─今更思い出しても意味ないのに。
あの時の記憶が鮮明に蘇る。
めい
…ゔうっ……
めい
…嫌、!いやっ……!!
めい
おねがい、助けて…誰か……
目眩がした。
あいつの声。耳鳴り。シーツの擦れる音。
あるものないものごちゃごちゃになって、
僕を苦しめる。
めい
くろ、!
めい
はやく、…早く気づいて……!
「助けて」。
その一心で、ひたすらにもがき続ける。
めい
…あ……
棚のペン立てに目が着く。
立てられていたのは、白いカッター。
めい
…
僕はこれから抜け出そうと、
それに手を伸ばす。
くろ
─メイ!?
めい
くろ……?
めい
…おかえり、なさい
めい
ごめんね、こんなことしちゃっ─
気づけなかった自分が悔しい。
メイに駆け寄って、せめてもの償いのつもりで抱き締める。
めい
…わ
くろ
…ごめん…
くろ
ほんっとごめん
くろ
連絡もらったのに…確認できなくて……
めい
……びっくりしたあ…
めい
大丈夫だよ、そんなに気負わないで?
くろ
…腕、痛いよな
くろ
今手当てするから
めい
自分でできるよ…世話焼きだなあ
めい
…でも、また傷つけちゃった
めい
ごめんね、もう終わったことなのに
メイの目が潤む。
涙が零れ落ちて、傷の血が滲んだ。
めい
…うう
くろ
…怖かったな、ごめん
くろ
本当に…辛い思いさせた
めい
……いいんだよ、ぼくが悪い、の…
めい
自制、できなかったから…
……視界が霞んでしまう。
めい
…くろ……?
めい
……泣かないで、だいじょうぶ…
ただただ、自分が情けなかった。
辛いのは向こうのはず、なのに。
俺が泣いてどうするんだ。
めい
─あ
めい
…くろ……!
めい
僕大丈夫、!ほら、元気いっぱい!
くろ
……え
メイは涙を拭いて、こちらを見つめる。
そのまま俺の手を握って、にぱ、と笑ってくれた。
めい
元気だして!
めい
僕が元気なんだから、
めい
君は尚更元気でなくちゃ!
くろ
…
くろ
…うん、ごめん
めい
もう、またごめんばっかり言って…
めい
涙拭いて
めい
かっこいい顔がだめになっちゃうよ
─ああ、
この人には、いつまでも色褪せない何かを纏っているんだ。
それはいつでもきらめいて、
俺の視界を鮮やかに色付ける。
くろ
…そうだな
めい
…さて、心配かけちゃったね
めい
包帯…
くろ
俺がやるよ
くろ
…よれよれになるだろ
めい
ばれてた?ふふ…
くろ
いつもそうじゃないか、
くろ
「ぐちゃぐちゃだから助けてー」だの
めい
あはは…じゃあ、頼むね
めい
……それにしても、この癖治らないなあ…
めい
困っちゃう
くろ
…別にいいだろ
くろ
これも立派な、メイの一部だ
そっと、傷口の跡にキスをした。
メイは硬直したあとに、
ぼふん、とかわいらしい顔を真っ赤にした。
めい
…王子様感すごいね……
くろ
…王子様になれたらいいんだけどな
めい
この沼男め!…あははっ
fin