天文台の崩壊から数時間、 私は当てもなく 見知らぬ街を歩いていた。
すっかり夕日は沈み、 辺りは漆黒の闇に 包まれていた。
無那
....
鳴家君や茉莉さんとも 連絡が取れず 私はとうとう1人になった。
無那
お母さん...お父さん...
無那
茉莉さん...希空さん...
無那
月雲ちゃん...廿楽ちゃん...
みんな、私のせいで死んだ。
私のために 命を落とした。
どうして私は生きてるの?
どうして私なんかが 生きているの?
私が死ねばよかったのに...
無那
...寒い
この辺りは妙に風が強い。 そしてそれは数時間歩き続けた 足に更なるダメージを与えた。
無那
もう...だめ...
ドサッと私はその場に 倒れ込んだ。
地面はとても冷たく 徐々に体温を 奪っていくのが分かった。
無那
ごめんね...みんな...
ああ、これは罰だ。
彼らを殺した報いだ。
無那
ごめ...んね...
視界が薄れていくのが分かる。
こんなヤツ死んで当然だ。
そして私は...
無那
....
ザッ...ザッ...
???
....
???
脈は...まだあるな...
???
連れてくか...
???
無那
....
無那
あれ...?
無那
私...何で...生きて...
無那
あとここは...?
???
気が付いたか?
???
ここは旧圉鵺生物科学研究所だ
???
本来ならば立ち入り禁止だが、近くに建物がなかったからやむを得なかった
無那
無那
えっ...
無那
どう...して...
???
ん?どうした、そんな馬鹿みたいな顔をして
無那
何でここに...
無那
無那
茉莉さん...‼︎
茉莉
何だ、ここにいたら何かまずいことでもあるのか?
無那
いやいや‼︎そうじゃなくて‼︎
無那
どうして生きてるんですかっ⁉︎
無那
私は...何度も連絡を取ったんですよ...
無那
なのに全然...繋がらな...いから...
茉莉
ああ、それは接続が悪かったんだろうな
無那
へ...?接続が悪い...?
茉莉
敷地内に入った時から誰とも通信ができなくなったんだ
無那
鳴家君だけじゃなかったの...?でもそんな偶然ある訳ないし...
茉莉
何をボソボソ言っているんだ?
無那
あ、いえ‼︎何でもないです‼︎
私はそう言うと茉莉さんに 近づいた。すると あることに気が付いた。
無那
っ⁉︎茉莉さん、お腹から血が出てますよ⁉︎
茉莉
ん?ああ、これか。別に痛みはないから気にするな
無那
気にするなって何でそんな平然としてられるんですか⁉︎
茉莉
茉莉
実はこれ“ペイント弾”なんだ
無那
ペイント...弾...?
茉莉
あっしが建物内を捜索していたら、情報管理センターに防犯カメラに映った緑頭の男がいたんだ
茉莉
名前は月見里 蓬、こいつが勝負を仕掛けてきて持っていた拳銃であっしの腹部を撃ち抜いたんだ
茉莉
当時は撃たれた痛みで死んだと思ったんだが、その拳銃は幻覚作用が起こるように細工されていたんだ
茉莉
やがて目が覚めると、そこには月見里の遺体があった。恐らく誰かに殺されたんだろうな
無那
誰かって?
茉莉
それは知らん、だがこうして生きていられてあっしは良かったと思っている
無那
でも、どうしてペイント弾なんて使ったんでしょうか?本当に邪魔なら本物を使えばいいのに...
茉莉
月見里の口調からして、本人自身も本物の拳銃だと錯覚していたらしかったぞ
無那
じゃあ一体誰が...
茉莉
そんなこと考えたとしても無駄だろう
無那
そ、そうですね...
茉莉
それより...疲れてるんだろう?今日は休め
無那
は、はい...ありがとうございます...
私は茉莉さんの言葉に甘え 建物の奥に行こうとした。
すると茉莉さんは何かを 思い出したように 私を引き留めた。
茉莉
そういえばお前に言わなきゃならんことがあったんだ
無那
言わなきゃいけないこと...ですか?
すると茉莉さんはゆっくりと 口を開いて言った。
茉莉
茉莉
天国の遺言を預かっている