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絵名

………………ん、

教卓にもたれかかっていた影が わずかに動いた

絵名

あれ、私……

窓の外の明るさに目を細め 絵名は静かに立ち上がった

辺りを見渡し終えて 小さく口を開いた

絵名

ここ……神高じゃない、よね……?

絵名

(……私、何してたんだっけ)

絵名

(たしかセカイに行って、奏たちと……)

絵名

…………?

絵名

(奏たちと、何をしようとしてた?)

絵名

(新曲のデモを聞きに?それとも、ただミクたちに会いに……?)

絵名

……だめ、全然思い出せない

絵名

(セカイに行ってたとしても、今までこんなことなかったはず)

絵名

(なにが引き金でここに__)

__…………えな?

絵名

っ!?

驚いた絵名が 声のしたほうを見やると、 教卓_絵名の居た反対側に いたのは__

絵名

ぇ、あ……彰人?

彰人

やっぱり絵名だったか

まだ虚ろな目をしていながら 絵名と視線を絡ませた 彰人だった

絵名

なんであんたがここに……

彰人

……ここ、神高じゃねぇんだな

絵名

……、…………そうみたいね

絵名の質問もお構いなしに 周囲を観察する彰人に、 絵名は呆れ顔をしながらも 相槌をうってやった

そもそもどうして こんなに近くに居た弟の姿に 気づかなかったのか

そんなことを考え 絵名は小さくため息を漏らした

彰人

……んだよ

絵名

ぁっべ、別に、なんでも…な……

ふと、中央の机の上に紙が 置かれているのが目に入り、 絵名は言葉を止めた

彰人

…………絵名?

絵名

…………、…ぁ………

手に取った紙をじっと見つめ 段々と青ざめていく絵名に、 彰人は訝しげな顔を向けた

絵名

これ、……かくれ…?どうして、名前……

彰人

おい絵名

絵名

……時間、ぁ…ない……?うそ…………

彰人

絵名。おい、……聞こえてんのか、これ

絵名

まけ、…さよ、なら……?

彰人

…………絵名

ぶつぶつと何かを 呟き続けている絵名は、 彰人が立ち上がった瞬間に 怯えた表情を向けた

彰人

その紙がどうかしたのかよ

絵名

あ、彰人は見ないでッ!!

彰人

はぁ?

今まで見ていた紙を素早く折って 乱雑にポケットに入れた絵名に 彰人はさらに険しい顔になる

絵名

あ……隠れ場所、探さなきゃ

彰人

……絵名、お前さっきから変だぞ

絵名

教卓だとすぐに見つかっちゃうよね。ロッカーは……ああ、でも……っ

彰人

はぁ……、……あそこはどうだ?

絵名

え、どこっ!?

諦めた彰人が指さしたのは 教室の隅にある もうひとつの教卓だった

絵名

っでも、あそこだと足が見えて__

彰人

これ被せりゃいいだろ

そう言いながら掲げたのは まっしろな布だった

彰人曰く、後ろの棚に 入っていたらしい

彰人

ま、少し不自然に見えるかもしれねぇが……

ふたりで布を教卓に被せてみる

雪のように白い布は教室の中では いちばんに目を奪われそうだ

が、床すれすれまで覆われた おかげで 絵名の抱える問題は解消された

絵名

……うん、いいかも

絵名

彰人、あんた先入って。今すぐ

早口で捲し立てた絵名に 彰人は怪訝そうに眉をひそめた

彰人

……なんて書いてたんだよ、それ

彰人が指さしたのは 絵名のポケットに入れられた紙

絵名

…………今はいいから

彰人

なんだよそれ。……変に姉貴ヅラすんなよ

絵名

いいから早く隠れてッ!!

絵名は静かに叫んだ

その表情には 焦りと絶望が滲んでいる

絵名

早くしないと、

絵名

……死んじゃう…ッ!

彰人

………………!

呻くような縋るような声色に 先程のセリフを思い出す

彰人

(負け、とかさよなら、とか聞こえた気がしたが、気のせいじゃなかったのか)

彰人

(それに隠れ場所を探してるってことは……)

彰人

…………そういうことか

彰人は絵名に押されるまま 教卓の中に身を隠した

そのまま絵名も隠れる

彰人

音出すんじゃねぇぞ

絵名

分かってるってば

内側から教卓を押し上げ 隙間ができないように壁に くっつけてやった

下から漏れる光のおかげで 教卓の中は薄暗かった

絵名

………………

彰人

………………

ふたりは息を潜めて 外の音へと意識を注いだ

彰人

…………これ、いつまで隠れ続ければいいんだよ

絵名

……分からない

絵名

いつ鬼が来るのかも分からない。それに、ここがどういう場所なのかも……

彰人

……下手に動くのも危険だが、ここに居てもいつか見つかるからな。頃合いを見て鉢合わせないように移動するぞ

絵名

う、うん……

絵名

…………あんた、本当に紙の内容見てないでしょうね?

