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デートプラン

1 - 短編

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2025年11月23日

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11月14日。 僕とまゆが別れた記念日だ。 ​ 別れてから一年が経ったというのに、この日になると僕はいつも、どうしようもなく感傷的になる。仕事から帰宅しても、手につくことは何もなかった。

リビングのソファに座り、ぼんやりと天井を見上げる。

アキラ

何か、あの頃のものが残ってないかな

無性に過去の記憶を辿りたくなった僕は、普段は開けることのない、棚の奥にある「思い出の箱」に手を伸ばした。中には、映画のチケットの半券、一緒に買ったキーホルダーがあった。そして、一番底に、他のものに紛れて無造作に押し込まれていた、使い古されたメモ帳に目がついた。

そのメモ帳を手に取り、何の気なしに開いたそのページに、僕は目を奪われた。

「アキラとのデートプラン」

そこには達筆とは言えないが、几帳面に書き込まれた日付と、いくつかのスポットが記されていた。

10:00 学芸大学駅集合!→新しいカフェのモーニング

12:00 公園のボート!→お弁当(タマゴサンド)

15:00 プラネタリウム→季節の星座解説

18:00 イタリアン→窓際の席予約済

20:00 わたしの家まで送る

この「わたし」とは、一年前に別れた「まゆ」のことだった。

これは、僕たちが決して辿ることのなかった、彼女が思い描いた「理想のデートプラン」だ。その日付は、僕たちが別れるわずか一週間前。なぜ、こんなものが。そして、なぜ僕には見せてくれなかったのだろう。

胸の奥に、チクリとした痛みが走った。同時に、不思議な衝動に駆られた。

このプランを、一人で辿ってみよう。別れの記念日に、過去を巡るなんて、全くもって馬鹿げた考えだったが、その衝動を抑えることはできなかった。​​​​

次の週末、僕はメモを手に学芸大学駅に降り立った。

10:00 新しいカフェのモーニング

メモにあったカフェは、今は別の店に変わっていた。それでも僕は、かつての場所を見上げ、もし彼女と来ていたら、どんな話をしていたかを想像した。

新しい店は、以前僕たちがよく行っていたチェーン店とは違い、手作りの焼き菓子が並ぶ小さな店だった。

アキラ

まゆは、いつも新しいものを見つけるのが好きだな。僕はいつも同じ店ばかり選んでたから、飽きてた?

彼女は笑って

まゆ

でしょ?

と答えるのだ。

次に、僕は公園へ向かった。

12:00 公園のボート!→お弁当(タマゴサンド)

ボート乗り場には、楽しそうなカップルや家族連れが列をなしていた。僕はボートには乗らず、ベンチに座ってお弁当屋で買ったタマゴサンドと唐揚げを食べた。

青い空の下、以前、彼女が手作りのお弁当を持ってきてくれたことがあった。その時

まゆ

今度は二人でボートに乗りながら食べたいね

と、彼女が嬉しそうに言っていたことを思い出す。

僕は結局、その約束を叶えられずに終わってしまった。

午後は、プラネタリウムへ。

15:00 プラネタリウム→季節の星座解説

満点の星空がドームいっぱいに広がる。僕の隣には誰もいない。解説員の落ち着いた声が、星座にまつわる物語を語る。以前、彼女は僕に

まゆ

ねえ、もし生まれ変わるなら、何になりたい?

と尋ねたことがあった。

僕は

アキラ

うーん、猫かな

なんて曖昧に答えたが、彼女は

まゆ

私は、あの星になりたいな。遠くからでも、大切な人を見守れるように

と、静かに言っていた。その言葉が、今、胸に深く響いた。

夕食はイタリアンレストラン。

18:00 イタリアン→窓際の席予約済

予約はしていないが、運良く窓際の席に座ることができた。店内のBGMは、以前僕たちが二人で初めて行ったレストランで流れていた、少し古い洋楽だった。

彼女は

まゆ

この曲、好きだったの覚えてる?

と、僕の顔色をうかがうように言ったことがあった。

その時、僕は

アキラ

あぁ、そうだったっけ

なんて、素っ気なく返してしまった記憶がある。

彼女は、本当に僕とこのデートを楽しみたかったのだろうか。それとも、僕に何か伝えたいことがあったのだろうか。

そして、最後の項目。

20:00 わたしの家まで送る

僕は、別れて以来一度も訪れていない彼女の家へと向かった。夜の住宅街は静かで、懐かしい道が僕を吸い込んでいく。彼女のアパートの前まで来ると、明かりが灯っていた。

その時、メモ帳の最後のページに、さらに何か書き足されていることに気づいた。それまで見落としていた、小さな文字。

追伸:この日、もし君が私のデートプランに来てくれたら、一つだけ伝えたいことを言うこと。

その文字の下には、さらに小さな、まるで誰にも見つからないように隠されたような一文があった。

まゆ

「好きだよ」って、もう一度。

僕が新しいものが苦手で、いつも同じ場所ばかり選んでいたこと。

彼女が楽しみにしていたボートの約束を、僕が果たせなかったこと。

彼女が僕を見守りたいと星に願っていたこと。

僕が彼女の好きな曲を忘れてしまったこと。

すべてのことが、この一言に集約されていた。

好きだよ

僕の鈍感さが、傲慢さが、そして愛情の欠落が、彼女の最後の言葉を埋もれさせていた。

僕は、アパートの明かりをじっと見上げた。胸に去来したのは、後悔だろうか。それとも、今になって知った、遅すぎる告白への戸惑いだろうか。

もしあの時、僕がこのメモを見つけていたら。

もしあの時、僕が彼女の気持ちに気づいていたら。

開かれることのなかったデートプラン。伝えられることのなかった「好きだよ」という言葉。

静かな夜空の下、僕はただ、立ち尽くしていた。​

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