ぱちり
……?
目覚めた瞬間、なぜか見知らぬ場所にいた
(……なんで俺、こんなところにいるの?)
きょろきょろ
(っていうか、ここどこ……?)
辺りは薄暗く、物が散乱している
……危な
ん?
奥で“何か“が鈍い光を放っていた
……なんだ、あれ?
恐る恐る近づくと──
猫の姿を映した鏡があった
…………猫
鏡の中の猫が不思議そうに見つめてくる
猫なんていたっけ?
首を傾げると鏡の中の猫も首を傾げた
ん?
違和感を抱き、手を顔のあたりまで上げた
鏡の猫もマネをするかのように前脚を上げる
まさか……
手を下げると、猫も前脚を下げた
もしかして、俺……猫になってる?
……マジか
まぁ、べつにいいけど
猫、好きだし──
ぐー
……腹減ったな
とりあえず、飯探すか
食べられるものを探すが周囲はゴミ袋で積み上げられ、どこからか悪臭がした
(……ゴミばっかじゃん)
……はぁ
外へ出るか
ガシッ
……!?
とつぜん首元を乱暴に掴まれ、床に叩き落とされた
な、なんだ……?!
とっさに反応ができなかった
男
男
さっきから、にゃあにゃあ……
男
うるせぇんだよ!!
今度はしっぽを掴み、思いっきり壁にぶつけた
男
いったい、どっから入ってきたんだ?!
痛っ──
男
おれはな! ここ3週間…………
男
まともに寝れてねぇんだよ!!
男
男
やっと、眠れると思ったとたん…………
男
鳴きやがって…………!!
八つ当たりするように、男は猫に殴る蹴る──を繰り返した
(……あ、これ……あばらが折れた)
男
あの無能な上司の尻拭いで、残業続き──
男
家に帰ってくるのは、午前0時過ぎ──
男
男
ろくにシャワーも浴びてねぇし
男
ゴミも溜まる一方だし
(……んなこと、知るかよ)
男
近所のババァから、白い目で見られるし…………
男
いったい、おれが何したって言うんだ……!!
猫の腹を踏みつけた
……っ……!
(さすがに、今のは効いた……)
男
クソクソクソ……
(こいつ、すっかりノイローゼだな)
男に侮蔑のまなざしを向ける
男
男
そんな目でおれを……
男
見るな…………!!
頭を踏まれたあと、意識を失った
死神
死神
…………あれ?
茫然と立ち尽くしていた
死神
……たしか
視線を落とすと猫の死骸があった
死神
ああ、そうか
アパートの一室で猫の魂を偶然見つけ、隠り世へ連れて行こうと触れた瞬間──
死神
──俺、追体験をしてたんだな
猫が見せた最期の記憶
死神
──痛み慣れしてる俺はともかく…………
黒い澱のようなものが魂にまとわり付いていた
死神
(──悪霊化しかけてる)
死神
死神
(あんな扱いを受けたなら、無理もないけども)
猫の死骸以外ゴミ袋の山しかない
死神
(ここ最近、帰ってないみたいだ)
死神
──まあ、どうなろうと知ったこっちゃないし
死神
それよりも──
魂は警戒するように、一定の距離を保つ
死神
そんな警戒しなくてもいいよ
猫(魂)
…………
死神
俺が代わりに
死神
あの男をしばいてあげるからさ
猫(魂)
…………
死神
人間に生まれたことを後悔させるぐらいに、ね
死神
イヒヒっ
猫(魂)
…………
死神
死神
はぁ
死神
もっと早く出会ったら
死神
愛でたのに、残念……
猫(魂)
…………にゃ
死神
一緒に隠り世へ行かない?
死神
こんなところにいても、仕方ないでしょ?
猫(魂)
…………
死神
ちゃんと連れていくから大丈夫
死神
死神
(──その前に)
猫の死骸を優しく抱きかかえる
死神
一応、埋葬しなきゃね
死骸を埋めたあと、その上に手頃な石を置いた
死神
これでよし、と──
猫(魂)
…………
死神
簡易だけど、許してね
猫(魂)
……にゃ?
首を傾げる
死神
それじゃあ、行こうか