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廊下の向こうから、すうっと風が流れ込む
夏の始まりを告げるような、乾いた風
芙 梛
芙梛はふらふらと引き寄せられるように、
縁側へ向かう
草の匂い
風の音
木々の揺れ
庭で木刀を振るう少年の姿に目を奪われる
日差しを受けるたび、彼の髪も瞳も
どこか遠くのものみたいに見えた
こっそり見てるだけなのに、胸が少し苦しい
だけど、私は鬼
あの子は、私を殺す側
芙 梛
不意に声がした
びくっとして顔をあげると、無一郎がこちらを見ていた
あの、淡い水色の瞳で
芙 梛
芙 梛
時 透
芙 梛
時 透
芙 梛
芙 梛
苦し紛れの言い訳に、無一郎は少しだけ目を細めた
時 透
芙 梛
一瞬心臓が跳ねた
芙 梛
時 透
芙 梛
時 透
何か、って
それが "鬼" だって、君は言おうとしてるの?
でも、言わなかった
その言葉を彼は飲み込んだ
まるで、確信が持てないものに怯えるように
芙 梛
芙梛は思わず、笑っていた
ひどく、切ない気持ちで
芙 梛
時 透
芙 梛
時 透
無一郎はそれ以上、何も言わなかった
木刀を背負って、庭を離れてく
その背中を、芙梛はずっと見つめる
芙 梛
芙 梛
芙 梛
夜
私は一人、蓮の花が咲く庭の片隅で、
静かに息を吐いた
芙 梛
心がざわつく
その理由は、
もう自分の中でわかっていた