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まとめ【短編集】

10 - クリスマスベゴニアの砂糖菓子

♥

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2020年12月25日

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華奈

もうすぐ、午前0時だ──

『12月25日午前0時ちょうど、人気のないイルミネーションのそばにあるベンチに座ると、好きな人に会える』

同じ大学の先輩から、聞いた噂話

華奈

(ここで間違いないよね……)

スマホで何度も場所を確認する

1分前──

華奈

…………

緊張した面持ちで、ベンチの前に立つ

5、4、3……

2、1……

華奈

0になった瞬間、華奈はベンチに腰を下ろす

華奈

…………

しばらくそのままでいたが、とくに変化はなかった

虚しく時間だけが過ぎていく…………

華奈

……ただの噂だったのかな

吐息をした

コツコツ

華奈

(……! 足音……)

華奈

華奈

草介……!

ぱっと顔を上げた

そこにいたのは…………

狼面の女

…………

華奈

……!?

オオカミの面をかぶった女が華奈を見下ろしていた

狼面の女

驚かせたかしら?

華奈

…………

狼面の女

こんな時間に、ひとりだと危ないわよ

華奈

……あなたは?

狼面の女

私? ──ムエルテ

華奈

ムエルテ(狼面の女)

隣、いいかしら?

相手の了承を得て、ムエルテは隣に腰かける

ムエルテ(狼面の女)

なぜ、あなたがここにいるのか

ムエルテ(狼面の女)

だいたい見当はついてるわ

華奈

華奈

……どうしても、彼──草介に……

華奈

……会いたかった

ムエルテ(狼面の女)

あなたの思い人?

黙ってうなずく

華奈

──草介は、あたしの幼なじみで

華奈

小さいごろから、いつも一緒だった……

華奈

あたしのお兄ちゃんとも、けっこう仲よくて

ムエルテ(狼面の女)

…………

華奈

同じ高校に入ったときは、嬉しかったな……

華奈

そのうち、草介を意識するようになって……

華奈

思いを伝えようとしても

華奈

いざとなったら、全然ダメだった──

華奈

いつもの癖で、軽口をたたいちゃって

華奈

華奈

──次こそ、がんばればいいやって思ってた

華奈

あの日までは…………

華奈

草介が突然、いなくなったの……

華奈

草介だけじゃない、うちのお兄ちゃんもいなくなった…………

なんの前触れもなく、ふたりは失踪した

心当たりはすべて探したが見つからず、警察に捜索願を出した

警察はふたりの行方を捜索したが、手がかりは掴めなかった

それから、数年の月日が経つ

華奈

華奈

後悔してるんだ

華奈

草介に好きって、言えなかったこと……

ムエルテ(狼面の女)

…………

華奈

だから、会えたら……ちゃんと──

目に涙を浮かべる

華奈にハンカチを手渡す

ムエルテ(狼面の女)

使って

華奈

……ありがとう

涙を拭いた

ムエルテ(狼面の女)

ムエルテ(狼面の女)

残念だけれとも……

ムエルテ(狼面の女)

あなたが思い人に、会うことはないわ

華奈

……え?

華奈

…………どういうこと?

ムエルテ(狼面の女)

それは自分がよく、知っているはずよ

華奈

…………

ムエルテ(狼面の女)

ちょうど、1年前──

ムエルテ(狼面の女)

警察から『ふたりを、発見した』という連絡があった──

ムエルテ(狼面の女)

ここから遠く離れた、人気のない森の奥で──

華奈

聞きたくない……

耳をふさぐ

ムエルテ(狼面の女)

一部ミイラ化した遺体が2体、発見された…………

華奈

……やめて

そのまま話し続ける

ムエルテ(狼面の女)

その遺体は仰向けで倒れ

ムエルテ(狼面の女)

互いに指を絡ませ、手を繋いでいた

ムエルテ(狼面の女)

まるで“恋人“のように────

華奈

華奈

どうして……

華奈

お兄ちゃんだったんだろ……?

ムエルテ(狼面の女)

最初から、ふたりの関係を知っていたのね

華奈

……草介が切なそうに、お兄ちゃんを見つめてたから

華奈

なんとなく、わかったの……

華奈

華奈

それでも、草介に振り向いてほしかった

華奈

お兄ちゃんじゃなくて、あたしを見てって…………

ムエルテ(狼面の女)

…………

華奈

あたしが一番、草介のことが好きだったのに…………

ムエルテ(狼面の女)

今でも、思い人が忘れられないのね

華奈はうなずき、嗚咽をもらす

そんな彼女を気づかうように、ムエルテは背中をさすった

──数十分後

ムエルテ(狼面の女)

落ち着いた?

華奈

……少し

ムエルテ(狼面の女)

そう

ムエルテ(狼面の女)

ムエルテ(狼面の女)

もうすぐ、夜明けね

華奈

…………

ムエルテ(狼面の女)

そろそろ、あなたは帰った方がいいわ

華奈

……あたし、これからどうすればいいんだろう?

ムエルテ(狼面の女)

前へ進むしかない──

ムエルテ(狼面の女)

今言えるのは、それだけよ

視線を向けたときには、ムエルテの姿はなく、ベゴニアの花びらが散っていた

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