頬を殴られた。
その感覚が微かに残っている。
水面には白く光る満月と、酷い作り笑いを浮かべた自分の顔がはっきりと、時にぼんやりと浮かんでいた。
二酸化炭素を深く吐く。
続いて、酸素を取り入れる。
見上げた空に浮かぶ月は、とても綺麗で、全てがどうでも良くなった気がして。
もしも世界が終わってしまうなら、今がいいだなんて思ってしまう程に。
___どうした?私はまだこんな所で終われないだろ?
問いかけた途端、ふっ、と気の抜けた笑いが零れる。
『あまりにも素敵な夜』 だから、なにかに怯えているのがつまらなくて。
終わりにしよう。だなんて微塵でも思ってしまった自分が何とも阿呆らしくて。
まだ鮮明に、くっきりと浮かぶ情景を噛み締めるように。
腹立だしさを覚えて、幾度も脳裏で愚痴を吐く。
どうして?私は何も悪くないはずだろ?
『早くまひさんに会いたい♡ あんな奴と早く別れればいいのに😡』
絵文字とハートつきの、見るからにヤバそうな女からのLINE。
そのLINEが届いている彼氏のスマホ。
前からヤバそうな彼氏だと思ってたから、これで別れる理由が出来た。と思ってしまう私は酷いやつだ。
ていうか、『まひ』ってなんだよ。私でもまだ『真尋さん』呼びだからね?
どうして知らない女の方が馴れ馴れしい呼び方で呼んでるの?そんなに親しかったの?
謎に嫉妬している自分に呆れた笑いが零れる。
目が熱くなるのを感じて、慌てて袖で拭う。
ガチャ、とドアの開く音がして、彼の帰宅を知らせる。
真尋
怠そうな顔をしてネクタイを緩めるのは、きっと上手くいかない事があったから。
無意識のうちに出てしまっている深いため息は、あまり寝れていないその疲れから。
小さな変化に、その変化の理由に何も聞かないで分かるくらい、私は彼にハマっていたのだろう。
真尋
無意識のうちに出てしまっていた。
なんで?と言う顔をしてこちらを向く彼。
なんでもないよ。と誤魔化してもバレてしまう事は、今までの付き合いで分かっている
勘違いだと信じたかった。
まだ、心のどこかでそんな気持ちがあった。
彼は、目をぱちくりとさせて、考えるように瞬きをして薄く口を開いた。
真尋
優しい声で紡がれた3言に、目の前が真っ暗になった。
確かめたかったのは自分なのに、言わなければよかった。なんて感情が出てきて情けない。
問いかける私に、彼は目を背けるだけだった。
どうしても諦めることが出来なかった。
真尋
どうしても受け入れられない真実に、捻り出した言葉に、彼は冷たく吐き出した。
ひんやりと、背中にナイフを突き刺されたような感じが、全身を襲った。
寒気がした。
真尋
真尋
真尋
今まで見せなかった態度。
剥がされた化けの皮。
何も言えないで彼を見つめると、鋭く睨まれた。
真尋
真尋
髪の毛を掴まれた。
痛くて、怖くて、だけど何も声が出なくて。
涙を流すと、彼はチッ、と舌を鳴らし、私を突き飛ばした。
カランと音を鳴らして転がっていった空き缶が、虚しい私を嘲っているようにみえた。
真尋
真尋
真尋
真尋
冷ややかな目でこちらを睨む彼の目を、こちらも睨む。
今まで彼の我儘も受け入れてきたのに、浮気なんてされて。
挙句には開き直って逆ギレなんてされたら、こちらにも怒りは込み上げてくるもので。
真尋
睨み続けていると頬を殴られた。
彼は近くにあったタバコに火を付けて、何口か吸うと、まだ火のついているタバコをこちらに向けてきた。
さすがにやばいと思って、逃げるように彼の家を後にした。
そんなことをされても
どんなに暴力を振られても、暴言を吐かれても、それでも彼を好きだという気持ちはまだどこかにあって。
最初は可愛いって思ったけど。
という彼の言葉に、胸をどきん、とならせてしまっている。
それでも、やっぱり腹は立ってきて。
重ねた体はなんだったんだ。だとか
もうよくわかんない感情になっている。
ただ、私は笑っていたいだけだった。
彼の横で。大好きな真尋さんの横で、いつまでも笑っていたいだけだった。
