「わしのじいさんはなぁ…」
「ほら、お義父さん。落ちましたよ」
本当によく呑む人だ
みそ汁に沈んだ入れ歯を箸で掬う母を側目に、自らもビール缶を傾ける
……人のこと言えないかも
テーブルはすでに私と祖父のおつまみセットで埋め尽くされていた
苦い顔で残骸からテレビへと目を移す
音楽番組でちょうど『歓喜の歌』の合唱を中継しているところだった
歓喜の歌―日本では "第九" の名で親しまれている『交響曲第9番 歓喜の歌』
音楽室に必ずと言っていいほど飾られ、夜中に目が動くというあのベートーヴェンが最期に作曲した交響曲
そして、私一番のお気に入りの楽曲でもある
好きな曲が交響曲なんて変だって友人に言われたこともある
けれど
私はあの日からずっと―
流れる合唱を聴きながら、私はふと あのときのことを思い出していた