曲がりなりにも一夜を共にした相手なのだから当然だ。
ジュンナはタカマツと目が合うとすぐにそらし、逆にマリエはタカマツのことを睨み続けてくる。
タカマツ
やってくれたな……お前達のせいで、俺は廃業寸前だよ。

マリエ
ふん、私は事実を世に公表しただけ。

マリエ
あれだけのことをしておきながら、まだ俳優を続けたいとか馬鹿なの?

ジュンナ
ま、まぁ……落ち着いて。

ユエ
さて、双方には説明済みではありますが、当番組は赦す側と赦される側に分かれ、和解を目指すものでございます。

ユエが番組の解説をしている間に、タカマツは思案する。
タカマツ
(この番組は、赦す側と赦される側に分かれて和解を目指すが、基本的に和解が成立しない)

タカマツ
(そして、互いに和解できなければ死が待っている――というのは、番組を盛り上げるための仕掛けでしかない)

タカマツ
(実際、これまでの番組で死者が出たことはない)

タカマツ
(そして、互いに和解が難しいとなった場合、番組からある提案が出される。いや、ある意味課題というべきか。その課題をこなしたあとは、強制的な和解が待っている)

ユエ
――と、これが簡単ではありますが、当番組のシステムでございます。

タカマツ
(そして、この課題は赦される側に出され、その内容は基本的に本人達にとって都合の悪いものになる。社会的な信用を失うものだったり、自らの不利益になることだったり……それを引き換えに和解するという流れ)

タカマツ
(そして俺は、事前にユエからその課題を知らされている)

タカマツ
(それは……いわば囚人のジレンマに似たものだ)

ユエ
では、良き和解を目指してくださいますよう。

ここからは互いの話し合いによって、和解を目指すわけだが。
タカマツ
最初に言っておくぞ。

タカマツ
俺は和解するつもりなんてない。

マリエ
それは、こっちの台詞。

マリエ
誰があんたと和解なんてするかっての。

マリエ
ねぇ、ジュンナさん。

ジュンナ
は、はい――。私も赦せません。

タカマツ
となると、このまま和解が成立しないで、お互い死ぬことになるなぁ。

マリエ
ふざけないで。

マリエ
あんた、私とはまだ交際期間があったからさ、百歩譲って良いとしよう。

マリエ
でも、ジュンナさんに対しては、自分の立場を振りかざして、無理矢理だったんでしょう?

マリエ
逆らうと、仕事ができなくなる――俺は事務所でもある程度の力を持ってる。

マリエ
そんなことを言って脅したんでしょう?

タカマツ
脅す?

タカマツ
人聞きが悪いな。

タカマツ
その女は自分から寄ってきて誘ってきたんだ。

タカマツ
それなのに、後になってから同意じゃなかったなんて……酷くないか?

マリエ
あのね、ジュンナには真剣に交際している彼がいるの。

マリエ
それなのに、あんたにほいほいついて行くと思う?

ユエ
あらあら、両者の言い分が真逆に割れてしまいましたわね。

ユエ
すなわち、どちらかが嘘をついている……ということになる。

タカマツ
こんな冤罪の話がある。

タカマツ
その日、ある女子高生はテストがあるため、どうしても学校に行きたくなかった。

タカマツ
だから……何をしたと思う?

ユエ
その話なら存じ上げております。

ユエ
電車内で痴漢事件をでっちあげ、学校へと行かずに済むようにしたはずでございます。

ユエ
後になって事が大きくなり、女子高生が痴漢は嘘のでっちあげだと白状した。

タカマツ
そう、でもこれでプラスマイナスゼロになったわけじゃない。

タカマツ
痴漢をでっちあげられた男は、会社からの信用を失ってしまい退色。妻との関係も悪くなり、後日離婚した。最愛の息子も、風評被害を恐れて妻が引き取ったそうだ。

ユエ
女子高生はテストが嫌だっただけ。

ユエ
それだけで痴漢事件をでっちあげた。

ユエ
その結果、1人の人間の人生が狂わされてしまった。

マリエ
だから何?

マリエ
その女子高生が単純に悪いってだけでしょ?

タカマツ
その女子高生、痴漢をでっちあげたことを告白した後、何かしらの処罰を受けたと思うか?

タカマツ
ある人の人生を、自分勝手な理由でめちゃくちゃにしたのに――お咎めなしだ。

タカマツ
でっちあげられた側は人生を狂わされたのに、でっちあげた側は、それ以降も変わらぬ人生を送る。

タカマツ
悪いのは明らかにでっちあげをしたほうなのに、痛い目に遭うのはでっちあげられた側だけなんだよ。

ユエ
タカマツさんの時も、マスコミは最初からタカマツさんを悪く書き立てた。

ユエ
女性の味方をしておかないと、一部の界隈から反発の声が上がる。

ユエ
いつの時代も悪者になるのは男です。

ユエ
そして、男なのだから、それくらいの処分ではへこたれないはずだ――とか、男だから、多少酷い扱いをされても問題ないはずだ――などの決めつけが生じる。

ユエ
ジェンダー問題について議論される世の中ではありませんが、男だから――という決めつけだって、ジェンダー問題のひとつではないかと私は思います。

マリエ
なに?

マリエ
ジュンナさんがでっちあげをしたって言いたいの?

タカマツ
そうは言いたくないけど、この騒動で2人はマスコミに取り上げられたよな?

タカマツ
記者会見まで開いたもんだから、2人の名前は瞬く間に世の中に広がった。

ジュンナ
――売名行為だって言いたいんですか?

タカマツ
結果的にそうなった――と言ってるだけだ。

ユエ
さて、それでどうされますか?

ユエ
和解は――。

マリエ
絶対にしない!

ジュンナ
私も同じです。

タカマツ
それについては同意だ。

ユエ
困りました。このままでは全滅でございます。

ユエ
それでは、こちらから提案をさせていただいてよろしいですか?

ユエ
実は当番組独自のルートで、今回の事件の真相はすでに分かっております。

ユエ
どちらの言い分が正しいのかも判明しております。

ユエ
それを前提として、赦される側には、それぞれの主張をしていただきます。

ユエ
この主張については、嘘をついていただいても構いません。

ユエ
問題なのは、その答えが一致するかどうかです。

ジュンナ
一致するかどうか?

ユエ
えぇ、お2人の答え、言い分が見事な一致した場合、その時点で和解成立とします。

ユエ
ただし、答えが一致しなかった場合は――当番組が調べた事件の真相をマスコミにリークします。

ユエ
結果はどうであれ、この時点で和解成立となります。

タカマツ
(つまり、これはどう転んでも社会的に殺されるんだ)

タカマツ
(2人が同じ答えを――真実を答えた場合、それは事実を認めたことになり、社会的なダメージを背負うことになる。ベストなのは互いに嘘をついて答えを一致させることだが、それを意識すると、互いの答えが一致せず、マスコミに情報がリークされてしまうおそれがある)

ユエ
ご心配なく。

ユエ
答えはイエスかノーで答えられる内容になっておりますから。

ユエ
それでは参ります。

ユエ
ジュンナさんはタカマツさんを誘い、性行為に及んだ。

ユエ
イエスかノーでお答えください。
