先生
どうしたんだ?
先生
教室に一人でいるなんて
先生
もうみんな下校したぞ?
優里奈
……先生
先生
何だ、泣いてたのか?
優里奈
……はい
先生
何かあったのか?
優里奈
……実は
優里奈
私、いじめられてるんです
先生
いじめ!?
先生
誰に?
優里奈
クラスのみんなに
先生
全員に?
優里奈
はい
先生
どうしてそんなことになったんだ?
優里奈
みんなが、私のことを「サイコパス」って言うんです
先生
サイコパス?
優里奈
私、笑顔を作るのが下手で
優里奈
いつも無表情でいるから
優里奈
ある時、「あいつサイコパスなんじゃね」って誰かが言い出して
優里奈
それが広がって
優里奈
「気持ち悪い」とか「怖い」とか言われるようになって
優里奈
今では、暴力を振るわれたり、無視されたりしてるんです
先生
……そうだったのか
先生
それは大変だな
優里奈
先生、助けて下さい
先生
助ける?
優里奈
いじめを止めて下さい
先生
……
優里奈
先生?
優里奈
どうして黙ってるんですか?
先生
悪いけど、そのお願いは聞けないな
優里奈
え?
先生
助けることはできない
優里奈
ど、どうしてですか?
先生
査定に響くからだ
優里奈
査定?
先生
俺の教師としての評価のことだよ
優里奈
どういうことですか……?
先生
このクラスを受け持ってから、問題が起きたことは一度もない
先生
俺のクラス運営は、校内でも高く評価されているんだ
先生
でも、ここでいじめ問題が起こると、その評価が下がる恐れがある
優里奈
……
先生
だから俺は、いじめを隠蔽する
優里奈
……そんな
先生
幸い、クラスの全員が君のことをいじめているようだから
先生
いじめが外にばれることはないだろう
優里奈
……じゃあ、いじめはずっと続くってことですか?
先生
そういうことになるな
優里奈
私は、どうなるんですか?
先生
耐えられないようだったら、転校を勧めるよ
先生
転校先だったら、全力で探すから
先生
だけどその場合、転校の理由を、いじめにするのはやめてくれよ
優里奈
……ひどい
先生
分かったら、もう家に帰れ
先生
ここでずっと泣かれても困るからな
優里奈
……先生
先生
何だ?
優里奈
先生って、「サイコパス」ですね
先生
ハハハ
先生
上手いこと言うな
優里奈
……
先生
じゃあな
先生は教室を出ていこうと後ろを向いた。
その時だった。
グサッ!
先生
……えっ
先生は床に倒れた。
先生の背中には、ナイフで刺された傷跡が出来ていた。
教室の床は、みるみるうちに血で染まった。
優里奈は、血の付いたナイフを持って、先生を眺めた。
優里奈
だから言ったのに
優里奈
「助けて」って
優里奈
助けてほしかったのは、私じゃなくて、クラスのみんな
優里奈
いじめを止めないと、私、みんなのことを殺しちゃうから
優里奈
見抜かれて焦ってたんです
優里奈
私が「サイコパス」だってこと
優里奈は、そう言って微笑んだ。