず試食してみる事にした。
まず1つ目は鮭とひじきを使った炊き込みご飯だった。
1口食べると出汁の風味が効いた優しい味でとても美味しかった。
朝比奈柚希
高瀬朔也
朝比奈柚希
高瀬朔也
そう呟きながら朔也はメモをとる。
2つ目はほうれん草が入ったクリームオムライスだそうで、こちらも1口食べた。
朝比奈柚希
高瀬朔也
朝比奈柚希
高瀬朔也
なんだか俯いて元気がないように感じた。
朝比奈柚希
柚希は朔也が不思議に感じた。
朝比奈柚希
高瀬朔也
悟るのだけは一丁前に上手いのか。
朝比奈柚希
高瀬朔也
最後、3つ目はおでんだった。
朝比奈柚希
柚希はキョトンとした顔をして尋ねた。
高瀬朔也
いや、確かに美味しい。
でも正直出す順番を考えて欲しかった。
オムライスの後におでんは厳しい...
高瀬朔也
朝比奈柚希
柚希はおでんの大根を口に頬張った。
幸いにも冷めていたので比較的食べやすかった。
噛めば噛むほど出汁が口の中に広がってとても美味しかった。
高瀬朔也
朝比奈柚希
高瀬朔也
そう言って朔也は微笑みを見せた。
朝比奈柚希
高瀬朔也
朝比奈柚希
確かに今、朔也が微笑んだ様に見えたのだ!
高瀬朔也
朝比奈柚希
普通に聞いたら失礼なワードをふんだんに詰め込んだ。
高瀬朔也
朔也はそう否定した。
けれど、若干食らっている様に感じ取れた。
朝比奈柚希
そう言って鮭とひじきの炊き込みご飯をまた口に放り込んだ。
高瀬朔也
そう言って朔也は立ち上がった。
朝比奈柚希
柚希も焦って立ち上がった。
高瀬朔也
ずるい。
仕事を引き合いに出されると止められない。
朝比奈柚希
そう返事をすると、朔也は帰っていった。
朝比奈柚希
そう不貞腐れながら自分の部屋に戻った。
次の日。
目覚まし時計が鳴る間、柚希は寝ぼけ眼を擦っていた。
朝比奈柚希
今日は休日で特に予定も無い日だ。
なので特にすることが無い。
朝比奈柚希
朝比奈柚希
買い物といえば思い出した。
そう思いガサゴソと袋から取り出したのは、かつて買ったフライパンだった。
朝比奈柚希
そう決意して柚希はキッチンに立った。
そして、先日YouTubeで見た動画を開いた。
朝比奈柚希
朝比奈柚希
そう読み上げながら作っていたが、相変わらずの不器用さだった。
朝比奈柚希
そう思い水でほうれん草を洗った。
ほうれん草はとても良い新緑具合だった。
そう思い出しながらまな板の上に束ねたほうれん草を乗せた。
次に包丁を持つ。...が
包丁を持つ手が震えており心もとなかった。
朝比奈柚希
柚希は震える手を抑えながらほうれん草を切った。
ようやくほうれん草を切り終えた後痛感した。
朔也さんは当たり前のように包丁を使えていた。
それは、長年の練習の賜物なのだろう。
朝比奈柚希
柚希は少しガッカリした。
けれどそんな事を今更考えた所で時間が戻ってくる訳ではない。
そう気を取り直し柚希は再びほうれん草を切り始めた。
しかし...
朝比奈柚希
ほうれん草を切っている最中、柚希は指を包丁で切ってしまった。
朝比奈柚希
そんな事を考えている内に指から血が垂れてきていた。
朝比奈柚希
血が垂れてくる指を見て柚希は焦った。
もしもこのまま血が止まらずに失血死してしまったらと考えると背筋が凍った。
朝比奈柚希
そう思いつきスマホで止血の方法を調べようとすると...
