時 透 s i d e .
刀鍛冶の里
静かな山奥にひっそりと佇むその地に、無一郎はいた
風の音も、刀の打音も、何処か遠く感じる
瞼を閉じても、思い出すのは芙梛の顔──
いや、上弦の零のあの気配
迷ってるな?
突然、背後から声がした
「 鋼鐵塚 」が仮面越しにこちらを睨む
時 透
え、誰?
鋼 鐵 塚
刀を見れば分かる
鋼 鐵 塚
斬るべき時に斬れない人間の刀は、鈍るんだ
無一郎は、薄らと目を伏せた
時 透
...そんなつもりじゃない
鋼 鐵 塚
じゃあ何だ
鋼 鐵 塚
敵が目の前にいるのに、斬れない理由でもあるのか?
鋼鐵塚の問いに、無一郎は何も返せなかった
ただ、刀に映る己の顔を見つめる
時 透
( 僕は、芙梛を鬼として倒せるのか...
問いの答えが出ないまま、日々が過ぎていく
芙梛とは、会えていない
その不在が、心を締めつけるように痛い
蓮 華 s i d e .
その日の夜
無惨からの次の命令は、まだ来ていない
だが、それが永遠に来ないとは限らない
蓮 華
( また無一郎と戦うことになったら、今度は...
猗 窩 座
殺せるのか?
民家の屋根の上で考え込む蓮華に、声を掛けたのは猗窩座だった
猗 窩 座
お前のその迷いは、命取りになるぞ
蓮 華
...うん
それでも、私は...
それでも、私は...
蓮華は目を伏せたまま、唇を噛む
蓮 華
殺したくない
時透無一郎だけは...
時透無一郎だけは...
猗 窩 座
それは、人間としての情か?
猗窩座の声に、蓮華は小さく首を横に振った
蓮 華
違う
...私の中の鬼が怖がってるんだよ
...私の中の鬼が怖がってるんだよ
蓮 華
あの人を殺したら、きっと私はもう...
猗 窩 座
壊れる、か?
蓮華は静かに頷いた
猗窩座は少しだけ目を細め、黙って夜空を仰ぐ
猗 窩 座
それでも、上弦なんだ
猗 窩 座
覚悟を決めなきゃ、いずれ死ぬぞ
蓮 華
...分かってる
蓮 華
でも私、もう壊れてるのかもね
蓮華の言葉は、夜風にさらわれた
蓮 華
( きっと私は、無一郎を殺すことは出来ない...