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時 透 s i d e .
そう声を掛けたのは、胡蝶しのぶだった
無一郎は蝶屋敷の庭の隅で、一人空を眺めていた
表情は静かで変わらない
けれど、しのぶは気づいていた
時 透
無一郎はぼそりと呟いた
最近、芙梛と話す機会が減っていた
と言うより、自分から避けてしまっている
時 透
時 透
芙梛は、無一郎の前では何も変わらず、明るく接して来る
だけどその背後に、どうしようも無く "上弦の零" の気配が重なってしまう
あの冷たく、鋭く、美しさを持った、鬼の気配
それでも、否定したかった
今まで見てきた笑顔が、全て偽物だとは思わなかった
しのぶは、彼の迷いを全て見透かしているように、ふっと笑った
胡 蝶
胡 蝶
無一郎は少しだけ目を細めた
時 透
胡 蝶
しのぶは微笑んだまま、優しく続ける
胡 蝶
胡 蝶
時 透
無一郎は何も答えず、ただ視線を遠くにやった
しのぶの言葉の意図に、気づいていないはずが無い
時 透
時 透
無一郎は短くそう残し、立ち上がった
芙 梛 s i d e .
その夜
芙梛は誰にも気づかれぬよう、屋根の上で夜空を見上げていた
芙 梛
無一郎の気配が日に日に遠ざかっていくことを、肌で感じていた
芙 梛
芙 梛
胸の奥がずっと痛い
それが、恋なのか、罪悪感なのか、それとももっと違うものなのか、自分でももう分からなかった
けれど、今はまだ
向き合う勇気は無かった
コメント
2件
本当にこのお話好きすぎます! 続き楽しみにしてます!