私達の950日闘争

部屋の時計が一際高い音を上げて、始まりの時刻を知らせる。

パソコンで別のウィンドウを開き、お絵かきチャットのページを開く。

好都合な事に、チャットルームへのリンクは1番前に表示されている。

意気込んでクリックしたルームの中には今、私と華夜の2人だけ。

チャット参加者はまだ来ていないものの、華夜は気にしていないらしい。

私がチャットの使い方を確認している間、華夜は慣れた様子で、白いキャンバスに文字を書いていく。

落ち着きなく指を動かし、私はコメント欄に文字の羅列を貼り付ける。

このチャットで作成したイラスト並びに、既存のイラストは全て、無断転載並びにトレパク（参考含む）禁止となっております。

と言いますのも、近頃、わたしのイラストが無断転載並びに、参考という名のトレパクの被害に遭っているためです。改めてご確認下さいませ。

また、こちらをご覧の皆様にお願いです

このチャットのリンクをSNSなどで共有して、注意喚起の拡散にご協力をお願いいたします

無断転載やトレパクは、放っておけば被害者が多く出る犯罪行為であると、わたしは思っております

これ以上の被害を食い止めるべく、何卒よろしくお願いいたします

悩む私のことなど露知らず、華夜が携帯のグループチャットへメッセージを送ってきたのは、まさにその時だ。

携帯のボタンで文字を打ち込む最中。

スポン、と音を立てて、記念すべき最初のコメントが出現した。

文字では軽い調子の彼女だが、キャンバスにはハッキリとした線が引かれていく。

描いては消しての作業を繰り返しながらも、着実に仕上がっていく人物画に、絵の感想がじわじわと増え始めた。

無断転載やトレパクの質問が埋もれないように、リクエストを拾う風香や月泉を確認しながら、私もチャットの応対を急ぐ。

チャット参加者の相手をしつつ、リクエストはどんどん消化されていく。

やがて終了予定時刻である22時を過ぎても尚、チャット欄からコメントは溢れて止まらなかった。

賑やかなのは、その日のグループチャットも同じく。

あと少しで日付が変わると言うのに、私達は携帯の小さな画面を覗き込んでいた。

風香と月泉は早速、SNSを覗きに行ったらしい。私も2人に続いて、ブラウザのブックマークからお目当てのリンクを探す。

そこに並んでいたのは、想像よりも遥かに多くの、参加者からの注意喚起と、その拡散。

更にそこへ連なる、他のイラストレーターの無断転載やトレパクの被害報告。

中には、知人にこの事を直接話したのであろう、誰かへの返信コメントまで表示されていた。

チャットの画面を閉じ、携帯のアラームをセットする。そのまま布団に潜り込むと、すぐに眠気がやって来た。

バカになったみたいに、大丈夫と心の中で繰り返す。まるで、眠れ眠れと子守唄でも歌うかのように。

暗示にも似たそれをしているうちに、私の意識は闇に落ちたのだった。