彰人

はあ?お前が持ってるんだから見れるわけねぇだろ

絵名

……そう、だよね…………

__コツ、コツ、……

彰人

…………っ!

絵名

っねえ、今の足音だよね。聞こえたッ?

彰人

ああ……

コツ、コツ、コツ

コツ、コツ、コツ

絵名

ッ近づいてきてる……!

彰人

(……声出すなよ)

絵名

(わ、分かってる!)

迫りくる足音に、絵名たちは 息を殺す

コツ、コツ、コツ

コツ、

彰人

………………

絵名

………………っ

ドンッガダンッ ガラガラッ

彰人

っ!?

絵名

っひぁ…ッ!?

今までで聞いたこともないような 扉の開け方に、絵名は思わず 小さな悲鳴を漏らした

慌てて両手で口を覆う

も~い~かぁ~いっ?♪

次いで聞こえてくる狂気じみた声

“こいつが鬼だ”と判断するには 十分すぎる材料だった

おっ、ちゃあんと隠れてる!えらいえらぁいっ!♪

さぁて、どこかなどこかな〜?あっははは!!♪

ガタンッ

机をひっくり返す音

ダンッ、ガシャンッ

続いて、椅子などを蹴飛ばす音

絵名

(いっ嫌ッやめてッ!)

あっはは!♪ここじゃないなぁ?♪

ギィ、バダンッ

絵名は今にも悲鳴を上げそうな 口を必死に両手で押さえつけた

体育座りの身体を更に縮め ひたすらに耐え続ける

ふと、彰人の手が 絵名の耳を塞いだ

ガンッ

乱暴な音が響くと共に彰人の手も びくりと震えるが、それでも 絵名の耳を塞ぎ続けるのは 優しさか。それとも__

……、あ~あ、見つからないなぁ〜?

コツ、コツ、

コツ、コツ、コツ

絵名

(あ、足音が大きくなって…!)

段々と近づく足音に 絵名たちは更に息を殺す

コン、コン、コン

ねぇ、ここにいるんでしょう?

絵名

__っ!?

今までとは打って変わった 優しい声色に、 絵名の息が止まる

直接語りかけるような声は 耳を塞がれていても 変わらなかった

絵名

(……い、いないよ。いないから。ここじゃないからッ)

絵名

(早く出てってよッッ!!)

心の中で絵名は叫ぶ

この言葉が鬼に伝わらないのは 絵名自身分かっていた

…………ふぅん。そっか

絵名

(ぇ……)

鬼が小さく呟いた言葉を 絵名は聞き逃さなかった

ざんね〜ん、ここにはいないみたい!

コツ、コツ、

次は〜…あっ!あっちから行こ〜っと!

タッ、タッ、タッ

ガラガラッ、ドンッ

コツ、コツ、コツ

コツ、コツ……

絵名

……………………

絵名

(い、行った…よね?)

絵名が口から手を離すと 耳を塞いでいた手も離れていった

絵名

……ねえ、そろそろ出ていいよね

絵名

…………………………彰人?

隣から声がしないことに 絵名はぞっとする

ただ、気配はあることから この場から消えてはいない ことは確かだった

絵名は隣の影を揺すった

絵名

彰人…彰人。ねえ、大丈夫?

彰人

……………………っだぃじょ、ぶだ

普段とは正反対のか細い声だが 返事が返ってきたことに 絵名はほっと息をついた

絵名

外出るよ。教卓動かすけど、できる?

彰人

………………ぁあ

隣の影が動いたことを確認して 絵名は教卓に手を当てた

教卓と壁にできた隙間から 絵名は顔を出した

絵名

(相変わらず眩しい……)

絵名

って…………、…………ぇ

目の前に広がる光景に 絵名は硬直する

絵名

うそ、でしょ

彰人

おい絵名。突っ立ってんなら一歩移動しろ

絵名

あっ…ごめ、ん

教卓の中から聞こえた声に 人ひとり分横に移動した

絵名

…………覚悟して見てね

彰人

どういうことだ……、…………は

絵名に続いて教卓から出てきた 彰人の動きも止まった

ふたりの前には 散乱する机、脚の曲がった椅子、 破れたカーテンetc…

とても教室とは言い難い 地獄とも呼べる景色が 広がっていた

絵名

……だから覚悟して見てって言ったじゃん

そう言い放つ絵名も 半ば放心状態だった

彰人

………………これ、あいつひとりで……

絵名

………………、…………あ、彰人、大丈夫?