ピンポーン
家のチャイムが鳴り響いた。
朝比奈柚希
そうぶつくさ言いながらも部屋の扉を開いた。
朝比奈柚希
杉本トキ
扉の前に立っていたのは杉本トキさんというここ、アパート《nerima》の大家さんだった。
朝比奈柚希
トキさんは大きな紙袋を持って曲がった腰を抑えながら訪ねてきた。
柚希は慌てて大きな紙袋を手に取った。
杉本トキ
おばあちゃん特有の微笑みはいつ見ても癒されるものがあった。
朝比奈柚希
柚希がそれとなく尋ねるとトキさんは目を見開いた。
杉本トキ
そう言われ袋の中身を確認すると中にはタッパーに入った炒飯等の料理と桃が入っていた。
朝比奈柚希
柚希の家はお世辞にも金持ちと言える程では無かった。
ましてや桃なんて高くて食べる機会が滅多に無いのだ。
杉本トキ
申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、断るのも気が引けたのでありがたく頂いた。
杉本トキ
柚希の耳が動いた。
高瀬...朔也の事だ。
何かあったのだろうか。
朝比奈柚希
杉本トキ
料理というのは昨日食べたタッパーに詰められたオムライスや炊き込みご飯の事だろう。
朝比奈柚希
杉本トキ
これはチャンスかもしれない。
あの冷酷無慈悲な高瀬朔也(25)でも、おばあちゃん特有のオーラかなにかがあれば口を割って個人情報を話すんじゃなかろうか。
柚希はそう思うと途端にトキさんと話したくなってきた。
朝比奈柚希
部屋に案内して飲み水を用意した。
客が来て分かったが、茶くらいは容れれるようになっておかないと不便だなと感じた。
朝比奈柚希
杉本トキ
違う。
そういう事じゃないんだトキさん。
朝比奈柚希
そんな事はどうでもいい。
それよりもあの男の事だ!
好きな食べ物、嫌いな食べ物、趣味、そして...
好きなタイプ!
何故か気になる事がたくさん出てきて止まなかった。
ただ1つ問題があった。
どうやってそれを聞き出すかだ。
話し始めるまで待つか...自分から聞くか...
どちらに転んでも好印象は持たれなさそうだった。
朝比奈柚希
そして10分程経ち...
杉本トキ
何故か話の内容は高瀬朔也ではなく息子の嫁の話になっていた。
朝比奈柚希
どうしよう。
死ぬ程どうでも良い。
でもトキさんが笑顔で喋っている様子を見ると話題を変えるのも気が引けた。
杉本トキ
朝比奈柚希
最初は話題を振るのをためらっていたが、もう腹をくくった。
杉本トキ
男前なのは事実だ。
実際昨日少し動画を見てみたのだが、朔也の顔目当てで見に来ている人も結構いた。
それくらいイケメンなのだろう。
朝比奈柚希
杉本トキ
唐突な質問に飲んでいた水を吹き出してしまった。
杉本トキ
咳き込む柚希の横でせっせと吹き出した水を拭くトキさん。
まさに状況はカオスである。
朝比奈柚希
しばらくして落ち着くと、トキさんが話を続けた。
杉本トキ
元気が無い...?
朝比奈柚希
そう聞こうとするとトキさんは時計を見て目を丸くした。
杉本トキ
朝比奈柚希
杉本トキ
ちょっと待ってくれ!
まだ高瀬朔也の事を聞けていないぞ!
そんな柚希の思いも虚しくトキさんは帰っていった。
朝比奈柚希
よくよく考えれば良くない。
本来の目的から遠ざかってしまった。
朝比奈柚希
しかし、柚希は何か忘れているような気がしていた。
朝比奈柚希
思い出した柚希はキッチンに向かった。
朝比奈柚希
しかし柚希がまな板の上を見ると、そこには赤黒い何かが付着していた。
朝比奈柚希
もう1つ思い出した。
確か指を切ってしまったのだ。
朝比奈柚希
しかし確認すると幸いにも血は止まっており料理に支障は無さそうだった。
朝比奈柚希
水道の勢いを弱め手を洗う。
そして手をタオルで拭いた後、料理の続きに取り掛かった。
冷蔵庫から分厚めのベーコンを取り出し、まな板の上に置いた。
1枚1枚剥がす作業が何気に大変で、手に脂が付き始めた。
朝比奈柚希
自分の手に付いたベーコンを外すのに苦戦しながらも、ベーコンの作業は完了した。
そして柚希は買ったばかりのフライパンをIHの上に置いた。
フライパンにバターを落として火にかけた。
朝比奈柚希
料理をしているとつい鼻歌を歌ってしまう人がいるのも分かるかもしれない。
バターが溶けて出てきた匂いと同時にあの男の事を思い出した。
高瀬朔也
チャンネル登録者数240万人を誇るYouTuberで、柚希の住んでいるアパートの隣人。
顔立ちは男前、冷酷無慈悲な性格のその男はある時をきっかけに私の家を訪ねる様になった。
朝比奈柚希
これは恋というものなのだろうか。
...いや駄目だ。
朝比奈柚希
...駄目だっ!!
