ライバル:張り合う相手
勉強よりテニスが好きな俺は、「ライバル」の意味を聞かれても それしか答えられない。
だからなのか。 俺はその言葉を自分には縁のない物と決めつけていた。
____結論から言うとそんなこと無かった。
修学旅行後の振替休日(受験勉強をしていたかについては言わない物とする)が終わると、中体連に向けての過密スケジュールが待っていた。
なんとか それをこなして家に帰ると中体連期間中に与えられた大量の課題が迎えてくれた。(大会参加者に優しくない提出期限)
それも頑張って終わらせると もう中間テストが始まっていた。(テストの結果については言わない物とする)
頑張ってテスト返しも乗り超えると梅雨に突入した。 …5月病じゃなくて6月病に かかりそうな日々だった。
___そして今日は梅雨明け最初の部活。「もうすぐ期末テスト」とか周りが言ってるけど ちょっと何言ってるか分からない。
やっとラケットを触れる、と意気込んで参加した部活は顧問のお説教から始まった。
顧問
顧問
顧問
顧問
「出たよ、熱血劇場」 「勝って欲しいならそれなりの環境用意しろよ」
俺の近くで3年の誰かがボソッと呟いた。
顧問のお説教を真剣な顔で聞いているのは最前列の1年生だけだ。
特別テニスが強い学校でもないので顧問の一方通行になってしまう、と言うのが俺が在籍しているテニス部の現状だ。
顧問
顧問
顧問はテニスコートの入り口に向かって軽く手を上げた。 細身の男が入って来た。
入って来た男を見て部員の間にどよめきが走った。 俺も息を呑んだ。
顧問
顧問
顧問
全国大会4連続覇者は にこやかな笑みをたたえたまま1歩前に出た。
溝口 圭佑
たったそれだけの挨拶だけど割れんばかりの拍手が起こった。 散々文句を言っていた人達も手を叩いていたんだから相当だ。
まだ基礎体力作りがメインの1年生もコートに入ることを許された。
中学からテニスを始めたと言うフレッシュな人も当然いるので__ボールがフェンスを超えることも多かった。(俺も始めたばかりは そうだった)
……そのボールが、テニスコートの向かいの植木の手入れをしている元カレ先生の頭に面白いくらいヒットしている。
特に話したい人もいないので俺はフェンスを超えたボールを回収しに出た。
西谷 春翔
山崎 孝太
山崎 孝太
西谷 春翔
山崎 孝太
西谷 春翔
山崎 孝太
「痛いよぉ…心が痛いよぉ」 「あーはいはい大変ですね」
春翔に手を貸しながら適当に慰める孝太を
コート内から圭佑が笑みをたたえたまま じっと見つめていた。
日も長くなり6時を回ってもまだ空は明るかった。
部室では速やかに帰り支度を整えて長居はしない、のが一応ルールだけど実際はスマホを用いてのお喋りタイムだ。30分は騒いでいる。
俺も澪さんとラインしてた。 いやだってライン来てたし。既読無視とか良くないし。
___そんな感じで一番最後に部室を出て鍵を職員室に返して校舎を出ると、テニスコートではまだ顧問と先輩が話していた。
顧問
溝口 圭佑
顧問
先輩が返事をする前に顧問が俺の存在に気づいた。 俺は挨拶だけして その場を離れようとしたが顧問に呼び止められた。
顧問
顧問
山崎 孝太
顧問は1人上機嫌に俺の肩をバシバシ叩くと(めっちゃ痛い)、こっちの返事も聞かずに校舎の方に歩いて行った。
この部活は顧問の一方通行だ……………肩めっちゃ痛い。
学校の前には緩やかな長い坂道がある。
顧問には「なんだかなぁ」と思いながらも、全国大会4連覇した先輩には普通に興味があるので2人で坂道を下っていた。
先輩は自分の実力をひけらかしたりせず丁寧に質問に答えてくれたので俺も緊張はしなかった。
___坂道の終わりに差し掛かった時、先輩から逆に質問された
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
苗字でも自分の名前を覚えてくれていたばかりか自分のテニスの腕を褒められた。
体が熱くなるのを感じながら、坂道を下りきり曲がり角を右折して学校の姿が完全に見えなくなった途端
先輩の笑顔が かき消えた。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
先輩は吐き捨てるようにそう言うと乱暴に頭を掻いた。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
先輩は一気にそこまでまくし立てると、ようやく俺の方を向いた。
部活の間ずっと見せていた人の良さそうな笑み___、は影も形も無く底冷えするような2つの瞳が俺を射抜いた。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
