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かなぴー
かなぴー
かなぴー
題名 「あなたに触れられたなら」 お相手 場地圭介
朝の教室は、やけに騒がしかった
椅子を引く音、誰かの笑い声、スマホの通知音が小さく重なって、 いつもと同じはずなのに、なぜか少しだけ耳に刺さる
窓から入ってくる秋の空気は、まだ冷たくて、頬に触れるたびにひやりとして、 指先までその温度が伝わってくるみたいだった
私は、いつもの席に座って、ぼんやりと外を見ていた
坂井 春乃/ Sakai
放課後になったら、また校門のところで 少し迷惑そうな顔をしながらも、ちゃんと立ち止まってくれるあの人に
クラスメイト
後ろの席の声が、急に近くなる
坂井 春乃/ Sakai
クラスメイト
その言葉を聞いた瞬間、空気が変わった。 音が、遠くなる
クラスメイト
坂井 春乃/ Sakai
頭の中で、何かが落ちた音がした ガラスみたいに、ぱきんって
クラスメイト
誰かが続ける その声がやけに軽くて、現実感がなくて
クラスメイト
クラスメイト
笑い声が混ざる 教室の空気は、何も変わらない ただ―― 私の中だけが、静かに崩れていく
坂井 春乃/ Sakai
息が、うまく吸えない 胸が動かない ありえない考えがどんどん出てくる 手のひらがじっとりと汗ばんで、机の木の感触がやけに生々しく伝わってくる
坂井 春乃/ Sakai
自分の声が、少し遅れて出た 他人みたいな声だった
クラスメイト
クラスメイト
スマホの画面が、こちらに向けられる そこに映っていたのは、 見慣れた黒い髪と、 少しだけ鋭い目と、 何度も名前を呼んだ、その人の顔で
坂井 春乃/ Sakai
指先が、震えた 触れたら消えそうで、でも触れなきゃ現実にならないみたいで 画面越しのその顔は、動かなくて、何も言わなくて
坂井 春乃/ Sakai
坂井 春乃/ Sakai
でも、否定する言葉が喉に引っかかって、出てこない
気づいたら、教室を飛び出していた。 廊下の床を踏む音がやけに響いて、息が切れて、肺が焼けるみたいに痛いのに、それでも止まれなかった
外に出た瞬間、冷たい風が一気に体を包んで。 その温度が、やけに現実を突きつけてくる。
坂井 春乃/ Sakai
意味なんて分からない。 でも、行かなきゃいけない気がした 校門の前
いつも、あの人が立っていた場所 少しだけ壁にもたれて、面倒くさそうにして、 それでも私の声を待ってるみたいだった場所
坂井 春乃/ Sakai
呼んでみる 風に声がさらわれる 返事は、ない 当然なのに 分かってるのに
坂井 春乃/ Sakai
坂井 春乃/ Sakai
もう一度 少しだけ声を強くして でも、何も返ってこない
ただ、春の風がスカートを揺らして、髪を乱して、頬を撫でていくだけ その冷たさが、やけに鋭い まるで、ここにはもう何もないって言われてるみたいで
坂井 春乃/ Sakai
ぽつりと、こぼれる 足が震える 立ってるのがやっとで、視界が揺れて
坂井 春乃/ Sakai
何が嫌なのか、言葉にできない でも全部が嫌で いないことも、もう会えないことも、何も伝えられないまま終わったことも 全部
坂井 春乃/ Sakai
喉がひりつく 涙が溢れて、視界がぐちゃぐちゃになる 校門の鉄の匂いが、やけに強くて、少しだけ錆びた味が空気に混ざる
坂井 春乃/ Sakai
何も始まってないのに 勝手に好きになって、勝手に会いに行って、勝手に笑ってただけで
坂井 春乃/ Sakai
問いかけても、答えはない ただ風が吹く いつもと同じ、少し冷たい秋の風
あの幸せの日常がまるで嘘だったかのように
ー回想ー