見ると、彰人の顔は青白く 今にも倒れそうだ

彰人

…………気にすんな。オレは平気だ

絵名

……無茶しないでよ。いっつもそうやって__

__カサッ

突然響いた音に ふたりは肩を震わす

音の出処は、どうやら 教室の中央らしかった

顔を見合わせ、そこに向かって 歩いていく

彰人

…………これだな

彰人が手に取ったのは 絵名が見つけたものとは違う 紙だった

絵名

あっ……

彰人

…………………………は、

そこに記された名前、 新しく刻まれた名前に ふたりは戦慄した

____

かくれんぼ 敗者一覧

·暁山瑞希 ·鳳えむ ·草薙寧々 ·日野森雫 ·望月穂波

·青柳冬弥

____

絵名

え、あ…ぁあ……み、…どうして

彰人

嘘だろ……全員…殺された、のか……あいつに…?

その上欄に書かれてある参加者が 目に映り、絵名の喉が ヒュッと音を立てた

__カサッ

彰人

……っ!?

敗者一覧に、名前が増えた

·花里みのり

絵名

嘘、みのりちゃんまで…ッ

彰人

…………………………

ふいに彰人が紙を置いて 立ち上がり ふらふらと扉へ歩き出した

絵名

……待って、どこ行くのよ

彰人

いつまでもここにいたら見つかるだろ

絵名

……………………

彰人の言葉に、絵名は不服そうに 紙を拾い立ち上がった

絵名

……んー…、ここにはあまりいいものなさそうかな。………彰人、そっちは?

絵名たちは誘われるように 2階のとある部屋に来ていた

ふたりがはじめに居た教室は 1階だったらしい

ここにこの戯事を終わらせる 鍵がないかを探しているのだ

彰人

…………ここ、本当になにもないな

彰人の静かなつぶやきに 絵名はそっか、と声を落とす

ロッカーがたくさん並んだ この部屋ならば ヒントのひとつやふたつ あると考えていたのだ

絵名

…………あと探してないのは入口のところかな

絵名はポケットをそっと撫で、 入口付近に移動する

幸いあれから脱落者は 出ていないようだった

絵名

……………………

空っぽのロッカーに そっと手を乗せる

小さく零したため息は 彰人に届いたらしい

彰人

……そう簡単には見つかんねえよな

彰人もため息混じりに呟いた

__ガチャッ

絵名

突然聞こえた音に、ドアに 背を向けていた絵名は振り返__

彰人

っ絵名!!!

__ることなく 彰人に身体を引っ張られた

勢いを殺せないまま 絵名は彰人と入れ替わる

絵名の身体はそのまま傾き__

絵名

あっ……

ドンッ

背後で聞こえた音と同時に 床に倒れた

…………かわいそう

笑い声と共に発せられた言葉に 絵名は背後を見た

そこには__

絵名

彰人っ!!!

仰向けのままオープンロッカーに 頭を押し付けられている 彰人の姿があった

見ると、腹部から ぼたぼたと血が流れている

彰人の頭を押し付けているのは ツインテールの可愛らしい 少女だった

絵名

あきっ、ッ彰人!!

絵名は少女を押しのけ 彰人の前に立った

座っている状態で 頭を押し付けられた彰人は、 首からも血を流していた

絵名

彰人!!ねえ彰人ってば!!!

腹部に手を当てると彰人は ぅぐ、と小さく声を漏らした

その声にハッとし、 絵名は彰人から手を離す

絵名

…………ごめん。ごめんね

絵名が呟いた瞬間、 彰人の口だけが僅かに動いた

彰人

その口は、たしかに ご め ん と告げた

__カサッ

絵名のポケットが 無惨にも震えた

ツインテールの少女

…………隠れてたら、よかったのになあ

そんな呑気な声に 絵名は後ろを振り返る

背後に立っていた少女は どこか遠い目をして 笑っていた

ツインテールの少女

……もぉ、いやなこと思い出しちゃったじゃん。責任取ってよ〜っ

そう言って近づいてくる少女に、 絵名は逃げる選択を取らなかった

絵名

…………いいよ

ツインテールの少女

あれっ、いいの?ほんとに?せっかく弟クンが守ってくれたのに?

絵名

っ…………、いいよ。もう、無理だよ……

絵名

あーあ……私、お姉ちゃん失格だなあ

死んだ魚のような目をして 笑った絵名に、少女は ツインテールを揺らしながら 微笑み問いかける

ツインテールの少女

何か、言い遺すことはある?

それに対して、絵名も 微笑み返しながら答えた

絵名

………………彰人。


最後まで不甲斐ないお姉ちゃんでごめんね

絵名は笑って 瞳を閉じた

ツインテールの少女

…………………………ほんと、救われないね

少女の小さな自嘲と共に 絵名の意識は弾け飛んだ

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