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その後。

あおい

はーっ……
もう昼休み終わるじゃん、マジ最悪

あおい

結局理科どころか、午前中の授業ぜーんぶ!受けさせられたんだけど

あおい

そんな事してる間にも、きなこが攻撃してくるかもしれないのに!

あおい

何より山センに割く時間なんてないんだけど〜!も〜!

バタバタと足音を立てながら、あおいは職員室へと足を運ぶ。

あおい

失礼しま〜す、山セ……山口先生いますか?

山口先生

ここにいる

山口先生

少し待っていなさい

山口先生

山口先生

では先生方。すみませんが、私は1度失礼いたします

職員室内の先生達に挨拶をして、山口先生があおいの元へと歩み寄る。

その手には分厚い封筒と、どこかの鍵が握られていた。

山口先生

では着いてきなさい

あおい

はぁい

あおい

あの、これからどこに行くんすか?

山口先生

進路指導室だ

あおいはギュッと眉(まゆ)を寄せる。

本人は薄らとしか自覚していないが、あおいの校内態度はひどいものだ。

気に入らない授業はそもそも出ない。 グループワークがあれば、同じグループのクラスメイトに押し付ける。 時には授業中にスマートフォンをいじっていたこともあった。

やっとここで危機感を覚えたあおいは、そろそろと山口先生の隣に立ち、彼のシワの寄った顔を覗き見た。

あおい

なんか、あたし……やらかしました?

山口先生

何も思い当たることはないのか?

あおい

あー……まあ、ないことはないっすけど

あおい

ただの興味ってか、ちょっとした不安って言うか

あおい

だって山口先生が、授業を放ってあたし1人に時間を使うくらいだし

あおい

あおい

次の授業は出るし、課題もちゃんとやります!

あおい

だから個別指導はまた別の日に……

山口先生

学びの姿勢を見直すのというのは良い事だが、それはこれが終わってからだ

山口先生

今回の要件は

あおい

ちょ、ちょっと待っ

山口先生

彼女と

あおい

急にドア開けない……

山口先生

吉岡と話し合うことだ

あおい

で?

あおい

あ、あれ?

黄実花

……こんにちは、立花さん

カチ カチと、壁掛け時計の秒針だけが響く空間。

進路指導室のやや固いソファに座り、あおいは黄実花と向かい合う。

山口先生は黄実花の隣に座り、抱えていた封筒を机の上に置いた。

途端にきまずくなって、あおいはじっとりと手汗の滲(にじ)む手のひらを握りしめる。

黄実花

すみません、わざわざお時間を作っていただいて

山口先生

構わない

山口先生

これで校外の問題が解決するならな

あおい

あ、あの〜……

あおい

校外問題?って、何?

あおい

あたし、あんたに何かしたっけ

黄実花

黄実花

貴方さあ、まだ名乗ってるんでしょ

黄実花

『望岡きなこ』の名前を

あおい

えっ何?なんで今、その話?

あおい

それしか脳が無いわけ?

あおい

だってそれは、あたしが望岡きなこだからであってさ?

あおい

問題になるようなことはしてなくね?

あおい

あおい

あっ!分かっちゃったあ!

あおい

あんた、望岡きなこになりたいんでしょ!

あおい

あたしに憧れて、嫉妬してるんだ!

あおい

だぁからこんなアホみたいなこと言うんだ!あはは!

黄実花

ほんと、呆れるわ

黄実花

バカに付ける薬の開発を、ここまで望んだ日は無いってくらい

黄実花

貴方がどう言おうともね、問題になってるのよ

黄実花

立花さんがついた、そのウソ自体が、問題になってるの

黄実花

貴方のせいで、私の――否

黄実花

 私 達 の校外活動に問題が出てるの

あおい

はぁ?意味わかんないんだけど

黄実花

絵を描く時間は減ったし、文章を考えようにも、なりすましの存在が気がかりで集中出来ない

黄実花

そんなわけで、今後は私の活動を邪魔しないでもらいた――

あおい

何?その口ぶり

あおい

おめーの方が意味わかんねーからぁ!

あおい

寝言は寝て言えよっての!!

山口先生

立花!

黄実花

止めないでください、先生

あおい

なぁ〜に好き勝手にほざいてんだよ!

あおい

被害妄想もいい加減にしろし!

あおい

お前が望岡きなこだってなら、証拠見せろよ、証拠!!

黄実花

そうね……

あおい

しょ〜こ!しょ〜こ!!

黄実花

ほら、この画面、見覚えあるでしょ?

あおい

あぁ!?

黄実花が差し出したスマホの画面には、すっかり見慣れた物が――

望岡きなこのホーム画面が映し出されていた。

それだけならまだ、あおいは黄実花を笑い飛ばせたかもしれない。

だが、彼女の指がメッセージ投稿の画面を開いた途端(とたん)、あおいの余裕は消え去った。

あおい

あ、あ……

投稿画面にあるアイコン、間違いなく望岡きなこのものだ。

それにちらりと覗(のぞ)くアカウントのIDは、間違いなく散々見てきた、望岡きなこ本人のもの。

あおい

ウソだ、こんなの認めない!

黄実花

認めないとかそういう話じゃないの

黄実花

事 実 な の

黄実花

私が望岡きなこ、本人なのは

黄実花

黄実花

ま、半分は貴方の言う通り、ウソなのだけどね?

あおい

は?半分はウソ?

あおい

わけわかんねーし!どういう事だか説明しろよ!

黄実花

あー、見てもらった方が早いかしら……

黄実花

もういいわよ、出てきて

???

はいはーい!しっつれ〜いしま〜す!

あおい

は?え??

???