夕方の空は、少しだけオレンジが滲んでいて、 静かになった校門の前で、私はひとり立っていた
アスファルトに残る昼の熱が、靴越しにじんわりと伝わってくるのに、 吹き抜ける風はひどく冷たくて、その温度差が妙に落ち着かなかった
坂井 春乃/ Sakai
少し背伸びして、道の向こうを覗く 遠くで自転車のブレーキが鳴る音、誰かの笑い声、コンビニのドアが開くチャイム そんな日常の音の中に――
場地 圭介/ Baji
低くて、少しだけだるそうな声。 振り返るより先に、心臓が跳ねた
坂井 春乃/ Sakai
駆け寄ると、革靴が地面を叩く音がやけに大きく響いて、 自分の必死さがそのまま音になったみたいで、少し恥ずかしくなる
場地 圭介/ Baji
呆れたような顔 でも、その目はほんの少しだけ柔らかい
坂井 春乃/ Sakai
息が少し上がったまま、笑う 風が吹いて、髪が頬に触れて、くすぐったい 場地は小さくため息をついた
場地 圭介/ Baji
最後まで言わないまま、視線を逸らす その横顔が、夕焼けに少しだけ染まっていて、思ってたよりずっと綺麗で
坂井 春乃/ Sakai
理由なんていらないって、こういうことなんだと思った。
場地 圭介/ Baji
坂井 春乃/ Sakai
即答 間を置いたら、断られる気がして 場地は少しだけ眉を寄せて、それから歩き出した
場地 圭介/ Baji
それが許可だって、ちゃんと分かる 隣に並ぶと、少しだけ距離がある 手を伸ばせば触れられるかもしれないのに、絶対に触れちゃいけない距離 その曖昧な隙間に、私の感情が入り込んでくる
坂井 春乃/ Sakai
場地 圭介/ Baji
坂井 春乃/ Sakai
どうでもいい会話。 でも、そのやり取り一つ一つが、胸の奥に落ちていく。 アスファルトを踏む音が、ふたり分重なって、一定のリズムを刻む。 その音が、ずっと続けばいいのにって思う
コンビニの前で、場地さんが足を止めた。
場地 圭介/ Baji
坂井 春乃/ Sakai
そう言いながらドアが開く 店内の空気は、外よりもずっと温かくて、少し甘いパンの匂いと、 インスタント麺の独特な匂いが混ざっている
その温度と匂いに包まれた瞬間、さっきまでの冷たい風が嘘みたいに遠くなる
場地 圭介/ Baji
場地さんが棚の前でしゃがみ込む 長い髪が少しだけ肩から落ちて、 その隙間から見える横顔に、視線が吸い寄せられる。
坂井 春乃/ Sakai
さっきよりもずっと近い距離 でも、やっぱり触れられない
場地 圭介/ Baji
坂井 春乃/ Sakai
急に振り向かれて、心臓が跳ねる 適当に手に取ったジュース 指先が少し震えてるのを、気づかれたくなくて強く握る レジで袋が擦れる音、ピッという電子音、店員の機械的な声 その全部が、妙に鮮明に耳に残る
外に出ると、また風が頬を撫でる さっきより少し冷たく感じるのは、 店内の温かさを知ってしまったからかもしれない
場地 圭介/ Baji
場地さんがジュースを投げた 慌てて受け取ると、缶の冷たさが掌にじんと広がる
坂井 春乃/ Sakai
プルタブを開ける音が、やけに大きく響く 炭酸が舌に触れて、少しだけ刺激が走って、 その感覚すら楽しいと思ってしまう
場地 圭介/ Baji
坂井 春乃/ Sakai
場地 圭介/ Baji
その言葉は、夕方の空気よりも冷たかった。 胸の奥が、ぎゅっと縮む
坂井 春乃/ Sakai
分かってるのに、聞いてしまう 場地さんは少しだけ黙って、それから視線を逸らした
場地 圭介/ Baji
短い言葉 でも、その中にいろんなものが詰まってるのが分かる 危なさとか、距離とか、未来とか 全部 それでも
坂井 春乃/ Sakai
