勉強よりテニスが好きな俺は、「ライバル」の意味を聞かれても それしか答えられない。
だからなのか。
俺はその言葉を自分には縁のない物と決めつけていた。
修学旅行後の振替休日(受験勉強をしていたかについては言わない物とする)が終わると、中体連に向けての過密スケジュールが待っていた。
なんとか それをこなして家に帰ると中体連期間中に与えられた大量の課題が迎えてくれた。(大会参加者に優しくない提出期限)
それも頑張って終わらせると もう中間テストが始まっていた。(テストの結果については言わない物とする)
頑張ってテスト返しも乗り超えると梅雨に突入した。
…5月病じゃなくて6月病に かかりそうな日々だった。
___そして今日は梅雨明け最初の部活。「もうすぐ期末テスト」とか周りが言ってるけど ちょっと何言ってるか分からない。
やっとラケットを触れる、と意気込んで参加した部活は顧問のお説教から始まった。
顧問
中体連お疲れ様。よく頑張った、と褒めたい所だがそうもいかない

顧問
春休みの大会に続き今回も いい結果を残せなかった。何故だか分かるな?

顧問
近頃のお前らは緩んでいる。コート整備も外周も だらだら喋りながらしているのが今回の結果に繋がっていると俺は思う

顧問
技術どうこうじゃない。気持ちの問題だ。
楽しむのも大事だと言ったがメリハリをつけろ。お遊びじゃないんだ

「出たよ、熱血劇場」
「勝って欲しいならそれなりの環境用意しろよ」
顧問のお説教を真剣な顔で聞いているのは最前列の1年生だけだ。
特別テニスが強い学校でもないので顧問の一方通行になってしまう、と言うのが俺が在籍しているテニス部の現状だ。
顧問
夏休みにも大会を控えている。3年にとっては引退前の最後の試合だ。心機一転して練習に挑んでもらう為に

顧問
助っ人を用意した

顧問はテニスコートの入り口に向かって軽く手を上げた。
細身の男が入って来た。
入って来た男を見て部員の間にどよめきが走った。
俺も息を呑んだ。
顧問
今年ここを卒業した溝口 圭佑(けいすけ)君だ

顧問
父親は勇名を馳せたテニスプレーヤーで、圭佑君自身も全国大会4連覇を達成している

顧問
今日から1週間圭佑君に指導に当たってもらう。「それなりの環境」を用意したので気合い入れるように

全国大会4連続覇者は にこやかな笑みをたたえたまま1歩前に出た。
溝口 圭佑
溝口圭佑です。1週間よろしくお願いします

たったそれだけの挨拶だけど割れんばかりの拍手が起こった。
散々文句を言っていた人達も手を叩いていたんだから相当だ。
まだ基礎体力作りがメインの1年生もコートに入ることを許された。
中学からテニスを始めたと言うフレッシュな人も当然いるので__ボールがフェンスを超えることも多かった。(俺も始めたばかりは そうだった)
……そのボールが、テニスコートの向かいの植木の手入れをしている元カレ先生の頭に面白いくらいヒットしている。
特に話したい人もいないので俺はフェンスを超えたボールを回収しに出た。
西谷 春翔
なんかさっきからボールが凄い当たるんだけど……俺能力者の餌食になったの?

山崎 孝太
…あの超有名な海賊漫画読んでるんだ………読んでない人は今のネタ絶対分からないですよ

山崎 孝太
まぁ的になったとかじゃなくて中途半端に背が高いからボールが当たりやすいんじゃないですか

西谷 春翔
適当にあしらわれた挙げ句ディスられた…

山崎 孝太
………あ、そっちにもボールが………………あー……踏んだ…大丈夫ですか

西谷 春翔
……これ俺知ってる…世界一静かな捻挫だ…

山崎 孝太
実在するテレビ番組ネタやめた方がいいですよ

「痛いよぉ…心が痛いよぉ」
「あーはいはい大変ですね」
コート内から圭佑が笑みをたたえたまま じっと見つめていた。