先輩は馬鹿にしたような笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んだ。
俺は先輩から目を放さずに渇いた口を動かした。
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
山崎 孝太
先輩は再び真顔に戻ると俺から視線を外した。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
山崎 孝太
※1:サイドラインと平行にボールを 打つこと。「ストレートボール」の略。 ※2:斜めにボールを打つこと。「クロスボール」の略。 ※3:相手がレシーブ出来ずそのままポイントとなるサービス。(サービス=サーブ)
溝口 圭佑
__ぞんざいで辛辣な物言いだけど先輩は正確に核心を突いてきた。
「基礎がしっかり出来てる」と褒められた時より体が熱くなった。 たぶん包み隠さず言ってくれてるからだ。
俺が頷くと先輩は少しだけ驚いた顔をした。
溝口 圭佑
山崎 孝太
山崎 孝太
溝口 圭佑
先輩は一瞬だけ、眩しい物を見るかのように目を細めた___気がした。
先輩は面白くなさそうに鼻を鳴らすと、駅前にある大きな公園に進路を変えた。
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
溝口 圭佑
駅前の公園で宣言通りの辛口指導を受けると だいぶ夜が近づいていた。
公園内で走り回っていた子供達もいつの間にかいなくなっており、学生やサラリーマンの往来が多くなっていた。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
山崎 孝太
山崎 孝太
溝口 圭佑
先輩はそこまで言って不意に口を閉ざした。
俺から顔を背けると柔らかい土を爪先で軽く抉った。
溝口 圭佑
溝口 圭佑
……日本一の座を4度も貰ってるのに何が不満なんだろう…
___と言う俺の内心が顔に出たらしい。
先輩は俺を一瞥すると再び馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
溝口 圭佑
「この話はこれで終わりだ」と言う風に先輩は自分のリュックサックのファスナーを乱暴に開けた。
その中から財布を取り出すと500円玉を俺に向かって無造作に放った。
溝口 圭佑
俺はなんとか無事に500円玉をキャッチすると小走りで自販機に向かった。
___、けど先輩のリクエストが非常に抽象的であることに気づいた。
なんでもいいが一番困る……。 自販機に着いたはいいけど頭を抱えていると___
相原 澪
肩を叩かれた。
相原 澪
山崎 孝太
山崎 孝太
相原 澪
相原 澪
山崎 孝太
相原 澪
澪さんは烏龍茶を買うと ひらりと手を振って歩いて行った。
澪さんの姿が見えなくなるまで見送っていると
溝口 圭佑
打って変わって冷たい声が背中を刺した。
溝口 圭佑
山崎 孝太
先輩は俺からひったくるように炭酸水を受け取るとすぐにキャップを開けた。
溝口 圭佑
先輩は三分の一ほど炭酸を空にすると澪さんが歩いて行った方を眺めながら訊いてきた。
山崎 孝太
溝口 圭佑
山崎 孝太
溝口 圭佑
溝口 圭佑
溝口 圭佑
俺がその真意を聞く前に先輩はもう一度ペットボトルを傾けた。
溝口 圭佑
俺が返事をする前に先輩は踵(きびす)を返すと、もう俺の存在は忘れたかのように颯爽と歩き去った。
___この数時間で先輩の印象はかなり変わったけど 最後は正直癪に触ったけど
なぜか「嫌な人」とは思えなかった。
結局俺は先輩の姿が見えなくなるまで その場に立ち尽くしていた。
コメント
9件
個人的に孝太君と澪さんのペアが好きなので2章、すごい楽しみです...! 勉強があまりはかどってないように見えますが...(応援してます)あんなにグサグサ色々言われても上手くなろうとする孝太君がとても素敵です...✨ 澪さんともお幸せに... 第1章、お疲れ様でした!これからも楽しみにしてます!!!
先輩もきっと過去に何かあったんだろうなって思う歪み(?)方ですね… それを書き分ける非リア弟さん凄い…! 孝太くんのひたむきな姿と好きって気持ちが純粋でキュンとしました()
柚月「読んでくださりありがとうございます。 第2章は僕の出番が全く無いらしいのでこっちに出張して来ました。 タグに「#ドラマ」とあるように第2章主人公は孝太君です。実はお母さんの次に扱いが難しいらしいです。今回もかなり時間をかけて書いてました。 でも僕は作者がTwitterで遊びすぎなだけだと思うけど」