即答だった 缶を持つ手に力が入る
坂井 春乃/ Sakai
風が吹く 髪が揺れて、視界が少しだけ遮られる その向こうで、場地さんの表情がわずかに揺れた気がした
場地 圭介/ Baji
小さく吐き出される でも、その声はさっきよりもずっと優しくて
場地 圭介/ Baji
いつも通りの一言 でも、その背中を見送るたびに、胸の奥が少しだけ痛くなる
坂井 春乃/ Sakai
坂井 春乃/ Sakai
分かってるのに 呼び止める 振り返る黒い髪 夕焼けの中で、その姿が少しだけ遠く見える
坂井 春乃/ Sakai
初めて言った、その言葉。 空気が止まったみたいに、静かになる。 遠くで車が通る音だけが、やけに大きく響く。 場地さんは少しだけ目を細めて、それから――
場地 圭介/ Baji
それだけ言った。 近づくことも、触れることもなく。 ただ、その距離のまま
場地 圭介/ Baji
その声は優しかった 優しいからこそ、痛かった
坂井 春乃/ Sakai
場地は、少しだけ困ったように笑った そして何も言わずに背を向ける。 足音が遠ざかる 夕焼けの中に、その背中が溶けていくみたいで 手を伸ばしても、届かない距離 最初から、最後まで
坂井 春乃/ Sakai
――そして今 その距離は、もう永遠に縮まらない あの日の風の冷たさも、 缶の感触も、 低い声も、 全部、ちゃんと覚えてるのに もう二度と、更新されることはない
あの日と同じ温度で、同じ速さで、 同じように髪を揺らして、頬を撫でていくのに。 その中に、あなたの気配だけが、どこにもない。 残っているのは、触れられなかった距離と、 触れられなかったまま終わってしまった想いだけで 缶の冷たさも、夕焼けの色も、 あなたの声も、全部こんなに鮮明なのに。 どうしてそれだけが、もう二度と戻らないんだろう
それからも、時間は進む 教室のざわめきも、チャイムの音も、全部いつも通りで 私も、ちゃんと笑ってる ふわふわしてるって言われて、適当に流して
でも―― 校門の前を通るたびに、足が止まる 誰もいないその場所を、無意識に探してしまう 黒い背中も、 少し低い声も、 もうどこにもないのに
坂井 春乃/ Sakai
確かに、ここにいたのに 記憶だけがやけに鮮明で、消えてくれない 風が吹くたびに、思い出す 触れたこともないはずの手の温もりを、勝手に想像して 聞いたことのある声を、何度も頭の中で再生して
坂井 春乃/ Sakai
誰もいない場所で、呟く 返事はない 最初から、最後まで、一度も届かなかった言葉 それでも 消せない 消えない
ハロウィンはまた来るのに あの人だけが、どこにもいない 帰ってこない その事実だけが、静かに、でも確実に胸を削り続けていく。 まるで、終わりのない痛みみたいに
坂井 春乃/ Sakai
呼んでみても、声は風に溶けて消えるだけで 返事が返ってくることは、もう二度とない 最初から最後まで 触れられないまま終わった恋は、 触れられなかったからこそ、消えることもなくて
季節が巡るたびに、ふと思い出してしまうくらいには、 ずっと、ここに残り続ける
最初から最後まで、届くことのなかった想いなのに、 どうしてこんなに、今も体の中に残っているんだろう 季節が変わっても、景色が変わっても、 ふとした瞬間に同じ匂いで蘇ってしまうくらいには 忘れられないまま、終わっている
それだけが、静かにそこにある
ーーーーー
「あなたに触れられたなら」 END
本当に月姫さん、参加させてくれてありがとうございます😭 コレからも、ずっと作品拝見し続けます🫶💞
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