第一章
そこは、どこかの地下施設のようだった。
廊下にずらりと扉が並んでおり、扉にはそれぞれプレートがはめられている。
【A】様、【B】様、【C】様、【D】様、【E】様――と、それぞれに名前が書いてあった。
A
Aはそう呟くと、自分の名前が書かれた扉を開けてみる。
中は病院の個室のような造りになっている。
簡素なベッドがひとつだけ。
後、窓らしきものは見当たらない。
A
部屋の中を探すといっても、殺風景な中に簡素なベッドがひとつだけ。
探す場所を見つけるほうが難しく、部屋の中に食糧の類がないことは明らかだった。
部屋から出ると、ちょうど隣からBが出てくるところだった。
B
彼の問いかけに首を横に振る。
B
Bはとても背の高い男性だ。
海外にも支店を持つ商社の本社で働いているらしく、Aに対しても気さくに話しかけてきてくれる紳士だ。
A
A
Aは茶に染めた髪の毛の先を指でいじりながら問う。
動揺している時に見せる癖らしいが、自分で意識したことはない。
なぜ動揺しているのかといえば――訳もわからないまま、見知らぬ場所で目を覚まし、見ず知らずの人達と一緒に探索するはめになったからだ。
B
実はここにいるのはAとBだけではない。
C、D、Eもいる。
ちなみにCとDはAと同様に女性であり、BとEが男性だ。
A
A
少しばかり感情が昂ってしまい、やや早口になってしまったのであろう。
Bは苦笑いを浮かべる。
B
A
しばらく考えるような仕草をしたのち、Bが口を開く。
B
B
誰かが死ねば、ここから出られる――。
みんなを動揺させないようにするためか、慌てた様子でメモをポケットにしまったBの姿を思い出す。
本当に、そんなことが書かれていたのだろうか。
C
そこにやってきたのは、Cだった。
彼女は教師をやっているらしいが、妙に喋り方がたどたどしい。
A
A
C
C
B
ぽろりとBが漏らした言葉に過剰なまでにCが反応する。
C
C
E
E
他の場所を探索――といっても、この廊下以外にあるのは目覚めた広場だけ。
広場もまさしく殺風景というやつで、見事なまでに何もなかった。
D
EにはDが同行していた。
Eはリーダーシップの取れる男といった具合で、やや見た目がチャラチャラとしてはいるが、頼れる側面を見せている。
若い頃は日本を離れて放浪していたとかで、今や立派なフリーターらしい。
一方、Dは若い女性で、素性は良く分からない。
ただ、無口なのか、それとも何かの弾みで嫌われてしまったのか、直接的にDと言葉を交わしたことはいまだにない。
B
B
Bの音頭で、一同は広場へと戻る。
その際、自らの足に蹴つまずき、Dが転びそうになる。
A
AはとっさにDの腕を掴み、結果として彼女は転ばすに済んだ。
A
声をかけると、Dは弱々しい声で漏らす。
D
どうやら、嫌われているというのは杞憂のようで、やはり彼女は口数が少ないらしい。
こんな状況でも、人間関係というものは大事であり、少しばかり気が楽になった。
B
そこは広場というよりオフィスのような感じだった。
もちろん、そこには椅子とホワイトボード、それに使うマーカーペンがあるだけ。
窓らしきものはなく、もちろん出口もない。
現状のことをホワイトボードに書き出していくB。
隣にいたEが、それを口にして読み上げる。
E
E
E
E
E
E
B
マーカーペンを置いたBが辺りを見回す。
A
B
Bはメモをテーブルの上に出す。
C
E
E
E
明らかに怒っている様子で怒鳴り散らすE。
でもAを含め、全員が分かっていたことであろう。
――誰かが死ねば、ここから出られる。
それすなわち――誰かを殺してしまえば、ここから出ることができるのだと。
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