夜彦
何だか洋風な建物が多くなってきたな...
久遠
ここは黎明(れいめい)市っていう塔に一番近い街だからだよ
夜彦
確かに、塔も洋風な感じだからね
響子
あー、そういや塔の名前も黎明の塔とかだったか?黎明ってどういう意味だァ?
雫
夜明けとか新しいことが始まろうとする様子だよ
響子
良いなそれ‼︎アタイが神になったら引き継ぐわ‼︎
響子
黎明殺戮革命とか起こしてェーッ‼︎
夜彦
発想が殺人鬼すぎる...
夜彦
でも、塔まであとちょっとってことは虎走さんの盗んだ鍵も返せるってことだよね
響子
え?窃盗犯じゃねーか
久遠
違う‼︎これには訳が...
夜彦
じゃあ、鍵を盗んだ理由は何なの?
久遠
それは...言えない...
夜彦
僕と会った日からずっとそれだよね
久遠
ごめん...
僕は昨晩から何も
口にしていない空腹からか
思わず声を荒げてしまった。
良くなかったと
少し気持ちを落ち着けて
僕は続けた。
夜彦
じゃあさ、その鍵は塔内のどこの部屋の鍵なの?
久遠
それ....は...
雫
ちょっと鍵、見せてくれる?
僕と虎走さんの会話に
入ってきた水鏡さんへ、
虎走さんは渋々鍵を見せると
彼女は閃いたかのように伝えた。
雫
これ、“記憶の間”の鍵だよ‼︎
夜彦
“記憶の間”...?
雫
全世界の人間の記憶を管理している部屋だよ
響子
人間の記憶って管理できるものなのかァ?ファンタジーじゃあるまいし
雫
だったら神様がいること自体ファンタジーになっちゃうでしょ
響子
あー、確かに神サマだから何でもありってヤツか
夜彦
記憶の間ってことは虎走さん...
夜彦
夜彦
もしかして僕に何かを思い出させようとしてる?
久遠
...ッ‼︎
夜彦
神の力を提示してまで僕を塔へついてきてほしいことを考えたら、そういう結論に辿り着いちゃうんだ
久遠
...そっか。そこまで考えてたんだ
久遠
...そうだよ、私は小鳥遊君が失った記憶を思い出してほしいから塔へ連れてくの
夜彦
随分、あっさり認めるんだね
久遠
もう、誤魔化しきれないと思ったからさ
夜彦
それで、盗んだ理由は僕の失った記憶と関係があるんだね?
久遠
うん...
夜彦
虎走さんが直接、僕にその記憶を話すのは
久遠
それじゃ意味ない
夜彦
そっか...
夜彦
分かった、行くよ
久遠
へ?
夜彦
今まであったモヤモヤが少し消えたんだ
夜彦
だから僕は改めて、自分の意思で塔へ行くよ
久遠
...ありがとう、小鳥遊君
響子
はァ?何?このラブコメ展開
響子
殺されてーのかァ?
雫
洒落にならないからやめてください...
雫
取り敢えず
雫
取り敢えず(まただ...)
雫
とり
雫
ああああッ‼︎もう、うるさーいッ‼︎
響子
あ?何一人で騒いでんだァ?
雫
皆は聞こえないの⁉︎このカチカチ音‼︎
響子
お前...こんな真っ昼間から下ネタとはヤるなァ...
雫
違いますッ‼︎
雫
え?本当に聞こえなかったんですか?
夜彦
別に何も...
久遠
同じく...
雫
どうしよう...幻聴...?
夜彦
疲れてるんじゃないかな?昨日色々あっての今日だからさ
夜彦
もう昼だし、どっかでご飯食べようよ
響子
肉しか食いたくねェ
久遠
あれ?てかお金どうするの?
夜彦
あ、忘れてた...
響子
それなら心配いらねーよ、ホラ
そう言うと彼女は
着ている服、全てのポケット
に手を突っ込んだ。
するとグチャグチャのお札や
ジャラジャラの小銭を
鷲掴みにして見せた。
夜彦
え、何ですかそれ...
響子
金ならあるって話だよ
夜彦
どこでそれを...
響子
死体からパクった
久遠
そんなお金でご飯なんて食べたくない
響子
同じ金に変わんねーだろ
久遠
それでも嫌
夜彦
いや、仕方ない
久遠
え?
夜彦
さっき虎走さんへ声を荒げたみたいに、水鏡さんが幻聴に悩まされるみたいに、僕達は空腹なんだよ
夜彦
多分、このままだとずっとピリピリした空気になっちゃうと思うんだ...
夜彦
僕だって死体から奪った金でご飯を食べるのなんて嫌だ
夜彦
でも仕方ない時だってある、そう考えようよ...
久遠
...勝手にして、私は食べないから
雫
私はお腹空きすぎて気持ち悪くなってきたんで食べます...
響子
お?しょうもねー話し合いは終わったかァ?
響子
じゃあ、肉食いに行こうぜ‼︎
虎走さんは店の前で待つと
入店すらも断り、僕は人生で
最も罪悪感のある食事をした。