TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

───時間は戻って現在。

紫雲 かぎり

……

滝津 七星

あ、おはようございます

滝津 七星

紫雲さん

紫雲 かぎり

……おはよう

紫雲 かぎり

な……滝津さん

紫雲 かぎり

どれぐらい寝てた?

滝津 七星

えーっと…

滝津 七星

1時間ぐらいでしょうか?

滝津 七星

お疲れだったんですね

滝津 七星

今、紅茶、淹れます

紫雲 かぎり

ありがとう……

紫雲 かぎり

…体調は?

滝津 七星

今月は調子が良いんです

滝津 七星

紫雲さんがもって来てくれるお薬のお陰ですね

紫雲 かぎり

そっか……

紫雲 かぎり

なら良かった…

滝津は慣れた手付きで紅茶を淹れる。

紫雲 かぎり

こんなところで寝て悪かったな

紫雲 かぎり

遠慮なく起こしてくれてもよかったのに…

そうは言ったが、

こぢんまりとしたお店の中に客の姿は無かった。

滝津 七星

起こすなんて…

滝津 七星

そんな……

滝津 七星

でも……

紫雲 かぎり

でも?

滝津 七星

……

紫雲 かぎり

……何?

滝津 七星

寝てる間

滝津 七星

すごくうなされてました……

滝津 七星

また

滝津 七星

悪い夢でも見たんですか?

紫雲 かぎり

……かもな

紫雲 かぎり

覚えてないけど

滝津 七星

そうですか……

滝津 七星

はい、お待たせしました

滝津はそっと紅茶を

紫雲の前に置いた。

薬物の影響で、

滝津七星の脳には

少しばかりの後遺症が残ってしまった。

その後遺症のせいで、

目の前にいる人物が、

自分の愛する人であると

認識することが出来なくなった。

だが、

それ以外は特に大きな問題は無く。

三嶋が定期的に持ってくる薬のお陰で、

幻覚や幻聴、

不眠といった症状はかなり緩和され、

今は問題無く大学にも通えている。

滝津のことを知る人たちは

あの日以降も変わらず接してくれて

彼女を支えてくれていた。

滝津のバイト先の店長

本当にこれでいいのかい?鳴谷君

鳴谷 蓮

……いいんです

滝津のバイト先の店長

だって……

滝津のバイト先の店長

これじゃああまりにも君たちが

鳴谷 蓮

無理に思い出させる必要はありません

鳴谷 蓮

だから…

鳴谷 蓮

これから俺は

鳴谷 蓮

鳴谷蓮(なるたに れん)ではなく

鳴谷 蓮

彼の知り合いの”紫雲(しうん)かぎり”として

鳴谷 蓮

彼女の側に……

鳴谷 蓮

側に……

鳴谷 蓮

(居て、いいのだろうか?)

滝津のバイト先の店長

鳴谷君?

滝津のバイト先の店長

大丈夫かい?

鳴谷 蓮

あ、はい

鳴谷 蓮

紫雲かぎりとして彼女の側にいることにします

滝津のバイト先の店長

そうか

滝津のバイト先の店長

…わかった

滝津のバイト先の店長

みんなにもそう伝えておこう

鳴谷 蓮

ありがとうございます…

過去も…

未来も…

名前も…

捨てた。

でも、

紫雲 かぎり

(まだ彼女にすがっている……)

紫雲 かぎり

(彼女が…)

紫雲 かぎり

(俺のことを思い出しても)

紫雲 かぎり

(良いことなんか一つも無いのに……)

今でも

鮮明に覚えている。

彼女に”人殺し”と言われた瞬間を、

そう叫んだ彼女の顔を。

目の前にいる人物が

そのときの人物だと思い出したら、

それが自分の愛する人だと思い出したら、

紫雲 かぎり

(七星は……)

紫雲 かぎり

(どうするんだろうか…)

離れなければいけないのに、

未だに彼女側を離れることが出来なかった。

滝津 七星

紫雲さん?

紫雲 かぎり

……ん?

滝津 七星

あの……

紫雲 かぎり

……

滝津 七星

あ、いえ…

紫雲 かぎり

鳴谷蓮(なるたに れん)のこと?

滝津 七星

あっ……はい…

紫雲 かぎり

色々と調べてはいるけど

紫雲 かぎり

さっぱり情報が掴めなくて

紫雲 かぎり

もう少し待ってくれると嬉しい

滝津 七星

……はい

紫雲 かぎり

まだ諦められない?