だから、彼の我儘にも付き合ったし、彼が喜んでくれるよう、お洒落もした。料理も勉強した。
でも、意味の無い事じゃなかったと思う。
どれも自分のためになることだと思う。
もう彼のことは忘れようと思う。
過去を振り返ったって、何にもならない。
彼との思い出をずるずる引きずってたって、何にもならないんだから。
だから、今日だけは。
『当たり前じゃない』 ことが起きた今だけは、涙を流す事くらい許してくれるよね。
えーっと...と困るように笑うその人は、背が高くかっこよかった。
迷惑だった?とその人は首を傾げた。
だめだ。今優しくされたら。
その優しさに、また涙がこぼれそうになる。
私の話すことに、その人は相槌を打つだけだった。
それでも、全てを受け止めてくれて、優しく聞いてくれて。
そう言うと、彼は口角を上げて
と困ったように、優しく笑った
呆れているのかもしれない
酷いことをした彼のことを嫌いになれない私に、呆れてしまったのかもしれない。
でも、もうそれでいい。
彼はゆっくりと頷くと、こっちです。と自分の住んでいるであろうマンションを指さした。
家に入ってから、ソファーに腰をかけた。
早々ネガティブになる私に、彼は呆れるようにそう言った。
そう言うと彼は驚いたように、えっ、と声を上げた。
確かに、今までだったら絶対そう言ってたと思う。
でも、なんか今は怯えてるのがつまらなく感じてきた。
だから、たとえ何をされようとも、人生なんて瞬き程の短いものなんだから、乗り越えてやるよ。
という強気な考えが私にはできるようになっていた。
芯のある声だった。
確かに。と思った。
なにかに怯える恐怖は追っ払ったのに、過去を思い出して悔やむことは、明日から。なんて言って。
なんだか情けなかった。
そうだといいですね。とコーヒーを1口含んだ。
深みのある味だった。
香り、味、とにかく全てがよかった。
少しだけ、どうでも良くなっていく気がした。
このまま、彼といたら全て少しずつどうでも良くなってくるのだろうか。
...なんて、それはないけど。
まるで見透かしたかのような言葉に、コーヒーを吹き出しそうになる。
不思議と、胸がどきりと鳴ることは無かった。
1度付けられた傷は、傷のまま変わらないけど
それと同じように、1度作った思い出は、思い出のまま変わらなくて
まだ色んな事を思い出してしまう。
私は彼をまだ愛していたかった。
あまりにも素敵な夜だから
[Alexandros]
なんか原曲の歌詞と違うような方向性の話となってしまった。
おひさです。月白です
あまりにも早い復帰だから(?)ですね
話変わりますが、今回元とさせて頂いた「あまりにも素敵な夜だから」の製作者(?)である[Alexandros]さんのメンバー、庄村聡泰(Dr)さんが局所性ジストニアという病気で勇退しちゃったんですよね。 私、アルバムの初回限定盤のDVD見て泣いちゃったんすよ。 もう彼のドラムが聞けないんだ。って
だから、この場を借りて(?)言わせていただきます。 今までありがとうございました。 健康に気をつけてこれからも頑張ってください。 Thank you.satoyasu
はい。
ほぼ一ヶ月ちょいで帰ってきました。
いやリア友が?活動再開してって?言うから?うんうん(暇だっただけ)
あと今日相棒のねこみみちゃんがバースデーガールらしいので。
相棒から活動再開のプレゼントを渡しに来ました。
もう相棒って字見るとドラマの方しか浮かんでこねぇんだよな。
まぁでも投稿頻度は鬼少ないと思います。
占いツクールの方で書いてるんで。
そっちもまぁ投稿頻度遅いんですけど。(おい)
これからも月白をよろしくお願いします。( ◜ᴗ◝) では、200タップピッタリなので 。 また次の投稿で。
コメント
6件
戻ってきたんすね! これからも楽しみにしてます!!w
本田翼になりたいんですけど、どうしたらなれますか? (活動再開後一発目のコメ欄に言うことかよ)
切ない感じすきです(