こんな事考えてネガティブになった駄目だっ!!
朝比奈柚希
ベーコンを炒めると、香ばしい脂が溶け出して、部屋いっぱいに美味しそうな匂いが広がる。
朝比奈柚希
タイミングを見て、ちょっと戸惑いながらもほうれん草を投入した。
少し多かったかなと思いながらも、木べらでゆっくり、ゆっくり混ぜる。
朝比奈柚希
炒めるたびに、緑とピンクが混ざり合い、湯気とともにバターの香りが立ちのぼる。
塩と、ほんの少しのしょうゆを朔也を思い出しながら垂らした。
朝比奈柚希
思わずヨダレが垂れてきた。
朝比奈柚希
正直皿に盛り付けられたそれは、プロの料理とは言えない出来だった。
けれど、自分が初めてまともに完成させた料理だ。
朝比奈柚希
彩夏先輩が自分の子供が一番可愛いと惚気けてくれるのと同じ感じがした。
朝比奈柚希
そうして柚希は高瀬朔也を呼びに向かった。
ピンポーン
チャイムを鳴らして1分程経つと、髪の毛ボサボサな高瀬朔也が出てきた。
高瀬朔也
朝比奈柚希
何故だろう。
この人を前にするとやっぱり言葉に詰まる。
ただ作った料理を食べてもらいたいだけなのに...
朝比奈柚希
そう言ってタッパーに入ったほうれん草とベーコンのバター炒めを手渡した。
高瀬朔也
朔也は寝ぼけ眼で首を傾げた。
まだ言わないといけないのか...
恥ずかしくて顔が真っ赤になった。
それと同時に高瀬朔也が何か察した様に口を開いた。
高瀬朔也
そうニヤリと微笑んだその男に目潰ししたくなるほど綺麗な目だった。
朝比奈柚希
高瀬朔也
ちくしょお...
朝比奈柚希
高瀬朔也
朝比奈柚希
そう言ってタッパーを押し付けた。
早足で帰ろうとしたが、腕を掴まれ引き留められた。
高瀬朔也
掴まれている腕が痛い。
ただ、最初の頃少し感じていた恐怖は感じなかった。
朝比奈柚希
腕をブンブン振り回すが、向こうが思った以上に力が強く、どんなに頑張っても振り払えなかった。
高瀬朔也
朝比奈柚希
向こうが手を離した瞬間、柚希はバランスを崩してしまった。
朝比奈柚希
高瀬朔也
滑り込んだ朔也を最後に私は目をギュッと閉じた。
朝比奈柚希
朔也が若干顔を引きつらせながら起き上がった。
高瀬朔也
朝比奈柚希
言い返そうとしたがそんな気力も無いくらい力が抜けていた。
そしてしばらくするとある事に気がついた。
どこか...触られている感覚だった。
朝比奈柚希
柚希は恐る恐る声をかけた。
高瀬朔也
だが、肝心の朔也は気づいていない様子だった。
朝比奈柚希
高瀬朔也
朝比奈柚希
柚希が大声で言い放った。
高瀬朔也
朝比奈柚希
そう言うと朔也は腰に置いていた手を見た。
高瀬朔也
朝比奈柚希
柚希はそう朔也に頼んだ。
高瀬朔也
朔也は腕を掴んで柚希を押し倒した。
朝比奈柚希
じたばたと抵抗するが、一般男性に女性が力で勝てるわけが無い。
高瀬朔也
朝比奈柚希
高瀬朔也
朝比奈柚希
高瀬朔也
朔也はことごとく柚希の揚げ足を取ってくる。
本当にムカつくっ!!
朝比奈柚希
高瀬朔也
離されたあともしばらく威嚇していたが、朔也はそれをなだめた。
誰のせいだと思ってる!!
