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京極に追いついた満は、敷地内を共に歩きながら、彼女に告白する。
堀野満
京極光利
堀野満
堀野満
京極光利
京極が驚くことはなかった。満は感情を出さないよう、努めて淡々とした調子で話す。
堀野満
堀野満
堀野満
堀野満
京極光利
京極光利
堀野満
堀野満
満は声をこわばらせて話す。それでもやはり、京極の様子は変わらない。
京極光利
堀野満
堀野満
堀野満
京極光利
堀野満
堀野満
堀野満
堀野満
そこまで言って、満は口をつぐんだ。京極にその先を言って欲しかったからだ。
京極光利
堀野満
京極光利
京極光利
堀野満
堀野満
満は京極に見せつけるように、胸の前で右の拳をしっかりと握り込む。
堀野満
堀野満
自らの決意と楡木への怒りを京極に示すように、満は力強い口調で宣言する。
京極光利
それに対し、京極は冷淡な口調で言葉を返したが、その声にはほんのりと怒りが混じっていたように思えた。
2人は昇降口にたどり着く。
ガチャ──
当然扉は閉まっているが、京極が懐から取り出した鍵であっさりと開いた。
堀野満
京極光利
堀野満
キィィィ……
ドアノブを引っ張ると、少し立て付けの悪い不機嫌な音を上げながら扉が開いていく。
校内からの冷えた空気がこちらに迫り、一瞬の違和感が心に広がった。
京極光利
京極光利
堀野満
堀野満
満は京極を諭すように言った。楡木と下手に話をして、事態が悪化するようなことだけは避けたい。
堀野満
堀野満
堀野満
堀野満
京極光利
満の考えを遮って、京極は適当な靴箱から中靴のシューズを取り出し、名前の部分を満に見せてくる。
京極光利
堀野満
本当は顔も知らないが、面倒臭そうなので、適当にそう言っておいた。
中靴に履き替えた2人は、校舎内に上がる。
京極光利
堀野満
京極光利
京極は先程不良達を治したお札を、満に見せびらかすように取り出す。
京極光利
京極光利
堀野満
満は京極と別れ、1人で教室棟へと向かった。
月明かりと、遠くでぼんやりと光る非常灯だけを頼りに、恐る恐る足を進める。
カツン──カツン──
廊下に足を踏み入れると、自分の足音が異様に大きく響く。
それが遠くの闇に消えては、一瞬、何かが応えるような気がして、身体が硬直した。
壁際に並ぶ窓の黒い空洞が、まるで自分を監視する無数の瞳であるかのように思えてくる。
堀野満
胸中から湧き出す恐怖に、満は必死に抗う。
楡木の霊を見付けて、事態がこじれる前に始末する。
この決意は固いが、夜の学校の厳かな静けさと漂う不気味な雰囲気には、飲まれかけてしまっていた。
階段を昇って2階に向かう。
廊下には──少なくとも見える範囲に、楡木の姿はない。
だが、向こうの方にある階段まで近付いた時に、
カッ──
堀野満
研ぎ澄まされていた鼓膜に、確かに響いた。前方の階段から、床を踏みつける音が。
カッ カッ カッ──
音は規則的に……少しずつ大きくなって聞こえてくる。何者かが階段を降りてきている。
堀野満
真鍮を暗く染め上げる恐怖を、深呼吸して抑え込む。
ポケットに手を忍ばせ、中のナイフをいつでも取り出せるように構えた。
カッ カッ カッ──
足音は少しずつ強まってくる。そして──
パッ!
堀野満
階段の方から、突如、強い光を当てられる。
先生1
先生2
聞き馴染みのある声。足音を鳴らして降りてきたのは、生徒指導担当の教師2人だった。
堀野満
先生1
先生は目をそらし、どこか歯切れの悪い様子で話した。
明日咲美以奈
先程の明日咲の言葉を思い出す。彼女はああ言っていたが、先生たちの方でも警戒しているのかも知れない。
先生2
堀野満
堀野は言葉に詰まる。本当のことを言うわけにもいかずに思い悩んでいると、
プツッ……
右の先生の方から、何か突き抜ける音が聞こえてきた。不自然さな静けさが広がる。
その途端、先生の身体がカクンと揺れる。
先生1
先生2
満と左の先生が目を向ける。
右の先生は、みぞおちの辺りが鋭く膨らんでいた。
月明かりが衣服に映し出す影が、じわじわと赤く染まり始める。
そして、ブスッという血塗れの音が響き、赤く濡れた触手のような物体が突如飛び出してきた。
それが先生の身体を貫いた物だと分かった途端──
プツッ
先生2
左の先生も異変が始まる。本能的な恐怖を感じた満は後ずさる。
やがて間を置かず、ぶすりと左の先生からのみぞおちからも触手が飛び出してくる。
先生1
先生2
2人の先生たちは不自然な声を上げながら、カクカクと滑稽なまでに震える。
そのたびに触手の周りや口元から、ダラダラと血が湧き出す。
そのまま2人はゆっくりと持ち上がり……すぅっと左右に分かれて、後ろに引っ込んでいく。
2人を貫く触手は、廊下の奥へと続いている。
???
