ハカセ
とうとう僕達の番か。
セイヤ
大丈夫だとは思うけど、いざとなると緊張するな。
セイヤ
先に謝っておく。
セイヤ
上手くいかなかったらごめん。
マドカ
ちょっと、縁起でもないこと言わないでくれる?
マドカ
みんな、セイヤの案を信じて乗ったんだから、もうちょっと堂々としてなさいよ。
マドカ
大丈夫よ。
セイヤの案なら志賀も文句は言えない。
仮に裏切り者が出ても――すぐに分かるようになってるからね。
マドカの視線は当たり前のようにシズカのほうにら向けられていた。
シズカ
わ、私は裏切ったりしないよ。
マドカ
どうだか。
ツヨシ達のやり方をしてたら、案外私に1票が入っていたかも。
シズカ
そんな……。
ヨウタ
とにかく、みんなもっと自信を持てよ。
ヨウタ
俺達は上手くやったし、誰も裏切ってなんていない。
アカリ
うちらの友情パワーを見せてやろうよ。
マドカ
友情パワー……。
やめてよアカリ。
ぞっとする。
椅子にもたれかかったまま、静かに鼻をすすっている。
セイヤ
なんでもかんでも担任の好きにはさせない。
ヨウタ
あぁ、一矢報いてやろうぜ。
担任は投票箱から用紙を取り出すと、セイヤのほうに向かって笑みを浮かべた……ような気がした。
志賀先生
それじゃ開票だ。
志賀先生
まず、アカリが1票。
志賀先生
2票目は――シズカか。
志賀先生
3票目はハカセだな。
志賀先生
4票目は……マドカ。
セイヤ
いいぞ。
残り2票だ。
志賀先生
5票目――ヨウタ。
志賀先生
6票目は……セイヤか。
志賀先生
全員が1票ずつ獲得。よって、全員が同率1位になるな。
志賀先生
もちろん、得票2位の人間はいないわけだから、セイヤ達は――全員無事生き残り決定だ。
本当は声を出して喜びでもしたかったが、ツヨシ達のこともあり、素直に喜べなかった。
志賀先生
うまいことやったなぁ。
これ、誰が考えたんだ?
ヨウタ
セイヤだよ。投票2位が殺されるなら、2位になる人間を出さなければいいってな。
志賀先生
ほう、でもよく周りのやつらを信じることができたな。
志賀先生
口裏を合わせていたはずのツヨシ達だって、誰かが裏切ってナギが死んだのに。
セイヤ
誰かが裏切るかもしれないなら、それができない環境を作ればいいんだ。
セイヤ
俺達が決めたルールはたったひとつだけ。
セイヤ
それぞれが、自分自身に投票すること。
マドカ
先生、投票は他の班の人間にしてはいけないってルールがあったでしょ?
マドカ
でも、投票に関して、それ以外の取り決めはなかった。
セイヤ
だから、自分自身への投票は禁じられていないと考えたんだ。
ハカセ
そして、自分自身に投票することで、裏切り者がすぐに分かるようになる。
ハカセ
全員が自分自身に投票するわけだから、仮に裏切り者が出た時、その裏切り者の得票数は0になる。裏切るってことは、自分以外に票を入れることになるからね。
ヨウタ
万が一にも裏切ったやつがいた場合、そいつは得票数が0になるから、一発で誰が裏切ったのか分かるわけだ。
セイヤ
今後のことを考えると、班の中で裏切り者だと認定されるのは困るだろ?
信頼できないやつってことになるからな。
セイヤ
だから、こうすれば裏切りは起きないと考えたんだ。
セイヤ
絶対じゃないことは分かっているけど、これが最適解だと思ったんだよ。
マドカ
そのおかげで、私達は安心して自分に投票できたわけ。
志賀先生
おー、意外だなぁ。
セイヤがこの土壇場で、そんなアイディアを出すなんて。
志賀先生
先生、ちょっと予想外だったぞ。
ヨウタ
――どうだ!
お前の思い通りにはさせねぇぞ!
ヨウタ
ツヨシ、仇は取ってやっ……。
カナ
やめて!
ツヨシ君はすごく傷ついてるの!
カナ
今はそっとしておいてあげて!
マドカ
へぇ、あの女言うわねぇ。
ナギのことを殺しておいて、よくも平然としていられるわ。
ハカセ
マドカ、それは確定したわけじゃない。
憶測でものをいうのは混乱を招くだけだ。
マドカ
ハカセ、あんたはガリ勉だから知らないのよ。
マドカ
このクラス、あんたが思ってるより闇が深いから。
マドカ
まぁ、セイヤやヨウタにも分からないと思うけどね。
アカリ
女子の間じゃ、割と仲が良い悪いみたいのあるよね。
マドカ
派閥もあるし、カーストもね。
マドカ
男子って馬鹿だから、そういうのなくて羨ましいくらい。
ヨウタ
馬鹿で悪かったな。
志賀先生
よーし、そろそろ次行くぞ。
志賀先生
セイヤ達のせいで存在薄くなってるけど、まだ1班残ってるから。
セイヤの機転によって、班の全員が生き延びることができた。