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日本の名作シリーズ 夢十夜

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日本の名作シリーズ 夢十夜

15 - Re:夢十夜(第九夜) 2

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2022年11月18日

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語り手

冷飯草履の音がぴちゃぴちゃする。

語り手

それが拝殿の前でやむと、母はまず鈴を鳴らしておいて、

語り手

すぐにしゃがんで柏手を打つ。

語り手

たいていはこの時梟が急に鳴かなくなる。

語り手

それから母は一心不乱に夫の無事を祈る。

語り手

母の考えでは、夫が侍であるから、弓矢の神の八幡へ、こうやって

語り手

是非ない願をかけたら、よもや聴かれぬ道理はなかろうと一図に思いつめている。

語り手

子供はよくこの鈴の音で眼を覚まして、四辺(あたり)を見ると真暗だものだから、

語り手

急に背中で泣き出す事がある。

語り手

その時母は口の内で何か祈りながら、背を振ってあやそうとする。

語り手

すると旨く泣きやむ事もある。

語り手

またますます烈しく泣き立てる事もある。

語り手

いずれにしても母は容易に立たない。

語り手

一通り夫の身の上を祈ってしまうと、今度は細帯を解いて、

語り手

背中の子を摺りおろすように、背中から前へ廻して、

語り手

両手に抱きながら拝殿を上って行って、

好い子だから、少しの間(ま)、待っておいでよ

語り手

ときっと自分の頬を子供の頬へ擦りつける。

語り手

そうして細帯を長くして、子供を縛っておいて、

語り手

その片端を拝殿の欄干に括りつける。

語り手

それから段々を下りて来て二十間の敷石を往ったり来たり御百度を踏む。

語り手

拝殿に括りつけられた子は、暗闇の中で、

語り手

細帯の丈のゆるす限り、広縁の上を這い廻っている。

語り手

そう云う時は母にとって、はなはだ楽な夜である。

語り手

けれども縛った子にひいひい泣かれると、母は気が気でない。

語り手

御百度の足が非常に早くなる。

語り手

大変息が切れる。

語り手

仕方のない時は、中途で拝殿へ上って来て、いろいろすかしておいて、

語り手

また御百度を踏み直す事もある。

語り手

こう云う風に、幾晩となく母が気を揉んで、夜(よ)の目も寝ずに心配していた父は、

語り手

とくの昔に浪士のために殺されていたのである。

語り手

こんな悲しい話を、夢の中で母から聞いた。
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