滝津 七星

え…

紫雲 かぎり

だって

紫雲 かぎり

滝津さんが大変だったときにいなくなったんだろ?

紫雲 かぎり

それからもうかれこれ数年音沙汰無し

紫雲 かぎり

正直、君を捨てて他の子のところに

滝津 七星

それでも

滝津は紫雲の言葉に被せるように言った。

滝津 七星

それでも、私は…

滝津 七星

もう一度先輩に会いたいんです

滝津 七星

何年経っても

滝津 七星

先輩は憧れの人で

滝津 七星

大好きな人なんで

滝津 七星

例え今、違う人と付き合っていたとしても

そう言う滝津の表情は

吐き出される言葉とは裏腹に

悲しみと不安でいっぱいだった。

紫雲 かぎり

……

紫雲 かぎり

はぁ~

紫雲 かぎり

そんだけ愛されてるなんて

紫雲 かぎり

羨ましいな

滝津 七星

え…

紫雲 かぎり

仕事だし

紫雲 かぎり

ちゃんと探すけど

紫雲 かぎり

あんまり期待しないでくれ

滝津 七星

わ、わかりました

そこで紫雲のスマホが震える。

紫雲 かぎり

おっと仕事の依頼だ

滝津 七星

最近忙しいんですね

紫雲 かぎり

まぁね

紫雲 かぎり

じゃ、また来るよ

滝津 七星

はい

紫雲はぬるくなった紅茶を一気に飲み干すと

店を後にした。

便利屋 紫雲かぎり

…はい

Am43

あ~やっと電話に出てくれた

Am43

大丈夫?

Am43

何か問題でも発生した?

便利屋 紫雲かぎり

……いえ

便利屋 紫雲かぎり

少し疲れただけです

Am43

そっか

Am43

ならよかった

Am43

じゃ、さっそくで悪いけど

Am43

仕事、頼まれてくれる?

便利屋 紫雲かぎり

……

Am43

どした?

Am43

仕事してくれないと

Am43

滝津君にお薬渡せないんだけど?

便利屋 紫雲かぎり

わかってます

便利屋 紫雲かぎり

内容は手短にお願いします

Am43

オッケー♪

Am43

三日後、”紫水晶(しすいしょう)”という旅館で

Am43

会合が行なわれるんだ

便利屋 紫雲かぎり

会合じゃなくて乱こ

Am43

はいはい

Am43

そういうことだから

Am43

お得意の監視カメラ操作で

Am43

フォローして欲しいんだ

便利屋 紫雲かぎり

カメラ映像の細工?

Am43

特に少女たちの姿が映り込まないように頼むよ

便利屋 紫雲かぎり

……わかった

便利屋 紫雲かぎり

後処理が行なわれることは?

Am43

今回は無いよ

Am43

純粋な”愛でる会”だからね

便利屋 紫雲かぎり

……

Am43

ってことで

Am43

”紫水晶(しすいしょう)”の場所と

Am43

詳しいタイムスケジュールは後程送るから

Am43

確認お願いね!

Am43

今回も良い働きを期待してるよ、鳴谷君

Am43

…っと今は紫雲君だったか

便利屋 紫雲かぎり

……

Am43

僕たちの期待を裏切らないようにね

便利屋 紫雲かぎり

裏切るわけないだろ

Am43

そうだね

Am43

君はいつだって愛する人のために

Am43

頑張ってくれてるんだから

紫雲はスマホをポケットに捻じ込み、

重いため息をこぼす。

紫雲 かぎり

(そうだ……)

紫雲 かぎり

(これは全部七星のために……)

紫雲 かぎり

(だから……)

紫雲 かぎり

(迷うな……)

紫雲 かぎり

(俺はどうなってもいい…)

紫雲 かぎり

(七星さえ無事なら…)

紫雲 かぎり

(それで…)

奥歯をぐっと噛み締める。

彼は

愛する人の幸せだけ願って、

ただ独り

歩き続ける。

その先に

己の救いが無いと

わかっていても───。

『過去編④』 END

便利屋・紫雲かぎり

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

141

コメント

4

ユーザー

薬物の後遺症…なんて残酷なんだ。 バイオレンスと切なさが合わさって、面白かったです!

ユーザー
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