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これは、みことがすちの経営するバー 「Ranunculus」に出会うまでの話。
大学を出て会社に就職してから、 3ヶ月が経った。
上司
みこと
上司
うちの社員だな
みこと
上司がやけに含みのあることを言っていたが、意味がよく分からなかった。ふと腕時計を見ると、もう定時になっていた。
みこと
自分の荷物を持ってドアノブに手をかけたが、ドアは鍵が掛かっているようで開かなかった。
みこと
みこと
上司
みこと
上司
上司の様子が、いつもと違った。
みこと
上司
上司
みこと
上司
みこと
上司
みこと
上司
上司
上司
みこと
今まで抱えていた違和感と結びついた気がした。やけに何か隠している上司の様子、高齢の人ばかりいるオフィス。今の時代にあわないアナログな仕事体制。ここから逃げなければ、と思った。
みこと
上司
勝ち誇った表情の上司に違和感を感じる。
みこと
上司
上司
みこと
上司
息が詰まる。まさか知られていたなんて、思ってもいなかった。
上司
みこと
上司
こんなところで働きたい訳がなかった。でも、ここで働かないと、全てが終わる。
正直、ギャンブルに依存して金を横領した父のことは憎んでいた。でも母はそのことを知らずに無職になった父を哀れんでいたから、横領は隠さないといけなかった。家庭が壊れるのは、嫌だった。
みこと
上司
母の笑顔を守るためなら、家族が離ればなれにならないなら、どんな辛いことでも耐えられると思っていた。
そこからはひたすらに仕事三昧の毎日だった。会社から与えられたのは薄い寝袋と、まずい栄養補給食。それに、エナジードリンクだけだった。
上司
みこと
上司
上司
みこと
上司
みこと
限界だった。正社員になってから約半年が経っても、救いはなかった。きつい課長と気持ち悪い係長。他の上司も地獄に落ちるべきクズしかいなかった。
上司
みこと
上司
みこと
上司
弱音を吐くと、父のことを引き出して脅される。酷い時には平気で暴力を振るってきた。
みこと
上司
胸ぐらをつかまれて、思い切りみぞおちを殴られた。
みこと
上司
あばら骨をぐりぐりと踏みつけられた時もあった。
みこと
上司
俺の体には痛々しい痕ばかり刻まれていった。人間の醜さをいやというほど感じた日々だった。
でも、そんな日々は唐突に終わった。
俺の勤めていた会社が、全焼したのだ。
俺が上司に頼まれた酒とタバコを買いに外へ出たときに、上司がライターを資料に落としたらしい。燃化性のあるものばかり置かれていたからすぐに火は広がったそうだ。会社は灰になり、俺の憎んでいた上司たちも全員死んだ。
俺は、解放されたんだ。
すぐその報告がしたくて、母に電話をかけた。もう、父の横領のこともすべて話すべきだと思った。
みこと
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通話
00:00
みこと
すぐに電話は繋がった。でも、それに出たのは母ではなく叔母だった。
叔母
みこと
叔母
叔母はやけに焦っていて、なんだか嫌な予感がした。
みこと
叔母
亡くなったの
みこと
叔母
それから話されたのは、父が母と共に無理心中したということだった。母に横領のことがばれて離婚を切り出され、父は激昂したらしい。
みこと
叔母
みこと
叔母は泣いていた。でも俺は泣けなかった。俺の胸には、ただ虚無感が広がっていた。
叔母
みこと
叔母は法律関係の仕事をしていて、俺の会社のことや両親の相続のことは全て管理してくれることになった。
俺の寝泊まりしていたところは燃えてしまったから、ひとまず適当なホテルに泊まることにした。
もう、何も考えられなかった。
みこと
みこと
家族を守りたくて、ずっと耐えてきたのに、その守りたかったものも消えた。
みこと
何も分からない。ただ、無性に誰かに話を聞いてもらいたくなった。俺の居場所を一瞬だけでも、作ってほしかった。
みこと
夜の街はきらびやかなネオンが煌々と光っていた。
笑いながら横を通り過ぎて行く人達を見ると、少しだけ胸が痛くなった。
みこと
ふと裏道の奥に目をやると、 「Ranunculus」という看板が光っているのが見えた。
みこと
自分に多少なりとも英語力があるのを感じて、それを活かせる仕事に就けなかったことを後悔する。
みこと
でも今はそんな過去のことなどどうでも良かった。
みこと
なんだか不思議な魅力を感じて、そのバーに入ってみることにした。
ドアを開けると、暖かな光の灯る空間が広がっていた。俺の他にお客さんはいないようだった。
カウンターで俺と同世代くらいの男の人がグラスを拭いていた。
すち
みこと
すち
その人は俺をカウンター席に案内してくれた。
みこと
すち
みこと
すち
優しい声でそう言ってくれて、俺は何だか涙が溢れそうになった。
すち
すち
みこと
こういう場では本名は言わないようにしているが、今日は本名でも良いかなと思った。
すごく信頼できる雰囲気の人で、何を言っても受け止めてくれそうだったから。
すち
みこと
すち
みこと
すち
みこと
俺が名前を呼ぶと、すちさんは満足気に頷いてくれた。
すち
みこと
すち
みこと
すち
すちさんはそう言ってカクテルを作り始めた。久々にまともな会話を人とできて、俺の居場所がある気がして、心の奥が温かくなった。
この時から俺は、すちさんに惹かれていたのだと思う。
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