高瀬朔也
朝比奈柚希
高瀬朔也
なんだそりゃ。
高瀬朔也
朝比奈柚希
そう振り返るとすぐ真下に階段があった。
もしもあの時朔也が止めていなければ、今頃転落していただろう。
高瀬朔也
朝比奈柚希
そんな事は分かっている。
けど、腰は許せない。
朝比奈柚希
高瀬朔也
柚希は動揺してしまい、思わず失言してしまった。
朝比奈柚希
柚希は頬を膨らませて部屋に戻っていった。
高瀬朔也
朔也がそう言っている声が聞こえたが、それも無視した。
自分の部屋に戻って1人で座るには無駄に大きなソファに飛び込んだ。
朝比奈柚希
思わず出たため息はそれはもう大きなものだった。
朝比奈柚希
そんな事をブツブツ呟いている間に、柚希は眠気に襲われ寝てしまった。
ピンポーン……
ピンポーン…
ピンポーン
何度も部屋にチャイムが鳴り響き、柚希は目を覚ました。
朝比奈柚希
出るとそこには朔也の姿があった。
朔也はタッパーを取り出して柚希に渡した。
その時何か言っていたが、寝ぼけていた柚希には聞き取ることが出来なかった。
部屋に戻ってまたソファに寝転び寝る事にした。
しかし、ベッドがある事を思い出しベッドがある部屋に向かおうとした。
………
まあいいかとそのままソファの上で眠った柚希だったのである。
小話
高瀬朔也
高瀬朔也はそう呟いた。
今行っているのはチャンネル登録者数200万人突破記念で出版するレシピ本のメニュー作りである。
これがまた苦行だ。
1ヶ月後までに100品目レシピを作らないといけないという最早拷問の様なことをしている。
だが、少し前の朔也なら絶対に音を上げるのだが今はそうでは無い。
それは隣人・朝比奈柚希の存在だ。
あの女は俺が住み始めて結構経ってから入居してきた。
そしてあの女と話し始めたのは半月前...4月の始まりくらいだった。
そして、何故か…
そいつと話していると何故か懐かしい感じがした。
まるで…昔から知っている様な…
高瀬朔也
もう…あいつは居ねえんだ。
そうして作った3品を口に含んだ。
高瀬朔也
そう呟いて作った料理をタッパーに詰めた。
高瀬朔也
朔也が思い浮かんだのは2人。
1人は大家の杉本トキさん。
温厚で好き嫌いがほとんどないあの人なら良いかもしれない。
しかも今丁度よく孫が帰ってきているという話を聞いた。
今回作った料理の中には子供向けの料理も入っている。
大人になった今、子供からの意見はそう貰えるものじゃない。
そしてもう1人。
さっき名前を出した女。
朝比奈柚希だ。
彼女と出会った日に、俺が作った卵焼きをご馳走した。
その際にとても美味そうに食べ、感想を伝えてくれた。
そしてその感想を得た後、自然にレシピが思い浮かんだ。
高瀬朔也
朔也は頭を抱えた。
高瀬朔也
ピンポーン
朔也はチャイムを鳴らして玄関前に立っていた。
しかししばらくしてもあの女は出てこなかった。
高瀬朔也
こちらは一刻も早くレシピの案が欲しいのにも関わらず不在なのは困る。
高瀬朔也
しばらく頭を抱えた末、部屋に戻ることにしたその時…
杉本トキ
杉本さんが階段の下から話しかけてきた。
高瀬朔也
挨拶をすると年寄りとは思えない程軽快なリズムで階段を登ってきた。
杉本トキ
高瀬朔也
杉本トキ
心なしか嬉しそうなのはそういう事だろう。
高瀬朔也
杉本トキ
高瀬朔也
桃も然り、果物は店舗で買うとかなりのお値が張る。
桃の形状を見たが、とても上物だった。
高瀬朔也
杉本トキ
トキさんが胸を張って答えた。
杉本トキ
自信満々なトキさんの顔はものすごいドヤ顔だった。
そしてその後、何か興味深い話を聞いた。
杉本トキ
高瀬朔也
杉本トキ
『桜まつり』
話には聞いた事がある。
確か近所の桜並木付近で開催される催しでかなり人が集まるそう。
杉本トキ
高瀬朔也
高瀬朔也
そんな事を考えながらトキさんの話を聞いていた。
杉本トキ
そう言って階段を登ろうとした。
しかし、朝比奈柚希は今自宅に不在。
このご老体に階段は少しキツイ気がする。
高瀬朔也
朔也は口を開いた。
杉本トキ
随分と察しが良い。
この婆さんに悟られた時がこの世の終わりな気がした。
高瀬朔也
そう軽く挨拶して俺は部屋に戻って行った。
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