アハハ!ようやくご対面って訳ね

黄与花

こーんにちは!うちらのなりすましさん!

あおい

吉岡が、もう1人!?

そこに立っていたのは、他校の制服を着た黄実花……と言ってもおかしくないほど、そっくりな少女。

――黄実花の双子の姉妹なのは、容易(ようい)に想像が着いた。

黄実花

きよちゃん、そんな足開いて座ったらダメよ

黄与花

えー?

黄実花

お母さんからもそう言われてるでしょ

黄与花

だって連日の下絵描きで腰痛いんだもん、許してよ

黄与花

それにぃ、こいつの前で重んじる礼儀礼節(れいぎれいせつ)なんて無くなぁい?

黄与花

ま、それは置いといて……これで分かりやすくなったっしょ?

黄与花

黄与花

『半分はウソ』ってのは、うちもまた、望岡きなこだから

黄与花

望岡きなこってのは、うちと黄実花、2人で作ったアカウントなんだよ

黄与花

うちが下絵と文章担当

黄実花

私が色と写真、SNSの更新担当

黄実花

こうして作ってきたのが、この望岡きなこというクリエイター像なの

黄実花

それを貴方は……!

黄与花

ちょちょちょ、ストップストップ!

黄与花

カームダウンだよ〜!
落ち着いて、きみちゃん

山口先生

山口先生

本題に入る

山口先生

率直に聞くが、立花

山口先生

この2人の所有するアカウントの、なりすましをしていたと言うのは……本当か?

あおい

そ、それは、もち――

黄与花

先生ってば、そんな風に聞いちゃダメですよぉ

黄与花

だってこいつ、ウソつきだもん

黄与花

絶対『そんな事してません』って答えるよ

黄与花

だからこうすればいいと思いまぁす!

どんっ、と机に叩きつけられたのは、1枚の画用紙。 更にバラバラと転がってくるのは、硬さと濃さの異なる鉛筆(えんぴつ)数本に消しゴム。

それが意味する事は、嫌でも分かった。

黄実花

成程?実演するって事ね

黄実花

分かりやすくていいと思うわ

黄実花

黄実花

という事だから、立花さん

黄実花

貴方が本当に望岡きなこだと言うなら、描いてみて

黄実花

お題は……そうね、好きなクライムロックのキャラクターとかどう?

黄与花

いいね、それ賛成!

黄実花

このくらい簡単でしょ?クライムロックが好きな、望岡きなこなら、ね

黄与花

……あー、別に描きたくないんだったら、描かなくてもいいんだよ?

あおい

は?ふざけてんの?

あおい

勝手にぐちゃぐちゃ言ってんじゃねーし!

黄実花

ああ!もしかして、私達も貴方と同じだと思ってる?

黄実花

貴方と同じように、望岡きなこのなりすましをしてるとでも?

黄与花

そうならマジで心外だな〜

黄与花

そんなくっだらないことするような人に見えてるの、シンプルに傷つくんだけど

黄実花

なら私達も1枚描きましょうか

黄実花

きよちゃん、時間が無いから、胸から上だけで軽く作れない?

黄与花

おっ!バストショットは久々だぁ〜!

あおい

バス……え?乗り物?

黄与花

んじゃ、早速始めまーす!

あおい

ちょっと待てよ!

あおい

やる流れになってるけどさあ、まず!

あおい

なんであんたらに命令されなきゃいけないわけ!?

あおい

あたし、描くなんて言ってないんだけど!

調子に乗りやがって、と怒りが込上げる反面、あおいは焦っていた。

もしこの場で絵を描いて見せたら、なりすましなのは確実にばれる。 絵柄が根本から違うのだから、当然の話。

ただでさえ決定的な証拠を見せ付けられているのに、これ以上追い詰められるようなマネはしたくない。

混乱するあおいの前で、黄与花はへらへらと笑いながら、あおいの方へと身を乗り出した。

黄与花

ええー?なんでさ、本人だって証明出来る、いい機会じゃん

黄与花

だってあの投稿画面じゃ、納得できないんでしょ?ならこうするしかなくない?

黄与花

それとも何?絵は描けないのかな?

あおい

は、はぁ?そんなわけねーし

あおい

えっとお……

あおい

あおい

実はあたし、手首痛めてんだよね〜

あおい

だから無理って言うか?

あおい

今日の創作はお休みしよっかなって思ってたんだよね〜?

そうだ。こうしてしまえばいい。

とにかく今は、あの手この手で時間を伸ばして、3人が根負けするまで……否、他校生である黄与花の滞在時間まで、耐え抜けばいい。

それに、この2人は転校するのだ。今この時間さえ乗り切ってしまえば、永遠にさようならだ。 そうすれば、もう直接責められることなんてない、はず。

何とも格好つかない、泥臭(どろくさ)いものだが、勝利が見えてきたような気がする。

わずかな勝ち筋を見つけたあおいの前で、黄実花はため息をつく。

黄実花

まあ、こういう手に出るとは思っていたわよ

黄実花

こうも予想通りだと、私達の方まで情けなくなってくるわね

黄実花

こんな奴になりすましをされたなんて、考えたくもない

黄与花

ま、別に描きたくないんだったら、描かなくてもいいよ

よし、諦めさせた!

内心で手を握りしめるあおいだったが、すぐにその手のひらから、嫌な汗が滲(にじ)む事になる。

黄実花

だって私達、あのアカウントの画像以外にも、持ってるもの

黄与花

あんたがなりすましだって証拠、たーっくさん!ね!!

優しげにも見えるほほ笑みを浮かべて、2つのスマートフォンが、あおいの前で揺れる。

その持ち主である黄実花、黄与花の目は、ただまっすぐにあおいを見つめていた。

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