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出会ったその日に恋人となった僕らは、 その後の進展も早かった。
君に情けない愛の告白をした翌日、 僕らは遊園地へ出かけた。
君
遊園地のマスコットキャラクターを見て アヒルさんと呼ぶのは 君くらいしかいないだろう。
しかもあれはアヒルじゃない。 キツツキだ。 しかし、そういうところが 本当に愛くるしい。
僕
僕
君と話すときには、 自然と幼い子どもと話すような 口調になってしまう。
いかにもバカップルなような気がして 後ろめたいが、知らず知らずのうちに 君への愛情が言葉に出てしまうのだから 仕方がない。
君
食い気味で反応する君を見て、 心の中で悶絶する。
君
僕
僕
君
なんて純粋なんだ。 やはりこんなに心が綺麗な人は 見たことがない。
君
そう言って、君はマスコットの近くにいた 従業員のお姉さんに声をかける。
従業員
ここは従業員がフレンドリーで 有名な遊園地で、気さくに話しかけたり、 歩いているだけで褒めてくれる。
デートにはぴったりのスポットだ。
それにしても、お似合いのカップルか。 君みたいに可愛い女性の隣にいる僕は、 なんて幸せ者なんだろうか。 と一人静かに幸せを噛み締める。
従業員
カシャッ…
その後は、お決まりの流れだ。 お揃いのわんちゃんの カチューシャを買って、 ジェットコースターに乗って、 パレードを鑑賞した。
女性と出掛けることが こんなに楽しいものだとは知らなかった。
いや、 これは女性と出掛けるからではない。
君と一緒にいる時間だからこそ、 最高に充実したひとときに感じるのだろう。
楽しい時間はあっという間だった。 時刻は気付けば22時を回り、 園内には蛍の光が流れ出す。
最後に、 でかでかとライトアップされた クリスマスツリーの前で写真を撮り、 僕らは帰途につくことにした。
ガタン…ゴトン…
えー。次はー。●●駅ー。●●駅ー。 左側のドアが開きます―――。
車内には次の停車駅の アナウンスが流れる。
遊び疲れたからか、 君は僕の肩の上で ぐっすりと眠っていた。
もうすぐ君の家の最寄駅だ。 そろそろ君を起こさなくては。
でも、もう少しこの寝顔を眺めていたいと、 そっと君の頭を撫で下ろした。
君
寝ていたはずの君が突然口を開く。
僕
君
君
僕
君
予想外の言葉が飛び出した。 僕らは出会ってまだ二日目だ。
正確には、 メッセージでやり取りしていた時間も 含めるともう少し長いわけではあるのだが、 それにしても一週間も立っていない。
そんなことさすがに 展開が早すぎやしないか。
僕
頭で考えるよりも先に 言葉が漏れてしまった。 むしろこれでいい。
君といる時間は これまでの人生で一番楽しいんだ。 考えることはやめよう。
君
僕
君
君
本当に君は無邪気だ。 本能のままに生きていることが 瞳の奥から伝わってくる。
僕
僕
そう言って僕らは、 出会って一週間という早さで 同棲を始めた―――。
僕はしがない脚本家だ。 小さな劇団の舞台脚本をいくつか 書きながらなんとかギリギリの状況で 生計を立てていた。
当然贅沢なんて出来るわけもなく、 引っ越した先は隣の部屋の声が 聞こえるくらいに壁の薄い、 古いアパートだった。
君
僕
君
君
僕
僕
君
君
今思い返してみると、 懐かしいというのは 亡くなったおばあちゃんの家を 思い出していたのだろう。
引っ越してから数ヶ月が経った夜、 劇団との打合せから帰ってきた僕は、 玄関を開けた瞬間に 部屋の様子がおかしいことに気がついた。
棚や箪笥、さらには靴箱まで、 ありとあらゆるものが外に放り出されて 床に散乱している。
まさか空き巣でも入ったのか―――?
いや、そんなはずはない。 部屋では君がしっかりと 留守番をしてくれていたはずだ。
まてよ…?ということは…!?
突然君のことが心配になった僕は、 慌てて君を探して声を荒げる。
僕
すると、部屋の隅から 君の声が聞こえてきた。
君
珍しく元気がない。 やはり何かが起こったんだろうか。
僕
君
君が…やったのか?これを一人で…?
君
君
次第に君の声が震えだす。 泣いているんだ。
君
僕
僕
少しわざとらしくしすぎただろうか…? ふと君の顔へ目を向ける。
君
そう言って君は眼に溢れた 涙を拭いながら微笑んでいた。
君
"PTSD"
話程度には聞いたことがある。 辛い過去や生死に関わる経験を したことのある人が発症する疾患だ。
君に何があったかはわからない。 本音を言うと、 知りたい気持ちでいっぱいだった。 でも、僕にはその勇気がなかった。
僕
君
僕
君
君は急にケロッと元気になった。 これも症状のひとつなのか? そんなことはどうでもいい。 やっぱり君は笑っている姿が一番だ。
僕
一緒に頑張ろう。 と言いかけたが、言葉を変えた。 君はもう充分頑張っているんだから。
君
僕だって、 君が側にいてくれたら それだけで充分だ。
他には何もいらない。 君が何を抱えていたって構わない。
僕が側でちゃんと支えてさえあげられれば、 きっと君は少しでも楽になれる。
月の灯りが照らす部屋の中で、 僕は君とふたりぽっちで 生きていくことを決意した―――。