紗良
ほら、早く!

奏音
…プッ

紗良
何笑ってんの!?

奏音
ごめんごめん。あまりにも紗良が、さらに似てたから。

奏音
亡くなったさらにそっくり。

紗良
そうなの?

奏音
うん。思いついたらすぐ行動に移すの。

奏音
いつもぐだぐだで原動力はどこから来てるんだか分からなかったけど。

奏音
さらは、紗良のように、心優しい人だったよ。

紗良
そ、そんな、

紗良
早く奏音のピアノ、聞かせて!

奏音
…うん。

紗良
奏音は何が得意?

奏音
うーん。得意なのは、ないかな。

奏音
全部駄目って言われてたからさ。

紗良
じゃ、じゃあ、どんな曲が好き?

奏音
…悲愴。ベートーヴェンの。

紗良
へぇ。あれかぁ。

奏音
あの曲、ベートーヴェンが難聴になってからできた曲なの。

紗良
そうなの!?

奏音
耳が聞こえなくなってもどうしてこんな美しい曲を作れるんだろう。

奏音
ベートーヴェンの悲しみを描いた作品、らしいけど。

奏音
この曲を弾いてる時は父さん達のことを忘れて弾けるから、好きだった。

紗良
へぇ〜。曲ひとつにこんな思い入れがあるんだ。

紗良
ねぇ、弾いてみてよ!

奏音
い、今?

紗良
うん!奏音の弾くピアノ聞いてみたいの!

弾いてる時はあの苦い、がっかりするような目が蘇ってくるの。
ひ、弾かなきゃ。さらがあんなに目をキラキラさせて待ってる。
紗良
か、奏音?

紗良
どうしたの!?

奏音
え…?

気がつくと私は泣いていた。目に涙をいっぱいに溜めて。
奏音
ご、ごめん。

紗良
なんか変なこと言っちゃった!?

奏音
ううん。紗良は何も悪くないよ。悪くないけど…。

奏音
ピアノを見るとさ、お母さんの光のない目が、お父さんのがっかりしたような目が蘇ってくるの…。

紗良
ご、ごめん。私知らなくて。

奏音
紗良が悪いんじゃないよ。

奏音
紗良のは?聞かせてよ。

紗良
私はそんな上手じゃないし…。

奏音
うそ。絶対綺麗よ。

紗良
じゃあ、何が聞きたい?

紗良
あ、悲愴弾けるよ!

奏音
聞いてみたい!

紗良
弾けるかなー。
