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咲蓮

…お兄ちゃん

小萩

それ、見たのか?

咲蓮

あ、はい…

小萩

小萩

はぁー……

お兄ちゃんは大きなため息をつくと、 床に座り込んでしまった。

顔は腕で隠れていてよく見えないが、 顔どころか耳まで赤く染まっているように 見える。

小萩

…どこまで見たんだ

咲蓮

えっと、…
いちおう、最後まで

お兄ちゃんの顔がさらに赤くなる。

しばらく経ったころ。

小萩

…手、洗ってくるから
そこで待ってろ

咲蓮

うん

ちょうど温かいものが欲しかったので、 お茶を汲んで待つことにした。

咲蓮

日記のことだけど…
勝手に見ちゃってごめん

小萩

本当だよ、ったく…

咲蓮

…ねぇ、あの日記に
書いてることって、

咲蓮

全部本当なの?

小萩

小萩

本当に心から思ってる
ことじゃなきゃ、わざわざ
書かねぇよ

小萩

…ずっと、咲蓮のこと
守っていたい

小萩

前からそう思ってたんだ

小萩

仲が良かった友達も
引っ越していって、
日に日にお前の顔が暗く
なってくのがいやだった

小萩

だから、…

そこで言葉は途切れてしまったが、 その続きもあるような気がしたので、

私は迷わずに言った。

咲蓮

私のこと、守りたいって
言ってくれた理由は
それだけ?

図星を指されたらしいお兄ちゃんは、 顔を僅かに下に向けたあと、私の方を 向き直った。

小萩

…いや、他にもある

小萩

咲蓮、霞は俺達は生まれた
ときからずっと傍に
いたって思ってるだろ?

咲蓮

うん…

咲蓮

え、違うの?

小萩

あぁ

小萩

本当は俺たちが三歳の
ときに家に来たんだ

小萩

お前と霞を比べたら
当然霞のほうが大きい
わけだから、

小萩

来てからしばらくは霞に
近づかれたらきまって
泣きわめいてたよ

小萩

だから、霞もどうやったら
咲蓮を泣かせずに済むんだ
って俺に相談しに来てた

私は霞とはとても仲が良かった。

だから、お兄ちゃんが今教えてくれた ことはすぐには信じがたく、

飲み込むのには時間がかかった。

小萩

それからしばらくして、
霞と仲良くなったお前を
見たときには安心したよ

覚えている。

たしか、お兄ちゃんが風邪を 引いていたときだった。

霞がひとりで看病しているのを見て、 居ても立ってもいられなかったから、

一緒に看病したのがきっかけだっけ。

小萩

ただ、あのときも
そうだけど…泣いている
お前の顔を見て、

小萩

咲蓮の泣き顔は見たくない

小萩

そう思ったんだ

小萩

とくに、俺のせいで
泣かせることなんて絶対に
したくなかった

小萩

でも、昨日は逆に
傷つけたし、今までも…
遠ざけてたことに
気づいてた

小萩

ごめんな。
兄として情けないよ

咲蓮

そんなことない!

いつの間にか口から勝手に 言葉が出ていた。

せっかく言葉にできたんだ。

だからその勢いを失わないように、 私はさらに言葉を続ける。

咲蓮

こうやって話さなきゃ
わからなかったけど、
お兄ちゃんが私のために
そう思ってくれてた
だけで、私は十分嬉しいよ

咲蓮

…それに、日記を見たときに
気づいたの

咲蓮

家事を一人でやってた
のも、夜ご飯のときに
自分のご飯をすこしわけて
くれたのも、それから、

咲蓮

お祭りに行くなって
言ってくれたのも、全部
私のためでしょう?

小萩

…そうだよ。これが、
俺の本当の気持ちだ

咲蓮

うん。全部、
話してくれてありがとう

咲蓮

それから、お兄ちゃんに
ずっと心配されるほど、
私はもう弱くないよ

小萩

…そっか

小萩

いつの間にか
咲蓮も大きくなったな

小萩

なぁ、咲蓮

咲蓮

ん?

小萩

よく考えたらさ、
祭りって今日だったよな

その言葉にはっとした。

咲蓮

で、でも…

言葉がしどろもどろになっている 私を見て、兄も私の心の内を察した のだろう。

すると、兄は私をみて柔らかい笑みを 浮かべた。

小萩

あのときはああ言った
けど、今は一緒に行きたい
って思ってる

それを聞いて、私の中の混ざった気持ちが 晴れていくような気がした。

咲蓮

…いいの?

小萩

もちろんだ

咲蓮

じゃあ、行こう!

私が笑いかけると、兄も頷いた。

空は夕日の光を受けて、七色にきらめいて いる。

風がそっと吹き抜けるたび、色は茜から 紫へと静かに移り変わっていく。

足元では草花が涼しげに揺れ、遠くからは 鳥の鳴き声がかすかに聞こえてくる。

頬を撫でる風はひんやりとしていて、 昼間の暖かさが少しずつ遠ざかって いくのを感じた。

胸の奥がそわそわと弾む。

どんな景色が待っているのだろう。

どんな出会いがあるのだろう。

家の外へと足を踏み出そうとした、 そのときだった。

ビュウウゥゥ…!!

咲蓮

わっ…!

小萩

っ!さ、咲蓮!

風が、大きな羽で包み込むように私たちの 周りをやわらかく舞い上がった。

見間違いかもしれないけれど、その中には 桃色、水色、紫色の花たちが 散りばめられているようにも見えた。

風が収まり、次に目を開けたとき、

私たちは目の前の景色に驚かずには いられなかった。

𝓉ℴ 𝒷ℯ 𝒸ℴ𝓃𝓉𝒾𝓃𝓊ℯ𝒹

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