そこにいたのは楡木……いや、楡木と思われる『何か』だ。
痩せ型であったはずの楡木が、今や水死体を彷彿とさせるほどいびつに膨れ上がっていた。
顔は失われた人間性を示すかのように、醜悪に歪んでいる。
むくみきった皮膚が虫のように蠢き、そこから伸びる触手もまた、くねくねと周囲を探るように蠢く。
まるで独自の意志を持っているかのように、恐ろしく、そして確実に近づいてくる。
楡木という存在は、何らかの邪悪な力によって完全に変わり果てていた。
楡木のうつろな瞳がゆっくりとこちらに向けられる。
瞳の奥には無限の闇が広がり、知識や感情、さらには人間らしさすらも感じられなかった。
楡木
口がゆっくりと開き、うわ言のようにおぼつかない声が漏れ出る。
楡木
おぞましい顔面は、見ているだけで恐怖と緊張感が身体中を巡る。辛うじて押さえ込み、満は言い放つ。
堀野満
楡木
楡木
憎悪が爆ぜた。触手がさらにひどく狂おしく動き、その肉塊から生えた異形の腕が、勢いよく振り回される。
ダッ!!
一瞬のうちに、楡木が駆け出す。
憎しみをたぎらせながら、その身に不釣り合いな速度でこちらに向かって走ってくる。
堀野満
わずかに残っていた勇気も潰え、満はきびすを返して逃げ出した。
タッタッタッ──
堀野満
堀野満
満は必死に走り続ける。
ドス ドス ドス──!
楡木
醜く重苦しい足音と殺意が、後ろから途切れることなく聞こえ続ける。
辛うじてこちらの方が足は早いが、醜く重苦しい足音は、途切れることなく後ろから聞こえ続ける。
それはもはや人間の動きではなく、獰猛な獣か魔物が狩りに出るような凄まじい迫力だった。
堀野満
堀野満
なんとか先程使った階段まで戻り、脱兎の勢いで1階へ駆け下りる。
ドガァッ!!
轟音。楡木が階段の壁に突撃した。校舎全体をしならせるような衝撃が鳴り渡る。
楡木
堀野満
ひるむことなく怨嗟の声を履き続ける楡木に、満の恐怖はますます募る。
堀野満
満は階段を下りながら、懸命に京極を呼び続ける。だが返事はない。
ブスッ!
突如、つむじの辺りに刺されるような痛みが走った。何をされたか見るまでもない。
堀野満
必死に頭を振り、触手を弾き返して、堀野は1階の廊下を走る。
昇降口に舞い戻ってきた時には、既に走る余力は残っていなかった。
ドス ドス ドス……
楡木
楡木の声と足音は着実に近付いてくる。満は扉に駆け寄り、一旦外に逃げようと、ドアノブに右手を伸ばす。
べちゃっ……
汚い音が耳を撫でる。右手に泥ついた冷たい感触。何事かと目を凝らして──
堀野満
満は目を疑った。ドアノブにはあの御札が貼り付けられていたのだ。
ミチミチミチ……
不快な音を立てて、既に満の右手はドアノブと同化が始まっている。
無理やり引っ張ると、耐え難い痛みが走る。
堀野満
堀野満
恐ろしい考えが頭をよぎる。京極が始末しようとしていたのは、楡木ではなく、自分だったとしたら。
ドス ドス ドス──!
足音と憎悪が迫ってくる。楡木が異形と化した理由、その恐ろしい力、そして京極の動機。
全てが一つに繋がって、己の命の危機が現実味を帯びてくる。
シュルルルル──
触手が這う音が、天井の方から聞こえる。もうすぐ近くに来ている。
楡木
ヒュッ──!!
空気が切り裂かれる音がして、満の体全体が急速に氷点下に落ちるような感覚に襲われた。
極度の恐怖で筋肉は硬直し、動けなくなる。
時が止まったような不思議な感覚に包まれ、唯一聞こえるのは自分の心臓の激しい鼓動だけだった。
ザンッ!!
しかし、次の瞬間には、本当に何かを切り裂く音で断ち切られる。
京極光利
シュタッ──
真後ろで足音が聞こえる。満は振り返る。
自分と楡木に間に、京極が大鎌を構え、割り込むように立っていた。
ビシッ!
堀野満
頭上から降ってきた触手に頭をぶつける。さっき刺された所が酷く痛む。
切り裂く音は聞こえたものの、触手は繋がったままだ。
楡木
切られたのは楡木の身体だった。
背中から胸の辺りまで、深く斬撃が走っている。
辛うじて薄皮で繋がっているものの、既に致命傷と言えるレベルの傷になっている。
楡木
楡木の声がみるみる内に大きくなり、その共鳴が昇降口内で反響する。
ドタドタ!
身体中から生えた触手が痙攣するように動き、貫いていた先生たちを昇降口の床に、無造作に落とす。
ドチャッ!
そして、自分の身体も支えきれなくなり、遅れて床に崩れ落ちた。
繋がっていた皮が、衝撃であっさりと千切れる。
あとはもう、痛みで身体をよじらせるだけだった。
堀野満
すんでの所で救われた満が、安堵したように喜ぶ。
ザンッ!!
京極光利
京極光利
堀野満
振り返った京極は、冷徹な眼差しをこちらに向けている。
大鎌を持った彼女の腕が、水平に伸びているのを見て──
自分の首が、既に切断されていることに気付いた直後、意識が闇に飲まれた。